犯罪最前線 病院で、飲食店で…巧妙さ増す薬物混入の性被害

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

飲食物に薬物などを知らぬ間に混入させて被害者の意識を失わせ、性的暴行を加える事件が後を絶たない。
薬物には体に残りにくいものもあり、年々手口は巧妙さを増す。近年相次いでいるのが、医師や飲食店、宿泊施設関係者による患者や利用客への犯行だ。本来、安心して過ごせるはずの場で立場を悪用した卑劣な犯行。専門家も自衛の困難さに頭を悩ませている。
患者やスタッフが被害
「まちで被告と同じような髪形や体格の男性を見ると避けてしまう」
12月12日、美容整形外科での麻酔で意識を失った女性に、わいせつな行為をしたとして、準強制性交罪などに問われた元美容整形外科医の竹沢章一被告(43)の公判。検察官が被害者の女性の訴えを読み上げた。
竹沢被告は患者として病院を訪れた女性に対し、2回にわたってわいせつな行為をしたとされる。いずれも施術中に麻酔で意識のない中での犯行だ。麻酔科医などがおらず2人になったところを狙い、胸を触ったり性的暴行を加えたりし、いずれもスマートフォンを使って動画撮影にまで及んでいた。
被害は患者だけではなく、勤務先の複数のスタッフにも及んだ。中には2日連続で被害に遭った女性もいた。捜査関係者などによると、竹沢被告は4月4日午後、20代の女性スタッフと中央区のレストランで食事した際、女性がトイレに行った間に飲食物に睡眠薬を混入。自宅マンションに連れ込んで性的暴行を加えた。翌日にも帰宅した女性を自宅まで迎えに訪れ、勤務先の院内で「酔い覚まし」と称して点滴を打ってわいせつな行為を行ったという。
麻酔などを自由に使える医師という立場を悪用した犯行。この従業員だった女性は「上司からの誘いで断り切れなかった」と話しており、警視庁は関連を調べている。
飲食店や宿泊施設も
睡眠薬などを食事に混入させ、性的暴行を加える事件は、飲食店や宿泊施設でも発生している。
大阪市浪速区にある日本料理店「榎本」の店主だった榎本正哉被告(47)は昨年12月、店内で女性客に睡眠薬を混ぜた酒などを飲ませ、抵抗できない状態にして乱暴。今年2月にも、別の女性客に同じ手口で性的暴行を加えたとして準強制性交の罪で逮捕、起訴された。榎本被告も公判中だ。
岡山県でも、自身が営む里庄町のゲストハウス「Cafe&Guest House凸屋」で、女性客に睡眠作用のある薬物を飲ませ乱暴したとして、県警が準強制性交の疑いで武内俊晴容疑者(48)=同町新庄=を4回にわたって逮捕した。
旅行サイトなどには「女性1人で利用しました」などの口コミがあり、ゲストハウスは高評価を得ていた。県警は他にも被害に遭った女性がいるとみて調べている。
対策のしようがない
安心して過ごせるはずの病院や飲食店、宿泊施設での卑劣な犯行。知らぬ間に薬物を混入されれば、自分で防ぐことは困難だ。
「デートレイプドラッグ」と呼ばれる性暴力に使われる強力な薬剤に詳しい旭川医科大の清水恵子教授(法医学)によると、睡眠薬の多くは飲食物に混ぜられても味で混入に気づくことは難しい。一部に水に溶けると青く変色する睡眠薬もあるが、色の濃い飲食物に混入された場合には判別できないという。清水氏は「飲食店などで出された料理からの被害は防ぎようがない」とする。
被害者支援に取り組む「レイプクライシスセンターTSUBOMI」代表の望月晶子弁護士も同様に「対策のしようがない」と予防の難しさを指摘する。
病院の性暴力対策として望月氏が提案するのが、「医師と患者が2人きりにならないような環境をつくる」ということだ。「医療関係者側の安心にもつながる。厚労省がガイドラインなどを整備するべきだ」と話す。他方で、飲食店での自衛には限界があり、厳罰化による抑止効果も大きくはないという。
仮に性被害に遭ったかもしれない場合の対策として清水氏は「飲食後に突然一定期間の記憶がなくなっていたら、被害に遭ったかもしれないと考えるべきだ」と指摘、薬物による被害と特定するための採尿や採血を勧める。望月氏も「自分を責めず、内閣府のワンストップ支援センター(♯8891)や警察の性犯罪被害相談の共通ダイヤル(♯8103)に相談してほしい」と語る。
性暴力被害の防止には社会の「性暴力を許さない」という意識が肝要といえる。望月氏は「性暴力は被害者による対策にフォーカスされがちだが、被害者が相談しやすい環境をつくるためにも、社会の側もこの問題について考えてほしい」と訴えた。(内田優作)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。