内部告発で、パワハラや「おねだり」などの疑惑で崖っぷちとなっている兵庫県の斎藤元彦知事。兵庫県議会が設置した百条委員会は8月23日に、県職員を証人に呼び、一連の疑惑について質問した。そして、同時に実施していた「兵庫県職員アンケート調査」中間報告も公表された。
《機嫌が悪いと、タブレットや資料等を投げる》
《時間に間に合わないと公用車の座席を後ろから蹴り飛ばす》
というパワハラだけでなく、
《皮革製品の生産現場を視察した際、40万円相当の革ジャンを試着して「これはいい。もらえないか」と知事がおねだり》
といった話も枚挙に暇がない。そして、2021年の知事選の際には
《姫路庁舎に来た斉藤元彦当時候補者の演説を、管理職に聞きに行くように指示して、所属長等が聞きに行っていた》
と刑事事件になってもおかしくない話まで出てきた。
アンケートに回答した県職員のひとりは、現代ビジネスの取材にこう話す。
「内部告発され、マスコミに出ている斎藤知事の疑惑、ほとんどが大筋で正解だ」
「元県民局長と元課長が、斎藤知事の疑惑で自死に追い込まれた。それ以外に斎藤知事の傍若無人なふるまいで、精神を病み苦しんでいる県職員は10人以上いるはずです」
そして、この県職員自身も斎藤知事のパワハラを目の当たりにしたという。
「ある視察の時、エレベーター近くで斎藤知事を待っていたんです。すると、エレベーターが閉まり、上昇した。斎藤知事は『段取りが悪い』『俺、知事だ、わかっているんか』と激怒しました。女性のスタッフは、泣き出しそうになるほど、怒っていた。小さな施設なので、エレベーターは1分もあれば、また戻ってくる。しかし、斎藤知事は帰るまで、ムッとしてほとんど口を開かなかった。ある職員は『知事様だからしょうがないわ』と言っていた」
アンケート調査でもエレベーターに関する記述がある。
《視察した際、知事がエレベーターに乗ろうとすると目の前でエレベーターの扉が閉まり、乗り損ねたことに激怒して、エレベーター前にいた県職員に、施設の職員も見ている前で「お前はエレベーターのボタンも押せないのか」と大声で怒鳴りつけた》
《知事が「エレベーターのボタンも押せないのか」と職員を罵倒した》
斎藤知事の「暴君」ぶりを象徴させる。
斎藤知事を内部告発した元西播磨県民局長・A氏が亡くなったのは7月7日のことだった。
「斎藤知事はA氏が亡くなった、自殺のようだというニュースに接して『えぇっ?』と絶句し、真っ青だった」(兵庫県の県職員)
A氏は、7月19日の百条委員会で証人として、内部告発の詳細を語る予定だった。A氏の遺族は、百条委員会にA氏の「陳述書」や斎藤知事が兵庫県上郡町にワインをおねだりした録音など新たな疑惑の証拠を提出。その理由について「死をもって抗議する」という趣旨であることも、明かされている。
A氏の陳述書のなかで見逃せない発言がある。公開された陳述書は黒塗りになっているが、黒塗り部分を元に戻して採録しよう。
《令和4年10月下旬、西播磨県民局管内で収録されたサンテレビ番組の県広報用編集映像で知事が(アイドルグループ)嵐の相葉(雅紀)氏を揶揄している場面が放映され、嵐ファンからクレームが殺到したことがありました。その際、広報広聴課の関係職員は知事から何度も叱責されたとのことです。A(注・A氏本人)も関係者として、その状況は課員から直接聞きました。テレビの収録はタイトな日程の上、知事のオーダーも多く、当日の失敗も許されないため、かなりの精神的負担を与えていたようです。》
テレビ番組の収録で相葉氏をボロクソ言ったのだが、編集ミスでそのままオンエアされてしまい、抗議が殺到。それで斎藤知事が県の広報担当者に激怒したというのだ。
百条委員会が県職員約9700人を対象としたアンケートが公表されたが、実はこの件について記述している職員がいる。
《県広報番組の編集に関して激怒
・令和4年10月下旬に収録された県の広報番組で斎藤知事が料理を作る場面があったが、途中まで斎藤知事が作っていたが、「これ、最後まで僕が作るの?嵐の相葉くんの番組ならスタッフが作ってくれるのに」との趣旨の発言をした映像が編集されないまま県の広報用動画(に)掲載され、大きな批判が寄せられた。このことで、斎藤知事が激怒したと聞いた。さらに、サンテレビ側の担当者も変えられたと聞いている。》
この番組は、2022年10月24日から県のサイトなどで公開されていた「兵庫テロワールを体験してみた! 齋藤知事 in 西播磨」なる15分の番組だ。斎藤知事がそうめんを作るシーンで「相葉くんの番組やったらこれでストップかかって、あとはスタッフがやってくれるでしょ」と発言したものだった。テレビ朝日系のバラエティ「相葉マナブ」を念頭に揶揄したものとみられる。斎藤知事の「舌禍」はなんら裏付けがないようで、県は動画を非公開にした。、斎藤知事も謝罪に追い込まれている。
