箱根駅伝のフリーザ軍団、この正月は二宮で沿道応援を再開するのか…メンバーから「再結成」願う声

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

第99回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)が1月2、3日に行われる。
各チームのエース級が名を連ねる「花の2区」や試練の山登り……。「名所」が数多く存在するなか、一部の人々が熱視線を注ぐスポットがある。復路7区の二宮地点――ここには、観客として「フリーザ軍団」が現れるからだ。3年ぶりに沿道応援の自粛を求められていない今大会、彼らはまた姿を現すのか? かつて彼らと熱い応援をともにした「シャケーザ」に話を聞いた。(デジタル編集部 古和康行、敬称略)
■ドラゴンボールの人気キャラ、なぜか箱根路に登場
箱根駅伝にフリーザ軍団あり――。新型コロナウイルスの影響で、ここ2大会は沿道での応援が自粛を求められ、その姿を見ることはなくなっている。とはいえ、一部のファンの脳裏には、彼らの姿が焼きついているはずだ。
2020年の正月に開かれた大会まで、復路7区の二宮地点には、なぜかドラゴンボールの人気キャラ「フリーザ」のコスプレに身を包んだ観客が出没した。数人の仲間を引き連れて沿道に現れては、流行曲でダンスを披露していた。
ツイッターで目撃報告が広まるなど、フリーザ軍団はいつしか「名物観客」と化した。ファンも増え、インターネット上では風物詩の一つになっていた。
この軍団に2019年、フリーザの頭に魚の切り身がくっついたようなかぶり物をしたコスプレーヤーが加わった。原作のドラゴンボールには出てこない珍妙な姿で「なぜかシャケのかぶり物?」と、ネット上をざわつかせたその男。名は「シャケーザ」という。彼が読売新聞の取材に応じ、フリーザ軍団への熱い思いを語り尽くした。
■さわやか対応、ライブ熱演…そして語り出した箱根への思い
シャケーザは、東京・赤坂にある音楽制作事務所で取材を待ち構えていた。スタジオの扉を開けると「わざわざ、ありがとうございます。よろしくお願いします!」。さわやかな声で、仲間2人とともに記者を迎え入れる。仲間の大柄な男性は素顔で、もう一人の女性は、フリーザの最側近キャラ「ザーボン」のコスプレに身を包んでいた。
シャケーザ――本名は山口清孝、大柄な男性は瀬尾和信という。2人は音楽ユニット「SHAKE HEAD」を組む、れっきとした歌手で、ラジオの冠番組も持っている。女性はジュリパンちゃん(本名・年齢、非公開)というコスプレーヤーで、大学時代は箱根駅伝常連校のチアリーダーとして活躍していたそうだ。
本業のライブ演奏をひとしきり披露してくれたあと、山口は静かに箱根駅伝とのなれそめを語りだした。「正直、初めは目立ちたいという気持ちが強かった。でも……」
■フリーザに憧れるシャケーザ
「僕にとって箱根駅伝といえばフリーザ軍団。ネットで話題になっているのを見て、いつかは会ってみたいと思っていました」
そもそも「シャケーザ」は、山口が歌手活動の中で生み出したコスプレだ。アニメソングのカバーライブなどに出演していたが、なかなかファンがつかなかった。少しでも観客に笑ってもらおう――。そんな思いで始めたのが、フリーザのコスプレだった。さらに客を盛り上げようと、奇抜なアレンジを加えていった。2013年末に完成したのが、かぶり物にシャケの切り身をあしらった現在のスタイルだ。
一方、箱根駅伝のフリーザ軍団は、フリーザのコスプレをする人々の間では、すでに有名コスプレーヤーとなっていた。同じ「フリーザ系」である山口にとっても憧れの存在で、胸中には「一度会ってみたい」という思いがあったという。
2018年1月3日の午前3時、東京都武蔵村山市の実家から、山口は自転車で飛び出した。「自分もフリーザ軍団みたいな活動をしたい」。初めて箱根駅伝の沿道応援に向かった。
