別荘を500万円で個人間取引…警察の家宅捜索まで発展した「買主」の恐ろしすぎる正体

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昨今、ヤフオクやメルカリ等々のサイトによる個人間取引が増加しているのは周知の事実です。この個人間取引の対象が仮に書籍や洋服、雑貨などであれば、売買後の「トラブル」と言っても、それほど大きな問題にはならないだろうと想像します。しかし、これが不動産の個人間取引の場合には、数々の大きな問題をはらむのです。今回は、不動産の個人間売買における「売主」がトラブルに見舞われたケースをご紹介します(実話ですが、名称や場所等々を変えています)。
水谷氏(仮名)は、父親から相続を受けた中部地方にある別荘の処分に悩んでいました。その立地は市街地から離れ、別荘地といっても無名の場所でした。水谷氏は、数年前から、その物件の地元の不動産屋さんやリゾート物件専門の業者さんに売却の相談をしていました。しかし、数年間、見学者すらほとんど現れなかったそうです。
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そこで彼は、地元の人々が日用品の貸し借りや売買の情報を掲載している「ネット掲示板」に「500万円で売却したい」と掲載してみました。すると、早速A氏という方からメールが来ました。そしてA氏と水谷氏は、東京のホテルのロビーで会うことになったのです。実際にお会いしたA氏は、お子さんを連れた子煩悩そうな40代のよきパパでした。そして「以前から環境の良い自然豊かな田舎で、子供を育てたいと思っていました」と、子供の教育について熱心に語ったそうです。そして、売買の話が進んでいくうちに、A氏は水谷氏にこう言ったのです。「一つお願いがありまして。最初に200万円お支払いし、残りの300万円は月々50万円の6回分割払いにしてほしい」と。人の良い水谷氏はこの申し出に応じてしまいました。さらには残金が払い終わる前に、Aさん家族の引っ越しを認めてしまったのです。実際の売買契約書は、インターネットから簡単な契約書の雛形をダウンロードし、水谷氏自身が作成したそうです。水谷氏は会社の総務部で働いているので、売買契約書を作ること自体は、それ程困難ではなかったと思われます。その後、何が起こったか。ところが、A氏が入居した後、分割払いだった残金は一度も支払われませんでした。何度も催促しましたが、そのうちにA氏と連絡がとれなくなってしまったのです。困りはてたまま約半年が経過した頃、なんと警察から水谷氏に電話がきました。「A氏を傷害罪で逮捕したので、家宅捜査したい」と。不動産の登記簿上の名義は未だ水谷氏なので、登記名義人=所有者である水谷氏へ警察が連絡してきたのです。水谷氏の立会いのもと警察と別荘に行くと、そこはすでにもぬけの殻。さらに、家の中は驚くほど改造され、かつ荒れ放題でした。庭には大きな穴が掘られ、大量に何かを燃やした後が残っていました。警察曰く、「A氏は複数の人間を雇ってこの家に住まわせ、タコ部屋のように使っていた。そして、この家から毎日、その従業員を建物解体現場に通わせていた。しかし、ある現場で元請けの業者との間に金銭支払いに関するトラブルが発生し、言い争いの中でA氏が相手企業の幹部を刺し、事件になった」と。しかも、A氏は前科のある反社会的組織の一員だと言うのです。違法薬物を使用していた疑いがあり、その薬物を家に隠しもっているのではと警察が家宅捜査を依頼してきたとのことでした。Photo by iStock 実は、警察は当初、水谷氏も「共犯」だと考えていたようです。家を貸与した(実際は貸与したわけではありませんが)水谷氏も当然ながら、様々な事情を知った上で家を貸していた「共犯」なのだろうと警察は考えたのです。A氏の周到な計画とはA氏は、今回の売買にあたって、以下のように計画を練ったのではないかと思われます。「通常の取引(つまり不動産業者を仲介業者として入れては)では、自分は家を借りることも買うことも難しいだろう。よって、不動産業者を入れず個人間売買ならどうにかなるかもしれない」と。そこでA氏は個人間売買専門のサイトで物件を探したのでしょう。また、A氏は水谷氏が「売るに売れない物件」をもてあましていたことを見抜き、自分の思い通りの取引内容に誘導していけると踏んだのではないでしょうか。