「これは自分たちだけの問題ではないと感じました。社会のためにも絶対屈してはいけないと」。こう語るのは「岩下の新生姜」で知られる「岩下食品」社長の岩下和了氏である。いま岩下氏のXは闘争心むき出しな投稿で溢れかえっている。アンチに対して怯むことのない怒涛のレスバ(レスバトル)。自社商品に寄せて髪をピンクに染める名物社長を不屈の闘争へと駆り立てた“怒り”とは、いったい何だったのかーー。
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【写真】「岩下は女性の敵」「わいせつなグッズを作っている」とアンチから蒸し返された「新生姜を模したペンライト」。8年前、一部から指摘を受け販売を停止したが、岩下氏は「性的な意味を込めて作ったものではない」と反論している
騒動の始まりは6月24日深夜、岩下氏が、都知事選に出馬を表明した暇空茜氏(41)への応援メッセージをXに投稿したことだった。
〈暇空茜さんからブロック解除されてた。嬉しい。もうサブ垢使わないで済む。(サブ垢で毎日ずっと見てた。毎日!)実はブロックされた時も嬉しかった…最高に清々しかった! こんな命がけでピュアな人、見たことない。酷いなぁって思うくらい、美しい。頑張ってほしい!〉
こう無邪気な表現で熱烈なラブコールを暇空氏へ送った岩下氏。だが、このたった一度の投稿が深刻な事態を招いてしまうのである。
一般社団法人「Colabo」の会計不正疑惑を一人で追及したことにより、1億6000万円以上のカンパを集めるほどネット界で支持を広げた暇空氏だが、アンチも多い。特に多いのは、暇空氏をミソジニストと批判しているフェミニスト界隈である。
事態が急変したのは、フェミニスト活動家として知られる勝部元気氏がXで下記の投稿をしてからだった。
〈岩下の新生姜社長がガチの暇アノン(註・暇空氏の支持層に対する蔑称)だった もう絶対買わないし、取引先の企業や飲食店等には購買や契約の打ち切りを強く求めたいレベルの酷さ〉(勝部氏のXより)
岩下氏によれば、この「不買運動の扇動」に左派のインフルエンサーたちが呼応し、会社に苦情や嫌がらせの電話が寄せられるようになったという。
「会社に来た電話やメールは20~30件。多くは『貴社の社長が暇空茜さんを支持していることに失望した。今後は、購入を控えたい』という意見。理由の多くは、暇空氏が女性支援団体に攻撃を加えたとするもの。中には『会社ごと消えてください』という過激な声もありました」(岩下氏。以下「」は同)
Xでの誹謗中傷や非難は「日常業務としているエゴサができなくなるほど。体感として数日間で数万ツイート」。苦情は取引先にまで及んだ。
「弊社製品を利用していただいている大阪の『たこ焼 たこば』には抗議の電話が鳴り止まず、電話線を抜いて予約電話が受けられない状況に至ったと聞いています。他にも詳細は申し上げられませんが数社で被害が出ていると聞き及んでおります」
翌25日、岩下氏はXでこうぶちまけた。
〈自分とこの大事な商品、ひとこと誰かの「ファンです」ツイートしたくらいで、寄ってたかって潰しに来られたら、そんなん全力で守るに決まってる! 私の人生をかけた、命とも言える商品だぞ! 馬鹿にするなよ。おかしいぞ。何があるんだ? #ひまそらあかね と言ってはいけない何が?〉
ひとまず反論はこれに留めて沈静化するのを待った。だが、騒ぎは収まる気配はなく、商品や会社の経営体質を根拠なく誹謗中傷する声はネット空間で増幅していった。
「得体のしれない恐怖が押し寄せてくる感覚でした。事実でないことを切り貼りして印象操作を行い、それを大勢が拡散する手法で誹謗中傷が繰り返されました。気にするべきでないとわかっていても正直キツかったですね。一時は体重が4キロも減りました」
だが騒動3日目、お気に入りの食堂でカツカレーを食べている時、気持ちが変わった。
「よく考えれば“暇空茜さんがんばって”と、自分の正直な応援の気持ちを出しただけのことです。何も間違っていない。後ろ暗いことなどない」
「自分と意見が違うというだけの理由の不買運動に私が折れて、自分の発言を消したり訂正したり謝罪したりしたら、彼らに成功体験を与えてしまう。自分たちだけのことでなく、社会全体の視点に立って考えたら、絶対に屈してはならないと思い始めました」