繰り出した先は、軍団が拠点とする二宮地区(7区)ではなく、鶴見中継所(9→10区)付近だ。軍団と会う前に、まずは箱根での活動実績を作っておきたかった。正直に言うと「目立ちたい」という下心も抱きつつ、山口は沿道でシャケーザへと変身した。
目の前を一瞬で駆け抜けていくランナーたちを見て、シャケーザは自身の下心が吹き飛ばされるのを感じた。「ここにたどり着くまでに、彼らはどんな努力をしてきたのだろう」。それまでは、ただ正月にテレビで流れているだけだったレースが、間近で見ると、グッと胸に迫ってきた。
■箱根駅伝が結ぶ縁
1年後の正月、シャケーザはとうとう沿道応援の「先輩」たちへのアタックを決心した。二宮地点にたどり着き、フリーザ軍団と初対面する。「新参者を受け入れてくれるか」という不安を抱えながら近づいたところ……。「なんかシャケつけているやつがきた!」と、温かく迎えてくれた。宇宙の帝王とその一味は、気さくな人たちだった。「心の底からホッとした」という。
この大会で、シャケーザはフリーザ軍団とDA PUMPの「U.S.A.」を踊ってランナーを応援した。フリーザのコスプレで使う全身タイツは薄いものが多く、極寒の1月3日に着用するには本来、不向きだ。フリーザ軍団は、背中に大量のカイロを貼って沿道応援に臨んでいるという。「ダンスをするのはパフォーマンスだけでなく、体を温める意味もある」とも説明する。
触れたのは、沿道で見守る人たちの温かさだ。箱根駅伝を通じて地元の人が交流する姿を目の当たりにした。ランナーが走り去ったあと、フリーザ軍団と写真の撮影をして交流する姿に、箱根駅伝が結ぶ「縁」を感じた。また来年も、その次もずっと来よう――。2019年の正月、そう心に決めた。20年も軍団の一員として応援に参加した。
ところが、新型コロナの猛威が日本中を襲っていた21年の箱根駅伝は、沿道での応援が難しい状況になってしまった。すでに沿道に魅了されていたシャケーザこと山口の心は痛んだ。ただ、何か自分にもできることがないかと頭をひねった。その末に、沿道での応援自粛を訴えることにした。「あくまでも主役は選手。悪目立ちせずに自宅での観戦を訴えよう」
新参者の自分が「軍団」を名乗ってよいものか――という葛藤も抱えつつ、「フリーザ軍団の一員」として、シャケーザ姿で旧知のジュリパンちゃんと一緒に自宅でのテレビ観戦で応援する様子をネットで配信したところ、これがバズった。それまでほとんど無名だった2人からの配信にもかかわらず、同時接続が2000人を超えた。ツイッターの投稿には「素晴らしい心がけ」などのリプライが相次いだ。22年の正月も、音楽ユニットの相方である瀬尾を加えた3人で、テレビの前から声援を送った。
「新参者だけど、自分もフリーザ軍団の一人。この2年、沿道に先輩フリーザが現れなかったことを考えると、正しい選択ができたのだと思う」と、山口は胸を張る。本来は悪者キャラだったはずのフリーザ一味は今、正しさとすがすがしさ、そして箱根駅伝への愛でつながりを感じているようだ。
■3年ぶり、友人たちとの再会心待ちに
間近に迫った今大会、3年ぶりに沿道での応援が可能になった。山口は「二宮の地元の皆さんやフリーザ軍団とともに選手を応援し、パワーを送りたい」と、現地で応援することにした。ただし、「今回もルールは絶対に守る」と正しい行動を心掛けている。
「コロナ禍で苦しい中、必死に練習をしている選手たちの姿は日本中を勇気づけてくれる。とにかく前を向いて、自分のことを信じて、走り抜いてほしい」。箱根路を走るランナーたちへのメッセージを発し、スポーツを愛する「宇宙の帝王の友」が笑った。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。