ドコモショップの店員が男性客に「クソ野郎」発言…“モンスタースタッフ”を生み出す「日本の接客業の闇」

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吉野家役員の「生娘シャブ漬け戦略」発言が問題に…なぜ大炎上が起きる“昭和的価値観”が残されたままだったのか? から続く
「失言」とは、言ってはいけないことを、うっかり言ってしまうことだ。しかしその「うっかり」の中には、発言者の本音が潜んでいることが多い。その本音の中に差別的な考えや、非常識な意見、倫理観が欠如した姿勢が垣間見られると批判が集まり、何かの拍子で一気に注目を浴び、発言者に対して誹謗中傷が集中する「炎上」状態となってしまう。
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ここでは、これまでに発生した、おもに法人企業における炎上トラブル事案の概要と炎上の要因、そもそも炎上を起こさないための心得や体制などを綴ったブラック企業アナリスト・新田龍氏の著書『炎上回避マニュアル』(徳間書店)より一部を抜粋。2020年に起きたNTTドコモショップ店員による炎上トラブルを紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く)
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◆◆◆
株式会社NTTドコモ(以下ドコモ)は、日本最大手の携帯通信サービス会社。日本電信電話株式会社の完全子会社であるが、NTTグループの営業利益の7割を稼ぎ出す稼ぎ頭でもある。同社の携帯電話販売店は「ドコモショップ」と呼ばれ、2022年5月時点で全国に2302店舗存在する。これは我が国におけるすべての携帯キャリア店舗数、全国8026店舗のうち約3割を占め、店舗数においても全国首位だ。そんなドコモショップにおいて、2020年の新年早々トラブルが発生した。
携帯電話の機種変更のため、千葉県内のドコモショップを訪れた男性客A氏は、対応したスタッフから料金プランの見直しを勧められ、数枚の資料を渡された。その中に偶然紛れ込んでいた営業メモには、冒頭のとおりA氏を侮辱するような内容が書かれていたのだ。
〈 親代表の一括請求の子番号です。つまりクソ野郎
いちおしパックをつけてあげて下さい
親が支払いしてるから、お金に無頓着だと思うから話す価値はあるかと〉
本件はすぐさまネットで拡散し、「ひどすぎる」「もし自分がこんなことされたら、一生トラウマになりそう」などと強く批判を受けるとともに、ニュース番組でも報道される炎上騒ぎとなった。
A氏はメディア取材に対して、「『親が支払い』というのは実家が自営業のため、父親名義でまとめて支払ったほうが都合が良いだけの理由であり、顧客情報から勝手に推測して、このような指示を出すなど信じられない」と語っており、ネットで話題になってからようやく、代理店側からお詫びの連絡があったという。
ドコモショップで発生したトラブルであったため、NTTドコモの体質を非難する声が多く聞かれたが、実はドコモが直接運営しているドコモショップは存在しない。一部、ドコモ100%子会社である「株式会社ドコモCS」が運営する店舗はあるが、それ以外はすべて販売代理店が運営するフランチャイズ店なのだ。
問題が起きた店頭は、「兼松コミュニケーションズ株式会社」の運営によるもので、同社はドコモショップのほか、auやソフトバンク、ワイモバイル各社の携帯ショップなどを運営しており、直営店だけでも156店舗、直営店ではない2次代理店以降を含めると419店舗(当時)を展開する、携帯電話販売代理店業界では大手であった。
実際の対応と結果、本来あるべき対応とは 同社は事件を受けて、公式サイトに以下謝罪文を掲載している。〈 今月6日(月)に弊社が運営するドコモショップ○○店へご来店されたお客様への応対にあたって、同店の従業員の間の連絡用メモにおいて極めて不適切な文言を使用していた事実が判明いたしました。 今回の事態により、お客様のお心を傷つけ、多大なるご迷惑をおかけしましたことを衷心より深くお詫び申し上げます。また、今回の事態により関係者の皆様にご不快の念をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。 現在、事実関係の確認を行うとともに、このような事態が生じた原因について調査を行っており、調査結果に基づき、厳正な対処を行う所存です。〉 全国に販売・サポート網を築くため、携帯キャリア各社は人件費を安く抑えられる代理店を活用する傾向にある。キャリア各社は独自のショップスタッフ教育プログラムを用意し、接客スキルの向上に努めてはいるのだ。ただ、スタッフの採用と普段の育成については各代理店の力量の差がどうしても出てしまう。 良い雇用条件を提示できる代理店なら能力の高いスタッフを雇える一方で、たとえば給料の安い代理店には給料相応のスタッフしか集まらない、といったことも起こり得る。結果、今回問題を起こしたようなドコモショップが生まれてしまうわけだ。