「東京の火葬料金が上がっているとは聞いていましたが、まさかこんなにおカネがかかるとは……」
去る7月上旬に父を亡くした東京・荒川区に住む川本浩介さん(63歳・仮名)は、悲しみに暮れたのもつかの間、父の葬儀から納骨までにかかった費用に驚愕したという。
「お坊さんに払うおカネや、通夜の飲食代などがかさむことは想定していました。驚いたのは斎場利用にかかった代金です。式場使用料が約17万円、骨壺代が約1万5000円、粉骨代に約3万5000円など。何より不可解だったのは、火葬料金が9万円もしたこと。というのも、4年前に母を送ったときには、火葬代は5万円そこそこだったのを覚えていたからです。
値上がりの時代とはわかっていながらも、火葬代がここまで上がるものなのか? という疑問は禁じ得ないですね」
川本さんが嘆くように、東京の一部の火葬場では、’20年頃まで5万9000円だった火葬代が徐々に値上がりし、現在9万円に跳ね上がった。これに対して区民からの悲鳴が噴出している。
「渋谷区の代々幡斎場も値上がりがあったため、『なんとかならないのか』との声が相次いで寄せられています」と明かすのは渋谷区議会議員の桑水流弓紀子氏だ。
「全国的に見れば大半の火葬施設の運営は公的機関が担っているのですが、東京23区では歴史的経緯から、全9ヵ所のうち6ヵ所を、広済堂ホールディングス傘下の東京博善という民間企業が運営しています。その東京博善が、6月から火葬料金を9万円に設定しているのです。
他県では1万円程度のところもあるので、この金額は突出しています。生活が苦しい人や、葬儀を簡素に行いたい人にとっては大変な負担です」
東京博善の親会社である広済堂ホールディングスの筆頭株主は、3年前から「ラオックスホールディングス」の羅怡文会長の関係企業となっている。羅会長といえば、家電量販店「ラオックス」を中国人観光客向けの免税店に変え、大成功を収めた敏腕中国人実業家。その羅会長らが目をつけたのが日本の「葬儀事業」だった。全国紙経済部記者が解説する。
「現在年間約14万人の東京都の死亡者数は、今後増加の一途をたどり、’65年には20万人に達します。羅会長らは『多死社会東京』に着目し、注力することにした。この6月からは羅会長自らが広済堂HDの最高経営責任者に就任しました」
地価が高騰する都内に新しい火葬場を作ることはほぼ不可能。ゆえに、東京の火葬は東京博善の「独占状態」が続く。火葬料金を上げても多くの都民は利用せざるを得ないし、今後利用者は増える一方。経営は盤石というわけだ。
「5月の広済堂HDの決算説明会では、’24年3月期の売上高約360億円に対して、営業利益は約61億円―前年度の43%増になったことが報告されました。経営は絶好調で、今後の安定した成長予測も示された」(同)
この前編記事では、値上がりを続ける東京23区の火葬代について紹介してきた。続く後編記事「火葬代が値上げされても、結局東京都民は黙って利用するしかない…」多死社会ニッポンを見舞う想定外の大問題」では、値上がりの背景について引き続き紹介していく。
「週刊現代」2024年8月10・17日合併号より
「火葬代が値上げされても、結局東京都民は黙って利用するしかない…」多死社会ニッポンを見舞う想定外の大問題