首都圏で相次いでいる「闇バイト」による凶悪事件。今月5日、東京都葛飾区の住宅で2日に発生した強盗事件で、強盗致傷と住居侵入の疑いで、新たに「実行役」の男が逮捕された。
逮捕されたのは新宿区の無職・本橋日尚太(ひなた)容疑者(23歳)。警視庁によると、本橋容疑者は取り調べに対し、「金が欲しくて事件の3日前にSNSで『即日バイト』と検索して応募した」などと供述している。
今のところ本橋容疑者のより詳しい動機は明かされていない。しかしXなどSNS上では、「本橋容疑者はアイドルの推し活でカネに困り、闇バイトに応募した」という話題が注目を集めている。
きっかけは、本橋容疑者のものと思われるXのアカウントが発見されたことだ。同アカウントの投稿はアイドルグループ「iLiFE!(あいらいふ)」に関することで占められており、容疑者が熱狂的なファンだったことがわかる。そして犯行日の直前、10月31日の夜にはこんな投稿が。
〈480(※ポイントの値を指す。ポイントは同グループのライブ入場やチェキ券購入などでもらえる仕組み)でiLifeでプレミアライブだと、、、、金作るかあ。〉
さらにフォロワーからのコメントには、〈ポイントの貯め方でてから決めるけど仕事は頑張る〉という返信がなされていた。
「金作るかあ。」「仕事は頑張る」――まだ、この時はまさか自分は闇バイトに手を染めることになるとは思ってもいなかったのだろう。この2日後、犯行を終えた直後と思しきタイミングでは、
〈色々ありましてしばらく他界します。多分連絡も返せなくなります。復活したらまた惜し活(編集部注:推し活)に励みます〉
と、自身の犯行を後悔するかのような文章が投稿されていた。
闇バイトに手を染めてしまった本橋容疑者のようなケースは極端とはいえ、近年、推し活のために多額の借金を重ねてしまう人は少なくないという。
自身もアイドルやゲームをこよなく愛し、「アキバ系オタク弁護士」と公言する、蓑島法律事務所の簔島弘明弁護士が解説する。
「オタクが借金をしてまで推し活をする、というのは昔から散見されます。たとえばアイドルオタクの場合、闇バイトではなくとも、転売などグレーな仕事で高額なチケット代や旅費、CD代などを稼ぐことはよくありました」
簑島弁護士自身、アイドルの推し活をしている中で、オタクの誰それが消費者金融で借金を背負っているという噂や、カードの支払いが厳しいという話をたびたび耳にしてきたという。さらに弁護士として、度々オタクの債務整理も手がけてきた。
「私が複数経験したのは、やはりCDをたくさん買うために、クレジットカードや消費者金融で借金を重ねてしまったパターン。アイドルの推し活が原因で自己破産してしまったケースも2度手がけたことがあります。自己破産でそれだけ起きているわけですから、裁判所を介さない任意整理のケースは、さらに多く発生していると予想できます」
推し活のために、借金はもちろん、犯罪などを行うことは動機として想像できないわけではない、と簑島弁護士は言う。本橋容疑者のようなオタクが今後現れてくることも、けっして否定はできないようだ。
ではなぜ、彼らは多額の借金をしてでも、推し活を続けようとするのか。そこにはオタクならではの「心理」が背景にある。簑島弁護士が続ける。
「推し活では、おカネをたくさんつぎ込むことで、推しメンはもちろんのこと、周囲のオタクからも承認されるということは、よくある話です。そもそも推し活をするきっかけとして、学校や仕事、家庭や恋愛など背景に違いはあれど、何かしらの失敗や挫折があったというケースは多い。
そういった人の心の内に、『推しメンに良いところを見せたい』『他のオタクと自分は違うところをアピールしたい』という自己顕示や優越性の欲求があるように思えます。特にインターネットやSNSの影響で、承認欲求が抑えられない人も増えました。そうなると、本来あるべき自制心が効かず、金銭感覚もおかしくなってしまうのかもしれません」
地下アイドルの場合、特にそれが顕著だ。推しとの距離はとても近い。それでいて運営側の大部分は自転車操業で、収入が不安定であることから、ライブチケットやチェキ、グッズなどの単価を上げようとする傾向にある。そんな環境の行き着く先こそ、「自分だけが推しを支えてあげられる。そのためなら借金を重ねても構わない」という歪んだ心理なのかもしれない。
最後に、簑島弁護士はこう警告する。
「たしかに、推し活の現場というのはある種の熱狂がないと面白くないという事実もしてきできます。ただ、その熱狂のウラで、社会的に許されざることが行われているとしたら、それは無くしていかないといけない。
推し活をする時は一線を引いておくべき。犯罪はもちろんのこと、多額の借金をすることも、推しや運営に迷惑をかけることにつながるかもしれない、と考えることが肝要だと思います」
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