福岡市の大型商業施設で2020年8月に刺殺された女性(当時21歳)の母親が、受刑中の男(19)(殺人罪などで懲役10年以上15年以下の不定期刑が確定)に対し、「心情等伝達制度」に基づき思いや質問を伝え、その返事が7月に届いたことがわかった。
返事には事件に真摯(しんし)に向き合っているとは思えない心ない言葉が並んでいた。
母親は代理人の弁護士から、昨年12月に始まった制度の存在を聞き、利用を決めた。弁護士事務所で6月、男が服役する刑務所の職員3人に対し、女性のアルバムや作文を見せながら「娘はラグビーをするなど活発で、家事を手伝ってくれる母親思いの子だった」と説明した。
男に尋ねたい内容と「更生を支える人もいるのだからいいかげんな行動はすべきではない」という思いを書面にまとめてもらい、伝達を依頼した。
返事は約1か月後に届いた。謝罪や反省の言葉はなく、「娘に抵抗されたとき、どのように思ったか」との質問には、「偽善者ですね」と回答した。
確定判決によると、男が面識のない女性を襲った際、自首するよう諭されたことに逆上して刺した。母親は「娘は正義感が強く、少年のことを考えて自首を勧めた。なぜ『偽善者』になるのか」と涙を流した。
「公判時と現在の気持ちに変化はあるか」との問いには「ノーコメント」、「娘を刺したときなにかを感じたか」との質問には、「人はあっけなく死ぬんですね」と答えた。
「私の話を逃げずに向き合って」には「ごめんですね」と回答。職員の報告では伝達時、男は手遊びをするなど落ち着きがない様子だったという。
母親は「ここまでひどいコメントが来るとは思わなかった。制度で本心を知ることはできたが、一方的に傷つけられた」と語る。心理面や更生状況に変化がないか再び確認することも考えているという。
心情等伝達制度に関する法務省の検討委員を務めた慶応大の太田達也教授(刑事政策、被害者学)は、「受刑者らに被害者側の痛みを理解させ、真の意味での更生につながりうるものだ」と制度の意義を語る。
その上で、「理不尽な返答がきて、被害者側が傷つくリスクもある制度であることを事前によく説明する必要がある」とし、「国は民間の支援団体と連携するなどし、被害者側への心のケアにも取り組むべきだ」としている。
◆心情等伝達制度=刑務所や少年院の職員が、遺族らから話を聞き取り、作成した書面を処遇状況を考慮した上で、加害者に読み上げる。被害者側の希望があれば、質問に対してどう答えたかなどを伝える。