そして、買主として怪しまれないように自分の子供を取引の現場に連れて行き、よきパパ、よき家庭人を演じたと思われます。 話しは少し逸れます。『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007年)というアメリカ映画があります。第80回アカデミー賞で作品賞を含む8部門にノミネートされ、主演男優賞と撮影賞を受賞した名作です。20世紀初頭のアメリカ西部を舞台に、一巻千金の「油田開発」に取り憑かれ、かつ実際に油田を数多く掘り当てた男の強欲と人生を描いています。この映画の中で、主人公が石油が出る可能性のある土地を所有者である農家から可能な限り安く買収しようとする場面で、必ず自分の子供を連れて行くのです。家庭的な親を演じ、相手を信用させようとします。私は、水谷氏からこの話しを聞いた時、この映画を思い出しました。仲介業者なら防げたトラブルなのか水谷氏とA氏との売買において、しっかりした不動産会社が仲介業者として入っていたならば、このような事態は防げたのかと言えば、おそらく防げたと思います。少なくとも、売買代金の全額が支払われていない段階で、別荘を買主に引き渡すような契約はまずしなかったでしょう。もう一点、相手の正体、本性、意図を契約前に見抜いて、この取引を事前にストップすることができたか? と言われれば、それはその仲介に入った者の技量と経験次第だと思われます。宅地建物取引業者は、反社的な人物又は組織かどうかを契約前にチェックすることになっています。当然ながら、不動産売買契約書にも反社的勢力を排除するための特約事項を二重三重に記載することが義務付けられています。また、各不動産業界団体は、反社的な人物、組織であるかを照会できるデータベースも備えています。しかしながら、そもそも「どうも怪しい」と思わなければ、こういった調査も行われないでしょう。たとえば銀行の預金通帳をもっているかどうかといった基本的かつ効果的な確認作業も、相手の心象を悪くする可能性があります。ですから、なんらかの確証がなければ遠慮したり、躊躇するかもしれません。そうなると、宅建士(=旧宅地建物取引主任者)が仲介に入ったとしても、やはり経験が浅い担当者の場合は、全てを事前に見抜くことはなかなか難しいかもしれません。
そこで彼は、地元の人々が日用品の貸し借りや売買の情報を掲載している「ネット掲示板」に「500万円で売却したい」と掲載してみました。すると、早速A氏という方からメールが来ました。そしてA氏と水谷氏は、東京のホテルのロビーで会うことになったのです。実際にお会いしたA氏は、お子さんを連れた子煩悩そうな40代のよきパパでした。そして「以前から環境の良い自然豊かな田舎で、子供を育てたいと思っていました」と、子供の教育について熱心に語ったそうです。
そして、売買の話が進んでいくうちに、A氏は水谷氏にこう言ったのです。「一つお願いがありまして。最初に200万円お支払いし、残りの300万円は月々50万円の6回分割払いにしてほしい」と。人の良い水谷氏はこの申し出に応じてしまいました。さらには残金が払い終わる前に、Aさん家族の引っ越しを認めてしまったのです。
実際の売買契約書は、インターネットから簡単な契約書の雛形をダウンロードし、水谷氏自身が作成したそうです。水谷氏は会社の総務部で働いているので、売買契約書を作ること自体は、それ程困難ではなかったと思われます。
ところが、A氏が入居した後、分割払いだった残金は一度も支払われませんでした。何度も催促しましたが、そのうちにA氏と連絡がとれなくなってしまったのです。困りはてたまま約半年が経過した頃、なんと警察から水谷氏に電話がきました。「A氏を傷害罪で逮捕したので、家宅捜査したい」と。
不動産の登記簿上の名義は未だ水谷氏なので、登記名義人=所有者である水谷氏へ警察が連絡してきたのです。水谷氏の立会いのもと警察と別荘に行くと、そこはすでにもぬけの殻。さらに、家の中は驚くほど改造され、かつ荒れ放題でした。庭には大きな穴が掘られ、大量に何かを燃やした後が残っていました。警察曰く、
