日本にインバウンド客が急増する中、人手不足の問題が深刻化している。その影響か、飲食店などのサービスの質の劣化、低下を感じている日本人がいると思うが、在日中国人や中国人観光客も同様に感じているようだ。
50代のある女性は、以前日本に住んでいて、日本で体験した「おもてなし」のすばらしさを、いつも中国の友人に自慢げに語っていたそうだが、ここ数年のサービスの劣化には「驚きを隠せない」と話していた。
飲食店で「日替わりランチ」のメニューを聞いても店員が答えられなかったり、注文を間違えて聞いても、「すみません」の一言もなかったり、会計の金額を間違ったりするなど、以前の日本では「あり得ないことが増えた」そうだ。間違いは誰にでもあるが、「素直に謝らない態度を見て、まるでここは中国か?と思ってしまったほど」といった人もいた。
日本人でも同様にサービスの質の低下を感じている人もいると思うが、一方で「そんなことはない」と否定する人もいるだろう。その人が住んでいる地域、飲食店の価格帯、ランク、その人の受け止め方などによっても異なるので、一概に言うことはできない。
だが、帝国データバンクの『人手不足に対する企業の動向調査』(24年4月)によると、正社員の人手不足は51.0%と高止まりしており、とくに「旅館・ホテル」「飲食店」で高水準が続いている。また、業績の下振れ要因として「人手不足の深刻化」をあげる割合がトップとなり、多くの企業がこの問題を懸念している。
人手が不足すれば、これまでは当然のようにできていたことができなくなり、顧客に十分なサービスを提供できなくなる可能性が高くなる。東京商工リサーチが10日に発表した今年5月度の全国企業倒産件数も11年ぶりに1000件を超え、当面、人手不足が解消される気配はない。
前編で紹介した和食店に憤っていた女性の中国に住む友人も、今春、5年ぶりに来日し、名古屋に行き、その際、有名百貨店内のレストランに足を運んだそうだ。荷物が多かったため、少し奥まった、ゆったりした席に一人で座ったが、店員は女性に気づかなかったのか、長い時間、誰も注文を取りに来ず、放置されたそうだ。
ようやく注文をして、料理が運ばれてきても、箸がなく、水も持ってこなかったという。この女性は隣のテーブルに置いてあった箸を自分で取り食べたそうで、「私がこれまで日本で味わってきた高級感、すばらしいサービスは、感じることはできなかった」と友人に吐露したそうだ。
私に話してくれた人々の中には、「これまで日本のイメージがとてもよかっただけに、自分だけにたまたま起きた不運な出来事だったのかなと、まず自分の行動に問題がなかったかどうかを疑った」という人もいたが、同様のことが何度か重なり、偶然ではないと思ったそうだ。
むろん、これはごく一例に過ぎないし、統計を取ったわけでもない。サービスに対する評価、考え方は個人差があり、数値化できるものでもない。
だが、日本人の私も、飲食店などで同様の疑問を抱いたり、がっかりしたりする機会が増え、彼女たちの話に共感を覚えた。たとえ日本語が堪能でも、日本人との接点が少ない観光客や在日中国人の声は、なかなかサービス業の現場にまでは届かないだろう。
彼らの背後には、同様の思いを抱えている人々がかなりいるのではないだろうか、と考えさせられた。
「日本のサービスってこんなだっけ?」…在日中国人が1400円の定食に衝撃を受けて激怒したワケ