こはるさん(36歳)は高校3年生で妊娠し、息子の雄哉さん(現在17歳)を産んだ。文部科学省によると、ある年に学校が把握した妊娠した生徒の数は、公立高校だけで1000人を超え、その半数以上が自主退学や転学を選択している。こはるさんもその一人だ。
【映像】「とにかくお金がない」涙ながらに訴える、妊娠で高校を自主退学したこはるさん(36)
公立高校の進学校に通っていたこはるさんは、高校3年生の時、避妊には気を付けていたそうだが、当時のパートナーに無理やり襲われ、妊娠した。それをきっかけに、元々良くなかった親との関係はさらに悪化。当時、頼れるのはパートナーだけだった。出産予定日は高校卒業直後の4月。こはるさんは妊娠したままの卒業を望んだが、体育の単位不足で卒業を認められず、休学を勧められた。
そして、卒業を目前にした1月に入籍。高校は自主退学し、雄哉さんを出産した。結婚相手は2歳年上の社会人で、収入は多かったそうだが、第二子を産んだ直後に度重なるDVが原因でおよそ2年の結婚生活が終わった。その後、元夫からの金銭援助はほぼなく、地獄が始まった。
こはるさんは、当時について「とにかくお金がない。働かなきゃいけないけど、それも許されない」と振り返る。中卒という学歴でなかなか見つからない仕事。ようやく見つけた販売員の仕事は、月に8万円ほどだった。子どもが体調を崩し、仕事を休むことが増えると、月収が3万円の時もあった。昼の仕事に加え、夜はキャバクラで働き、睡眠時間を削りながら、なんとか生活を送った。
シングルマザーの半数以上が貧困という現代の日本。その中には、中卒という最終学歴のせいで、貧困のループから抜け出せない女性がたくさんいる。企業では産休や育休も取りやすくなり、少子化対策が進む現代。そんな社会が望むはずの妊娠で、生きづらさを強いられる“高校生の妊娠”。妊娠しても喜ばれず、世間の冷たい目に晒される彼女たちが幸せになるために、必要な支援はなんなのか。『ABEMA Prime』では、こはるさんと共に高校生の妊娠について考えた。
こはるさんは、16歳(高1)のときに避妊具が破れ妊娠し、中絶した経験がある。「とても言葉にはできない気持ちになった。自分なりに『次は産んであげたい』と決めていた。次のパートナーができて、その人は社会人で、大丈夫だと思って踏み切った」と明かす。
2度目の妊娠が発覚後、「学校に言うか一番悩んだ。言わない選択もあったと思う。だけど、体育の授業がどうしても気になった。持久走や体育祭もある。骨折していた友達はレポートで単位がもらえたので自分もいけると思って、先生に『妊娠しているので体育はレポートでお願いします』と伝えたが、職員会議で認めないという形になり、結果的に自主退学した」と振り返る。
こはるさんの親に伝えるまでは「結構早い段階だった。妊娠が判明する前から、女性は整理で周期が分かるので、妊娠したかもと思っていた。最悪の事態は想定していたので、割とスムーズと言ったら変だが、親に伝えるのは早かったと思う」。
周りの友だちは妊娠していることを知っていたのか。こはるさんは「知っている人もいたし、広まっていたと思う」といい、学校内での噂話は「賢い子たちが多かったので、分かりやすいものはなかったが、気づいていただろう」と答える。
中卒で妊娠することについては、「当時は社会に出た経験がバイトぐらいしかなかった。中卒がどれだけ大変か分からなかった。ただ、高卒(の資格)がないのはヤバいことぐらいの自覚はあったので、せっかく3年もいたのに…という気持ちは大きかった」と述べた。
元高校教師で、妊娠によって中退した女性も通える通信制のサポート校を運営している野村泰介氏によると、妊娠による自主退学で生じる問題点は、「経済的に自立していない状況下での子育てに対する金銭上及び精神的不安」、「周囲のサポートの弱さ」、「得ることのできなかった『高卒資格』」、「学歴がないことによる就労問題」。
野村氏は「中卒で社会に出て、お子さんがいて、シングルマザーという状況は、言葉を選ばずに言えば『詰んだ状態』と見られがちではないか。どうしても周囲のサポートが必要になってくる。経済的な面、メンタル面のサポートなども必要になってくるが、なかなかない。口で言うのは簡単だが、当事者を目の当たりにするとないと思う」と説明する。
文部科学省が公立高校に通知した文書によると、妊娠した生徒の対応は「生徒に学業継続の意思がある場合、安易に退学処分や事実上の退学勧告等の対処は行わない」、「退学以外に休学、全日制から定時制・通信制への転学など必要な情報提供を行うこと」だという。
こはるさんの場合は卒業まであとわずかという時期だったが、学校側は卒業へのサポートを考えることなく「高校生が性行為をするなんて」とタブー視されたという。野村氏は「どこの学校にも校則がある。その中で、不純異性交友は無期停学もしくは退学みたいな規定が、10年、20年前だとほぼすべての学校であった。現在は合理的配慮という言葉が割と定着してきているので、若干進んでいる気もするが、ガラッと変わった印象はない」と答えた。
コラムニストの小原ブラス氏は、日本の学校について、「学問以外のところで評価を受ける部分が多い」と指摘し、「家庭と一緒に子供を育てる考え方は、小学生ぐらいまでで、中学、高校では、もっとドライな学問でいいと思う。この期間に何かあったら休学して、また1年後同じように学校行って、これだけの単位は取る。例えば、体育を取らないといけないなら、行ける時に1単位だけ取って卒業を認めるみたいにする必要があると思う」との見方を示した。
「労働政策研究・研究機構(2022年子育て世帯全国調査)」によると、シングルマザーの52.2%が貧困状態にある。こはるさんは離婚後の生活について、「極貧だ。すべて灰色に見えた。職場でも1分ごとに時給が数円付くので、それを待つ時間があった。子どもが熱を出すと迎えに行って、その分お金が減っていく音が聞こえるくらい怖いことだった。同僚の人には『子どもが具合悪いときくらい早く帰ってあげたら』と言われ、帰ってあげたいけど、お金も必要だというのがすごく悔しかった」と振り返る。
高卒と中卒はどれくらい違うのか。野村氏は「やっぱり働く場所だ。求人、ハローワーク等の求人を見ても学歴で高卒以上と書かれているところが多い。まず仕事の選び代が極端に減る」と答えた。
こはるさんは「求人誌を見てもらえれば一目瞭然だが、正社員になるには高卒以上、学歴不問といったら建設業やドライバーとか。免許もないので必然となくなっていった」。販売員と夜職をやり始めてからの睡眠時間については「4時間寝られたらいいほうだった。6時間寝られたら贅沢、だいたい2時間のときもあった」と話す。
一方で、「シングルマザーだけで苦しむのは違うが、やっぱり育児の喜びを同時に味わっているので、むしろ立ち去った男性はもったいないみたいな気持ちにはなる。喜びを独り占めしている。それも余裕ができたからだが…」と語った。
(『ABEMA Prime』より)