「A氏は複数の人間を雇ってこの家に住まわせ、タコ部屋のように使っていた。そして、この家から毎日、その従業員を建物解体現場に通わせていた。しかし、ある現場で元請けの業者との間に金銭支払いに関するトラブルが発生し、言い争いの中でA氏が相手企業の幹部を刺し、事件になった」と。しかも、A氏は前科のある反社会的組織の一員だと言うのです。違法薬物を使用していた疑いがあり、その薬物を家に隠しもっているのではと警察が家宅捜査を依頼してきたとのことでした。
Photo by iStock
実は、警察は当初、水谷氏も「共犯」だと考えていたようです。家を貸与した(実際は貸与したわけではありませんが)水谷氏も当然ながら、様々な事情を知った上で家を貸していた「共犯」なのだろうと警察は考えたのです。A氏の周到な計画とはA氏は、今回の売買にあたって、以下のように計画を練ったのではないかと思われます。「通常の取引(つまり不動産業者を仲介業者として入れては)では、自分は家を借りることも買うことも難しいだろう。よって、不動産業者を入れず個人間売買ならどうにかなるかもしれない」と。そこでA氏は個人間売買専門のサイトで物件を探したのでしょう。また、A氏は水谷氏が「売るに売れない物件」をもてあましていたことを見抜き、自分の思い通りの取引内容に誘導していけると踏んだのではないでしょうか。そして、買主として怪しまれないように自分の子供を取引の現場に連れて行き、よきパパ、よき家庭人を演じたと思われます。 話しは少し逸れます。『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007年)というアメリカ映画があります。第80回アカデミー賞で作品賞を含む8部門にノミネートされ、主演男優賞と撮影賞を受賞した名作です。20世紀初頭のアメリカ西部を舞台に、一巻千金の「油田開発」に取り憑かれ、かつ実際に油田を数多く掘り当てた男の強欲と人生を描いています。この映画の中で、主人公が石油が出る可能性のある土地を所有者である農家から可能な限り安く買収しようとする場面で、必ず自分の子供を連れて行くのです。家庭的な親を演じ、相手を信用させようとします。私は、水谷氏からこの話しを聞いた時、この映画を思い出しました。仲介業者なら防げたトラブルなのか水谷氏とA氏との売買において、しっかりした不動産会社が仲介業者として入っていたならば、このような事態は防げたのかと言えば、おそらく防げたと思います。少なくとも、売買代金の全額が支払われていない段階で、別荘を買主に引き渡すような契約はまずしなかったでしょう。もう一点、相手の正体、本性、意図を契約前に見抜いて、この取引を事前にストップすることができたか? と言われれば、それはその仲介に入った者の技量と経験次第だと思われます。宅地建物取引業者は、反社的な人物又は組織かどうかを契約前にチェックすることになっています。当然ながら、不動産売買契約書にも反社的勢力を排除するための特約事項を二重三重に記載することが義務付けられています。また、各不動産業界団体は、反社的な人物、組織であるかを照会できるデータベースも備えています。しかしながら、そもそも「どうも怪しい」と思わなければ、こういった調査も行われないでしょう。たとえば銀行の預金通帳をもっているかどうかといった基本的かつ効果的な確認作業も、相手の心象を悪くする可能性があります。ですから、なんらかの確証がなければ遠慮したり、躊躇するかもしれません。そうなると、宅建士(=旧宅地建物取引主任者)が仲介に入ったとしても、やはり経験が浅い担当者の場合は、全てを事前に見抜くことはなかなか難しいかもしれません。
実は、警察は当初、水谷氏も「共犯」だと考えていたようです。家を貸与した(実際は貸与したわけではありませんが)水谷氏も当然ながら、様々な事情を知った上で家を貸していた「共犯」なのだろうと警察は考えたのです。
A氏は、今回の売買にあたって、以下のように計画を練ったのではないかと思われます。「通常の取引(つまり不動産業者を仲介業者として入れては)では、自分は家を借りることも買うことも難しいだろう。よって、不動産業者を入れず個人間売買ならどうにかなるかもしれない」と。そこでA氏は個人間売買専門のサイトで物件を探したのでしょう。
また、A氏は水谷氏が「売るに売れない物件」をもてあましていたことを見抜き、自分の思い通りの取引内容に誘導していけると踏んだのではないでしょうか。そして、買主として怪しまれないように自分の子供を取引の現場に連れて行き、よきパパ、よき家庭人を演じたと思われます。