そして、断固戦う決意をXで表明したのだ。
〈最初に「不買」を扇動した著名アカウントに従ってか、リアルで関係先・取引先に苦情入れるひと、本気で迷惑です そんな動きに屈するわけないでしょ! うちがそれに屈したら、貴方達、他でもそういうことするじゃないか!絶対に屈しない! ひまそらあかね氏を応援する理由、貴方達が作ってますよ!〉
そこから堰を切ったように反撃の投稿を連投した。
〈連中、当事者に、こういう恐怖を味わわせることで、いろんな文化を潰してきたのか。なんて卑怯なんだ。これまでターゲットにされた人々が本当に気の毒だ。こんなことはうちで最後にしてくれ〉
〈「岩下を黙らせろ」って今頃なってるんじゃないの? 岩下の新生姜への嫌がらせやめたら黙るよ。(ひまそらあかねさん、そこはごめんなさい。)でも、卑怯な嫌がらせ続ける限り、ひまそらあかねについて、口を閉ざす気はないぞ!〉
〈警察行きます。リポストしているこの人達についても〉
それまで自社商品の宣伝投稿ばかりが目立っていた岩下氏のXは、活動家のように様変わりした。やがて一部ネットメディアが騒ぎを取り上げ始め、「岩下の新生姜」はトレンド入り。次第に風向きが変わった。
「暇空さん自身が不買運動の異常さを語って広めてくれたのが大きかった。暇空さんの支持者ではない一般の方々の間でも 、商品に原因のないのに不買運動を繰り広げる異常さを指摘する声が高まりました 」
リベラル派の室井佑月氏までも、
〈新生姜の社長への嫌がらせをする人たちを、少し引き受けたくなりました。一般の人に対し、そういうことはやめて。どう見られるかを考えて。まだ仲間だと思っている私からのお願いです〉
と岩下氏を擁護。結果、どうなったかというと、
「ありがたいことに“応援買い”をしてくれるお客様が増えて、全国のスーパーやコンビニで品切れとなっているとの情報を多数目にするようになりました。ネット通販の受注は、今週、普段の約2倍になりました」
“焼け太り”したようにも見えるが、岩下氏は「マイナスの方が大きい」と語る。
「誹謗中傷を信じたお客様の誤解による信用の棄損に加え、私だけでなく社員や取引先まで心理的な恐怖を受けましたから。恐怖心を煽って口を塞ごうとするのは、まさにテロリズムであり、今回の件は『企業テロ』の一種と受け止めている。悪質な扇動を行った投稿については弁護士や警察にも相談をしており、必要に応じて法的措置も検討しております」
なお岩下氏が「扇動した」と名指しで批判している勝部氏は、自身のXで〈私が扇動したというデマを流されている〉〈岩下氏こそ、私が扇動したなどというデマ・扇動をやめるべきです〉と反論している。
一時は会社をリスクに晒す投稿をしてしまったことについて、岩下氏は「後悔はない」と語る。
「常識のある人たちはみんな『キャンセルカルチャー』にうんざりしていると思うんです。守るべきものがあるのなら、毅然と、負けない意志を示すことが大事だと思います。言いたいことも言えない社会では話にならない。今では落ち着いてきたので、社員も大丈夫と言ってくれています」
学びもあったと続ける。
「結局、正しく生きるってことに尽きると思う。小さな間違いはおかしても天に誓って、おかしな生き方はしてこなかった。美味しく楽しい商品をつくり、お客様に喜んでもらう。金儲けが目的じゃなくてお金は結果としてついてくるくらいでちょうどいいんだって思って経営してきました。だから批判されても大した話は出てこなかった。腹をくくることもできた」
そして、暇空氏に熱烈なエールを送るのであった。
「暇空さんが当選したとする。そうしたら、公金から岩下に利益誘導してくれる? 彼がそんなことするはずないじゃないですか! 僕もそんなこと求めていないし、当選しても求めるつもりなんてありません。そういう応援じゃないんです。みんなが利権を求めて政府・地方公共団体の近くをうろちょろし、公金をたかろうとしている。そんなおかしな世の中を正しい方向に導いてくれることを彼に期待しているのです。本当にピュアな気持ちで応援しています」
デイリー新潮編集部