〈名門校の女子高生(17)が部活の合宿で入浴中に盗撮被害…加害生徒に下ったのは“2日だけの謹慎処分”だった「盗撮はバレー部ほぼ全員が知っている」〉から続く
高校2年生の時に、部活の男子部員A男から入浴中の姿を盗撮された理沙さん(仮名)。
【写真】入浴中の姿を側面から撮影され…合宿施設は古く、男湯と女湯を分ける壁の上にスマホを出せば撮影ができる状態だった
事件から2年半後に後輩からのメールでそのことを知りショックを受け、学校や警察に相談。盗撮をした男子部員は罪を認め、謹慎処分にはなったが実質的には学校に2日行かないだけという“軽さ”だった。
なんとか学校に働きかけ、ついにA男の保護者との“直接対決”の機会が訪れたが……。
写真はイメージです AFLO
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理沙の1年後輩のA男の母親からかかってきた電話に出ると、「学校から詳しいことを聞いていないのでよくわからない」と言われ、驚きを抑えられなかった。
それでも合宿での盗撮被害などについて伝えると、「情報を集めたいので1週間待ってほしい」と事態を理解してもらうことができた。3日後に送られてきたメールの内容を総合すると、以下のようなことがわかった。
「合宿所の女湯がのぞけるという噂が以前からあった。男子部員全員で集合写真を風呂で撮ろうとしてスマホを持ち込んだところ、女湯から声が聞こえたので『写真が撮れるんじゃないか』という流れになり、その場の空気を壊したくなかったので1枚写真を撮った。写真を欲しがる先輩4~5名に頼まれてLINEのトークルームにアップしたが、怖くなりA男はすぐに写真を削除してトークルームを離脱した。その後スマホは水没し、メーカーに回収されている」
男風呂と女風呂の間の壁の上からA男がスマホを差し出して女風呂の写真を撮ったという状況や、「男子部員のほぼ全員が盗撮現場にいた」「画像がアップされ、複数名で共有された」という“新事実”が出てきた。
それらの新事実を教育委員会と学校に送ったが、警察は「画像がない以上、警察から直接コンタクトをとることはできないので、なんとかA男くんと保護者の方に『相談』というかたちで警察に来てもらえないか」という対応だった。
A男の母親に警察で話をしてほしいと頼むと、翌日には「警察に行ってきた」という連絡があった。
A男親子は警察で使用していたケータイの機種番号とシリアルナンバーを提示し、水没してAppleに回収されるまでの使用期間も伝えたという。盗撮画像を送信したLINEトークルームにいたメンバーの名前も伝え、そのメンバーにも警察に行ってもらうよう話してもらうことになった。
A男の母は、A男が1人で行った犯行ではないことを強調する様子もあったが、すぐに警察に行ってくれたことには誠意を感じた。あとは盗撮現場にいた他の男子生徒たちから謝罪があれば、それで幕引きになるだろうと思っていた。
しかし、他の男子生徒たちの反応は極めて鈍いものだった。理沙と一緒に盗撮された女子の保護者たちとも相談し、「バレー部の男子部員たちに盗撮事件について聞き取りをして欲しい」という依頼のメールを保護者たちに送信した。
すると理沙の同学年の男子部員の保護者たちはそれぞれの家庭で子どもたちに話を聞き、個別にメールで事情説明と誠意ある謝罪が送られてきた。最初は「画像を見ていない」と言っていた部員が実はLINEグループで見ていたり、当初A男がしていた「風呂場で全員の集合写真を撮る」という証言が嘘であったこともわかってきた。
それでも、保護者が自分の子と根気よく向き合い、丁寧に聞き取りをしてくれたことで事実が明らかになっていく手ごたえは確かにあった。
同時に、写真は湯気やブレで理沙たちの姿がはっきりとは写っていなかったこと、撮影したA男が、合宿の終盤にはLINEグループのメンバーに写真を削除して欲しいと頼んでいたことなどもわかった。
しかし一方で、A男の同級生、つまり理沙の1学年下の男子部員の保護者からは一切返信がなかった。
そこで再び、A男と同じ学年の部長の保護者に改めて事情説明を依頼するメールを送った。当時の文面を要約すると以下のようなものだった。
「ご存知の方もいらっしゃると思いますが、盗撮事件は主に△期(A男の学年)のお子さんたちの中で起こったことです。現時点で△期の保護者の皆さんはお1人もお子さんへの聞き取りとご報告にご協力くださらない状況をただただ苦しく、悔しく感じております。同じ子どもを持つ親として、同じ女性として、少しでも被害者やその親の心の痛みをご理解くださるのならご協力いただけませんでしょうか」
我ながら感情的な文面だが、とても冷静ではいられず、強い言葉をメールに書き連ねた。その後、A男の代の男子部員の保護者たちからぽつりぽつりと返信が来たが、どれも事務的な回答なことに再びショックを受けた。
「A男くんが盗撮したのは知っているけれど、わが子は画像を見ていないと言っています」
「画像を見ていないし、持ってもいないと言っておりました」
「盗撮があったことだけは知っていましたが、わが子は関わっておりません」
それを踏まえて理沙や他の盗撮被害者とも相談し、今度は学校を通じて「部員1人1人が謝罪文を提出すること」を要求したが、A男の学年の男子部員からは1人も謝罪がなかった。
それどころか、ある男子部員の父親は筆者に電話をしてきて「訴えるなら訴えろ」と恫喝した。また、ある母親は切手を貼付した返信用封筒と共に「この件は一切口外しません。また、今後一切この件で連絡はいたしません」と書いた「誓約書」なる書面にサインして返送しろと要求してきたのだ。
これには筆者も理沙も憤ったが、盗撮被害にあった他の女子部員たちが戦うことを望まなかったこともあり、追及はうやむやになった。後輩の部員にとってはA男は同級生であり、高校を卒業して新しい生活が始まるタイミングだということも影響したのだろう。
結局、3月に学校が開催した「説明会」を最後に、盗撮事件については「終わり」にすることになってしまった。
この一件で得たものは何か。盗撮に加担した男子部員や娘以外の被害女子部員とのやりとりには膨大な時間がかかり、精神的にも大いに疲弊した。家庭内でも、女性のデリケートな話題だからという理由で事態に関与しようとしない夫にも苛立ちが募った。
理沙はその後なんとか大学受験に成功し、今では社会人として新たな生活を始めている。それでも春頃までは盗撮をした男子部員たちのSNSをついチェックしてしまい、のん気に過ごしている姿に怒りを覚えることもあった。今でも時折、心の中で彼らに呪詛の言葉をかけてしまうことがある。
加害者たちが反省したかはわからない。それでも卒業間近に学校から呼び出され、保護者から聞き取りされた「事の重大さ」と「怖さ」だけは少しでも心の中に残っていて欲しい。
一方、戦ったことによって、盗撮をした男子部員たちが処罰を受けたわけではなく、理沙や他の女子部員は何も得ることはなかった。事件と正面から向き合ったことでむしろ傷ついたこともあった。
しかし、共に戦ったことで母娘の絆は強まったし、理沙にとって「何でも相談できる相手」「信頼できる相手」と認識されるようになったことだけは良かったと心の底から言える。
結果には全く納得していないが、泣き寝入りせずやれることはやったという自負は、娘が心の傷を乗り越えていく力になっているのではないか。今はそれだけを信じたいと思う。
(スズキ ハナコ)