話しは少し逸れます。『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007年)というアメリカ映画があります。第80回アカデミー賞で作品賞を含む8部門にノミネートされ、主演男優賞と撮影賞を受賞した名作です。20世紀初頭のアメリカ西部を舞台に、一巻千金の「油田開発」に取り憑かれ、かつ実際に油田を数多く掘り当てた男の強欲と人生を描いています。この映画の中で、主人公が石油が出る可能性のある土地を所有者である農家から可能な限り安く買収しようとする場面で、必ず自分の子供を連れて行くのです。家庭的な親を演じ、相手を信用させようとします。私は、水谷氏からこの話しを聞いた時、この映画を思い出しました。仲介業者なら防げたトラブルなのか水谷氏とA氏との売買において、しっかりした不動産会社が仲介業者として入っていたならば、このような事態は防げたのかと言えば、おそらく防げたと思います。少なくとも、売買代金の全額が支払われていない段階で、別荘を買主に引き渡すような契約はまずしなかったでしょう。もう一点、相手の正体、本性、意図を契約前に見抜いて、この取引を事前にストップすることができたか? と言われれば、それはその仲介に入った者の技量と経験次第だと思われます。宅地建物取引業者は、反社的な人物又は組織かどうかを契約前にチェックすることになっています。当然ながら、不動産売買契約書にも反社的勢力を排除するための特約事項を二重三重に記載することが義務付けられています。また、各不動産業界団体は、反社的な人物、組織であるかを照会できるデータベースも備えています。しかしながら、そもそも「どうも怪しい」と思わなければ、こういった調査も行われないでしょう。たとえば銀行の預金通帳をもっているかどうかといった基本的かつ効果的な確認作業も、相手の心象を悪くする可能性があります。ですから、なんらかの確証がなければ遠慮したり、躊躇するかもしれません。そうなると、宅建士(=旧宅地建物取引主任者)が仲介に入ったとしても、やはり経験が浅い担当者の場合は、全てを事前に見抜くことはなかなか難しいかもしれません。
話しは少し逸れます。『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007年)というアメリカ映画があります。第80回アカデミー賞で作品賞を含む8部門にノミネートされ、主演男優賞と撮影賞を受賞した名作です。20世紀初頭のアメリカ西部を舞台に、一巻千金の「油田開発」に取り憑かれ、かつ実際に油田を数多く掘り当てた男の強欲と人生を描いています。この映画の中で、主人公が石油が出る可能性のある土地を所有者である農家から可能な限り安く買収しようとする場面で、必ず自分の子供を連れて行くのです。家庭的な親を演じ、相手を信用させようとします。私は、水谷氏からこの話しを聞いた時、この映画を思い出しました。
水谷氏とA氏との売買において、しっかりした不動産会社が仲介業者として入っていたならば、このような事態は防げたのかと言えば、おそらく防げたと思います。少なくとも、売買代金の全額が支払われていない段階で、別荘を買主に引き渡すような契約はまずしなかったでしょう。
もう一点、相手の正体、本性、意図を契約前に見抜いて、この取引を事前にストップすることができたか? と言われれば、それはその仲介に入った者の技量と経験次第だと思われます。
宅地建物取引業者は、反社的な人物又は組織かどうかを契約前にチェックすることになっています。当然ながら、不動産売買契約書にも反社的勢力を排除するための特約事項を二重三重に記載することが義務付けられています。また、各不動産業界団体は、反社的な人物、組織であるかを照会できるデータベースも備えています。
しかしながら、そもそも「どうも怪しい」と思わなければ、こういった調査も行われないでしょう。たとえば銀行の預金通帳をもっているかどうかといった基本的かつ効果的な確認作業も、相手の心象を悪くする可能性があります。ですから、なんらかの確証がなければ遠慮したり、躊躇するかもしれません。そうなると、宅建士(=旧宅地建物取引主任者)が仲介に入ったとしても、やはり経験が浅い担当者の場合は、全てを事前に見抜くことはなかなか難しいかもしれません。

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