先のアンケートを書いた職員はさらにこう綴っている。
《この番組編集を担当していた管理職は、責任を感じて「知事に謝罪させて欲しい。異動(更迭)されても仕方ない」と言った》
先の県職員はこの顛末をこう話す。
「斎藤知事は『なんでサンテレビは問題のところを削除しなかったのか。恥をかいてしまった。責任をとれ』と怒髪天を衝くほどの怒りようだったと聞いた」
「斎藤知事の疑惑は数が多いが、公職選挙法や贈収賄事件になりかねないものが
いくつもあり、看過できません」
と語るのは、自身も国政選挙に立候補した経験がある、元東京地検特捜部の落合洋司弁護士だ。
毎日のように疑惑が広がっていく斎藤知事だが、それでも辞任することなく職に踏みとどまっていられるのは、2021年7月の兵庫県知事選挙で自民党とともに応援した維新の支えがあるからだ。
内部告発の検証・調査をする百条委員会の設置に、自民党は賛成したが維新は反対している。そして、A氏は亡くなる5日前、7月2日付で百条委員会に弁護士を通じて《申入書》を出している。A氏が内部告発した後、斎藤知事は「核心部分は、嘘八百だ。公務員失格だ」と記者会見でA氏を罵倒し、懲戒処分した。
内部告発の文書作成に兵庫県の公用パソコンを使用しており、パソコンに保存されたデータに、私的なものが含まれている点が、懲戒処分の理由に追加されている。
A氏の《申入書》には、《委員の一人から、人事課調査にかかる資料はすべて開示すべきだとの発言がありました》とある。ここでいう資料とは、A氏のパソコンに保存されていたデータのことだ。
データを全面的に開示すべきだと百条委員会で主張したのは、維新の県議だ。
だが、《本件委員会の調査目的は告発文記載の事実の有無にある。(データには)A氏のプライバシーに関するものもあり、プライバシー権が侵害される結果を生じます》
と内部告発とは関係がないデータの公表をしないように求めている。
「内部告発のことを調査するので、関連性がない個人的なデータは非開示が当たり前です。ところが維新が強硬な姿勢を見せて全面開示を主張したのです」(X県議)
現代ビジネスが独自で入手した理事会要旨によれば、維新の増山誠県議は、以下の主張をしている。
「パソコンに保存されているデータも兵庫県のものである」
「プライベートな事項についても、なぜこの文書を配付するに至ったかの経緯や背景を類推できる資料を広く集める必要がある」
「内部告発には斎藤知事の自宅、好き嫌いに関する記述、片山副知事を特定した上でのプライベートについての記述が散見される。一方の当事者として、プライベートなことを取り上げておき、自らの調査結果については、プライベートな問題だから公開してくれるなというのは、あまりにも都合のよい身勝手」
この理事会が開催されたのは7月8日朝9時半からのこと。すでにA氏は命を絶っていたが誰もそのことは知らなかった。
「A氏は県議、県幹部などあらゆるチャンネルから情報収集していましたが、維新が最後まで強硬にデータ開示を要求してくると困っていた。
維新と公明党が組めば、全面開示になりかねない状況だった。最悪の結果になるかもしれない、それを見たくない、知りたくないと重圧に耐えられないから、A氏は死を選んだのではないか」
複数の県幹部や県議は、A氏の死について、上記のように推測する。
つまり維新が「引き金」を引いたというのだ。それゆえか、A氏の死後、維新の内部でも、こんな声が出始めた。
「最初はデータで個人的なことを暴露して、けちょんけちょんにやっつけると威勢のいいことを言っていた。だが、A氏の死後、県にも批判が大量に寄せられ、メディアでも『維新がつるし上げ』と報じられ、おとなしくせざるを得なくなった。もう斎藤知事の擁護はやめるべきという意見も出ている」(維新関係者)
それゆえ、斎藤知事はA氏の「お悔やみ」にも取り合ってもらえないという。
「A氏が亡くなったのは、維新と斎藤知事の『嘘八百』発言ゆえでしょう。もし葬儀に行ったら、塩まいて追い返されましたよ。斎藤知事は、人の死まで保身のために使おうとする」
X県議はふんまんやるかたない表情だ。
選挙の際、斎藤知事の応援に入った大阪府の吉村洋文知事も「斎藤知事はマスコミの質問で『県民の負託』という言葉がよく出る。僕からみると、ちょっと官僚的だ。事実関係についててもストレートで自分の言葉で説明すべき」と苦言を呈する。
早くも「9月には知事選だ」との情報が駆け巡る。もはや維新からも見すてられつつある斎藤知事の辞任の「Xデー」はずっと県庁では噂される。しかし、斎藤知事には、警察、検察が動く「Xデー」が先との声もあり、予断を許さない状況だ。
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