お店側の対応が悪いのは間違いないが… 来店客にまつわる侮辱メモをやりとりし、それが流出するなどさすがに論外であり、今般の店舗および店員に対して擁護の余地は皆無である。しかしこの問題の背景には、一部のモンスタークレーマーなど悪質客への対応を強いられる接客業スタッフの鬱積したストレスがあるのかもしれないし、「悪質クレーマーも相手にしなければいけない、割に合わない職場だ」といったネガティブイメージが浸透し、結果としてモラル意識の低いスタッフしか採用できない状況に陥っている、ともいえよう。 これはドコモだけの問題ではない。様々な客層を相手にしなければならない携帯電話販売代理店業界自体、ひいては日本という国で接客業を営むうえで特有の問題なのだ。 携帯電話販売店に勤務する筆者知人は、事件発生当時このように語っていた。「(今回の件について)お店側の対応が悪いのは間違いない。しかし私たち販売スタッフもお客様から心無い言葉を言われたり、怒鳴られたりすることも多いんです。かといって決して言い返すことはできず、こうやって報道されることもない。ストレスフルな環境ですよ」「ブラック乞客」の存在 仕事柄、ブラック企業問題についてよくコメントを求められる。その中で、頻出する質問ながら回答がややこしいのが「これほどブラック企業が社会的な問題になっているのに、なぜ淘汰されることなく生き永らえているのか?」というテーマだ。 回答として、「労働法規と労働行政の問題」「日本的雇用慣行の問題」「経営者と従業員の問題」に加えて必ず筆者が挙げる理由のひとつが「ブラック乞客」の存在だ(「乞客」とは「理不尽な要求をしてくる悪質顧客」のことを指すネット用語である)。「顧客の要求」といえば、「見る目が厳しい日本の消費者の要求水準に合わせようと努力したことで、高品質の製品やサービスが生まれた」と肯定的に捉える向きがある一方で、「サービスや商品に完璧を求め、無限に要求をエスカレートさせるモンスター客やクレーマー対応のためにブラック労働が強化される」と批判的な文脈で捉えられることもある。 後者については、日本社会における空気感のようなものと密接に関係している。長らく儒教的文化の影響を受けたことも一因かもしれないが、「立場が下の人は上の人の言うことを黙って受け入れるべき」かの如き無言の社会的圧力があり、それに対して異論を唱えることは和を乱す行為と捉えられてしまう。教育やスポーツ指導の現場で、いまだに体罰やパワハラがニュースになり、職場で相変わらずセクハラやモラハラが横行しているのもその延長線上のことであろう。 ブラック乞客も同様である。彼らは「金を出してるんだから言うことに従え」「お客様は神様だろ!?」といった意識が根強く、自らの立場を「上」と見なし、過剰な水準の接客サービスを否応なく従業員に強いる。結果的に、対抗手段をもたない末端の労働者が給与に見合わない過剰労働を強いられることに繋がってしまうのだ。「お客様は神様」の本当の意味 ちなみにこの「お客様は神様(※)」というフレーズは、演歌歌手の三波春夫氏から発せられて有名になった言葉だが、これは悪質クレーマーが呪文のように唱える「金を払った客なんだから、神様扱いしろ」「神様なんだから、徹底的に大切に扱って尽くせ」といった意味では断じてない。 氏は生前インタビューでこのフレーズについて問われた際、「歌う時に私は、あたかも神前に祈るように、雑念を払って澄み切った心になる」「演者として、お客様を神様と捉えて歓ばせることが絶対条件なのだ」と答えている。この場合の「お客様」はあくまで聴衆のことであり、カスタマーやクライアントを指しているわけではないのだ。 相応の対価も払わずに、サービス要求水準ばかり厳しいお客様は「神様」ではない。高いレベルのサービスを受けて気持ちよくなりたいのであれば、それに見合った金額を支払うお店に行けばよいのだ。また、暴言や恫喝で相手を無理矢理動かそうとするより、「忙しいときはお互い様」と対等な立場で、相手に敬意を払って接すれば、その敬意はあなたに返ってきて、大切に扱われるに違いないはずだ。 客であることをかさに着て威張るブラック乞客は存在自体がイケてないのである。そもそも、自分から「お客様は神様だろうが!」などと言い張る客にロクな者はいない。もし誤解されているようなら、本日より認識を改めて頂くことをお勧めしたい。※・・・三波春夫オフィシャルサイト「『お客様は神様です』について」より引用。https://www.minamiharuo.jp/profile/index2.html(新田 龍)
同社は事件を受けて、公式サイトに以下謝罪文を掲載している。
〈 今月6日(月)に弊社が運営するドコモショップ○○店へご来店されたお客様への応対にあたって、同店の従業員の間の連絡用メモにおいて極めて不適切な文言を使用していた事実が判明いたしました。
今回の事態により、お客様のお心を傷つけ、多大なるご迷惑をおかけしましたことを衷心より深くお詫び申し上げます。また、今回の事態により関係者の皆様にご不快の念をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。
現在、事実関係の確認を行うとともに、このような事態が生じた原因について調査を行っており、調査結果に基づき、厳正な対処を行う所存です。〉
