「異次元の少子化対策」を掲げた岸田政権は、保育士の配置基準の見直しなどを行いましたが、保育の現場からは「実感がわかない」という声があがります。人手不足はなぜ解消されないのか?現役の保育士でもある、てぃ先生と一緒に考えます。
【写真を見る】てぃ先生と考える保育士の人手不足 “異次元の少子化対策”に「実感わかない」保育士の処遇改善「早急に」【news23】
総裁選への挑戦は初めてです。4日、立候補を表明した自民党の茂木幹事長は、「増税ゼロ」を明言しました。
自民党 茂木敏充幹事長(68)「成長戦略による税収アップなどによって新たな財源を確保し、『増税ゼロ』の政策推進、これを実行していきます」
岸田政権のもとで決まった防衛費を増やすための増税1兆円と、子育て支援金の保険料の追加負担1兆円をそれぞれ停止する考えです。代わりの財源は新たな財源確保策で対応するとしています。保育の現場からは、次の日本のリーダーに抜本的な対策を求める声が上がっています。
埼玉県寄居町にある「いずみ保育園」には、0歳から5歳までの園児、約70人が通っています。休憩時間になると…
年長クラスの保育士「トイレ行きたい人、他にいませんか?」園児「はい!はい!」
年長クラスの保育士「必ず付いていないと危ないので。何をするかが分からない」
30人以上の子どもたちを相手に、保育士は息つく間もありません。
年長クラスの保育士「いろんな子が話しかけてくれるので、それに対応するのが大変(Q.手がいくつあっても足りない?)そうですね。何人も欲しいくらい」
保育士の負担の大きさは、長年指摘され続けてきました。
そこで、岸田政権はようやく…
岸田総理(2023年1月)「異次元の少子化対策に挑戦し、大胆に検討を進めてもらいます」
国は76年ぶりに保育士の配置基準を見直しました。2024年度から、保育士1人が見る子どもの数を4~5歳児は30人→25人。さらに3歳児は20人→15人にしました。しかし、これでもまだまだ足りないのが現状です。
いずみ保育園 保泉幸正園長「多分どこの保育園さんも配置基準よりも、保育士を増やしていることが多い」
こちらの園では、すべての年齢で国の配置基準を上回る保育士を確保しています。
いずみ保育園 保泉幸正園長「人数がギリギリの状態だと有給休暇をとった時に、クラスをみられなくなってしまうとかそういった問題も出てくるので、人数は多いにこしたことはないなと」
さらに賃金の低さも課題です。国の調査では保育士の平均給与は月26万4000円で、全ての産業の平均と比べて5万円以上、下回っています。
いずみ保育園保泉幸正園長「新しく保育士になるという方も、正直少ない。賃金を上げたり配置基準を変えたりすることは、間接的に子どもの幸せにも結びつくのではないのかなと思うので、そこは早急に考えていただけたらなと思います」
小川彩佳キャスター:「異次元の少子化対策」と銘打っているわけですが、“異次元感”というのは…てぃ先生:それは全く何もないです。これは全国の保育士が同意だと思います。
小川キャスター:保育士不足は何が一番問題だと感じていますか。
てぃ先生:もちろん賃金も問題だと思います。冷静に考えていただきたいのですが、その賃金の前提には、負担の大きさに対しての賃金だと思います。そう考えると、一番の問題は業務負担の部分なのではないかと思います。例えば“書類作成”。保育士の仕事は子どもたちと楽しく遊んだり歌を歌ったり、公園で走り回ったりなどすることだというイメージの方も多いと思いますが、それは僕の体感だと負担は2割ぐらいです。残りの8割の負担は書類やその他の雑務にあるんですよね。特にやっぱり書類。
藤森祥平キャスター:「年間指導計画」「月間指導計画」「週間指導計画」「日間指導計画」、指導計画がいろいろあります。それぞれ違う書類を作らなければいけないということですが、計画を丁寧に考えて1枚作るのにどれぐらいの時間がかかるものですか。
てぃ先生:先生のスキルにもよりますが、ベテランの先生でも各30分~1時間ぐらいかかります。実際には小さい字でバーって書くものなので、なりたての先生だと1日じゃ終わらない感じです。
藤森キャスター:実は国が定めている保育指針を見ると、保育が適切に展開されるように「長期的な指導計画と短期的な指導計画を作成しなければいけない」とされています。この部分について、1965年策定の「保育所保育指針」が今も変わっていないそうです。こども家庭庁の担当者によると、「それぞれの保育園が工夫して制作することになっている。必ずしも4つ求めているわけではない」ということです。
てぃ先生:これははっきり言って言い訳です。全国のほとんどの保育園は4つ作っていて、こども家庭庁も実態として把握しているはずです。「必ずしも4つ求めているわけではない」は言い訳でしかないと思います。実際、認可園の場合は必ず自治体から監査が来ますが、何かが欠けていたら絶対に指摘されます。4つないことはほとんどありえません。仮に本当にそう思っているのであれば、「必ず4つ作成しなくてもいい」と、もっとアナウンスして欲しいです。
トラウデン直美さん:書類だけではなく、子どもたちのためにイベントを考えるなど、他にも業務がたくさんあると思います。本当に必要なのか?という業務が増えれば増えるほど、子どもたちと向き合う時間が減ってしまうのではないでしょうか。子どもたちと過ごせる、手をかけられるはずの時間が少しずつ減って、最悪の場合に何か事故が起こる可能性もあると思うので、減らせるところは減らしていった方がいいのではないかと思います。「保育士になりたい」と志を持っている方は、子どもたちと向き合う楽しさと大変さなら乗り越えられるかもしれません。しかし、雑務が大変だという実態を知って保育士を目指す人が減ってしまったら、もっと保育士が減ってしまうので、早めに改善した方がいいのではないかなと感じます。
てぃ先生:賃金の見直しは、財源の問題があると思いますが、業務の見直しは「ゼロ」でできる部分がたくさんあります。なぜ1960年代から何も変わらずにやり続けているのか、いち保育士としてすごく疑問です。保育士たちの負担は、子どもたちを預けている保護者にしわ寄せが行きます。勤めている環境が悪いと辞める保育士が必ず出てきて、そこを補うために人を雇わないといけませんが、人材紹介会社などを通すと、170万円かかる場合もあります。保育士に辞められたら困る施設側は、質が低い保育をする保育士がいても注意できなくなります。そうすると、施設の中の保育の質が下がっていくという悪循環が実際に全国の保育園で起こりつつあります。
小川キャスター:本末転倒ですね。総裁選が行われますが、新総裁には何を期待しますか。
てぃ先生:僕はこういう立場なので、とにかく保育、子育てのことを1ミリでも前向きに進めてくれる実効性のある方が嬉しいです。
小川キャスター:保育士の皆さんが実感できるような環境の改善というのも期待したいですね。てぃ先生:保育は子どもだけの問題ではなく、社会全体の問題です。
NEWSDIGアプリでは『保育士不足』について「みんなの声」を募集しました。
Q.保育士不足の最大の原因はどこにある?
「賃金の安さ」…65.5%「責任の重さ」…21.9%「事務作業の多さ」…3.9%「不規則な就業時間」…4.2%「休暇の取りにくさ」…1.7%「その他・わからない」…2.8%※9月4日午後11時20分時点※統計学的手法に基づく世論調査ではありません※動画内で紹介したアンケートは5日午前8時で終了しました。
========<プロフィール>てぃ先生保育士16年目の37歳 育児アドバイザーSNSの総フォロワー数200万人超トラウデン直美さん慶応大学法学部卒環境問題やSDGsについて積極的に発信