全国に販売・サポート網を築くため、携帯キャリア各社は人件費を安く抑えられる代理店を活用する傾向にある。キャリア各社は独自のショップスタッフ教育プログラムを用意し、接客スキルの向上に努めてはいるのだ。ただ、スタッフの採用と普段の育成については各代理店の力量の差がどうしても出てしまう。
良い雇用条件を提示できる代理店なら能力の高いスタッフを雇える一方で、たとえば給料の安い代理店には給料相応のスタッフしか集まらない、といったことも起こり得る。結果、今回問題を起こしたようなドコモショップが生まれてしまうわけだ。
来店客にまつわる侮辱メモをやりとりし、それが流出するなどさすがに論外であり、今般の店舗および店員に対して擁護の余地は皆無である。しかしこの問題の背景には、一部のモンスタークレーマーなど悪質客への対応を強いられる接客業スタッフの鬱積したストレスがあるのかもしれないし、「悪質クレーマーも相手にしなければいけない、割に合わない職場だ」といったネガティブイメージが浸透し、結果としてモラル意識の低いスタッフしか採用できない状況に陥っている、ともいえよう。
これはドコモだけの問題ではない。様々な客層を相手にしなければならない携帯電話販売代理店業界自体、ひいては日本という国で接客業を営むうえで特有の問題なのだ。
携帯電話販売店に勤務する筆者知人は、事件発生当時このように語っていた。
「(今回の件について)お店側の対応が悪いのは間違いない。しかし私たち販売スタッフもお客様から心無い言葉を言われたり、怒鳴られたりすることも多いんです。かといって決して言い返すことはできず、こうやって報道されることもない。ストレスフルな環境ですよ」
仕事柄、ブラック企業問題についてよくコメントを求められる。その中で、頻出する質問ながら回答がややこしいのが「これほどブラック企業が社会的な問題になっているのに、なぜ淘汰されることなく生き永らえているのか?」というテーマだ。
回答として、「労働法規と労働行政の問題」「日本的雇用慣行の問題」「経営者と従業員の問題」に加えて必ず筆者が挙げる理由のひとつが「ブラック乞客」の存在だ(「乞客」とは「理不尽な要求をしてくる悪質顧客」のことを指すネット用語である)。
「顧客の要求」といえば、「見る目が厳しい日本の消費者の要求水準に合わせようと努力したことで、高品質の製品やサービスが生まれた」と肯定的に捉える向きがある一方で、「サービスや商品に完璧を求め、無限に要求をエスカレートさせるモンスター客やクレーマー対応のためにブラック労働が強化される」と批判的な文脈で捉えられることもある。
後者については、日本社会における空気感のようなものと密接に関係している。長らく儒教的文化の影響を受けたことも一因かもしれないが、「立場が下の人は上の人の言うことを黙って受け入れるべき」かの如き無言の社会的圧力があり、それに対して異論を唱えることは和を乱す行為と捉えられてしまう。教育やスポーツ指導の現場で、いまだに体罰やパワハラがニュースになり、職場で相変わらずセクハラやモラハラが横行しているのもその延長線上のことであろう。
ブラック乞客も同様である。彼らは「金を出してるんだから言うことに従え」「お客様は神様だろ!?」といった意識が根強く、自らの立場を「上」と見なし、過剰な水準の接客サービスを否応なく従業員に強いる。結果的に、対抗手段をもたない末端の労働者が給与に見合わない過剰労働を強いられることに繋がってしまうのだ。
ちなみにこの「お客様は神様(※)」というフレーズは、演歌歌手の三波春夫氏から発せられて有名になった言葉だが、これは悪質クレーマーが呪文のように唱える「金を払った客なんだから、神様扱いしろ」「神様なんだから、徹底的に大切に扱って尽くせ」といった意味では断じてない。
氏は生前インタビューでこのフレーズについて問われた際、「歌う時に私は、あたかも神前に祈るように、雑念を払って澄み切った心になる」「演者として、お客様を神様と捉えて歓ばせることが絶対条件なのだ」と答えている。この場合の「お客様」はあくまで聴衆のことであり、カスタマーやクライアントを指しているわけではないのだ。
相応の対価も払わずに、サービス要求水準ばかり厳しいお客様は「神様」ではない。高いレベルのサービスを受けて気持ちよくなりたいのであれば、それに見合った金額を支払うお店に行けばよいのだ。また、暴言や恫喝で相手を無理矢理動かそうとするより、「忙しいときはお互い様」と対等な立場で、相手に敬意を払って接すれば、その敬意はあなたに返ってきて、大切に扱われるに違いないはずだ。
客であることをかさに着て威張るブラック乞客は存在自体がイケてないのである。そもそも、自分から「お客様は神様だろうが!」などと言い張る客にロクな者はいない。もし誤解されているようなら、本日より認識を改めて頂くことをお勧めしたい。
※・・・三波春夫オフィシャルサイト「『お客様は神様です』について」より引用。https://www.minamiharuo.jp/profile/index2.html
(新田 龍)

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