刑務所では娯楽が少なく、受刑者にとっては読書が最大の楽しみと言っても過言ではない。世間の情報は、刑務所の中では知る方法が少なく、世の中の情報が多く書かれている週刊誌は、最新の情報を得られるものとして受刑者に喜ばれている。
週刊誌は出版社によって記事の内容、視点が違うため、編集部毎に特色が色濃く出るのが特徴である。そのため、受刑者たちが読んでいる雑誌も、各々の趣味、趣向によって変わってくる。
では、どのような週刊誌が受刑者に多く受け入れられているのだろうか。
実際に受刑者として刑務所に収監されていた方々に、話を聞くと有名な雑誌の名前が名を連ねた。
1位:『週刊大衆』(双葉社)
最も刑務所内で読まれている雑誌は、週刊大衆になる。
こちらの雑誌は、暴力団、芸能ゴシップ、エロスを中心に構成されている娯楽色が強い実話誌だ。
「50代くらいの建設関係者や、水商売上がりの連中がよく読んでいる印象があります。内容がその人たちの好みに合っているのだと思います。どんな記事でも読みやすい。言ってしまえば、少し頭の悪い人にもわかるように記事が書かれている点が人気の理由だと思います」(50代)
「大衆が選ばれているのは『エロさ』ですね。刑務所に入るエロさの限界が大衆になるので、これ以上のエロい雑誌は刑務所に入ってきません。また他のヤクザ記事を取り扱っている雑誌なんかだと、ほとんどが入らないので、こちらの内容も刑務所内ではギリギリなんだと思います」(50代)
週刊大衆が選ばれる理由としては、文章の読みやすさとエロさが丁度良く、刑務所内に入りやすいといった点がある。
暴力団の記事やエロ記事に偏り過ぎていると、刑務所に入らず領置(受刑者の元まで届かず、管理されること)や廃棄となる。
こうした理由で実話時代(三和出版)のような実話系ヤクザ雑誌は人気ではあるが、刑務所内で読まれることはないと聞く。
2位:『アサヒ芸能』(徳間書店)
芸能をメインに取り扱っている娯楽誌がアサヒ芸能だ。
1位の週刊大衆と雑誌のキャラクターは似ているが、内容はややスキャンダルに寄っているため、芸能が好きな受刑者たちに好まれている。
「週刊大衆と違って、なぜかアサヒ芸能は間違いなく、刑務所内に入ってきます。これが安心して選ばれる理由です。過激すぎてもダメ、普通過ぎても面白くない。記事のバランスが良く読んでいても楽しいし、固い話が無いのもありがたかったです」(40代)
「芸能系の記事が多いので、ヤクザ未満、チンピラ以上の人が読んでいる印象です。私たち世代の芸能ネタが沢山載っていて、他の受刑者との話題にもつながりやすく雑談のネタにもなりました」(50代)
芸能が好きな受刑者に好まれていたようで、刑務所の中でも芸能を知りたい人が良く読んでいる雑誌となる。
暴力団関係者は、こうした娯楽雑誌を好まないようで、今でいう半グレに近い人が好んで読んでいるようだ。
3・4位同率:『週刊現代』(講談社)・『週刊ポスト』(小学館)
同率で選ばれたのは週刊現代と週刊ポストとなる。奇しくも発行部数が業界3位の週刊現代と、4位の週刊ポストが並び、競合雑誌が選ばれる形となった。
「流行に乗り遅れたくないって気持ちは受刑者にはあります。シャバでは何が流行っているのかは刑務所では知ることが難しいです。『今テレビでは誰が出ているのか?』『あいつはどうなった?』こうした話題を追えるので人気でしたね」(40代)
「正直どっちでもよかったです。『今月はポスト、来月は現代』のように選んで買う人もいました。この二つは競合誌だからどちらか読んでいれば満足できるので、熱心なファンが多いというより、とりあえず買うくらいの雑誌です」(40代)
暇つぶしになる雑誌であれば、何でもいいと考えている受刑者が選びがちなのがこの2誌になる。
一般層に向けての記事が多くなっている両誌の違いは、受刑者にはあまりないようだ。受刑者が惹かれる内容よりも、世間一般の人が惹かれる内容が多く掲載されているためこの順位となった。
5位:『週刊文春』(文藝春秋社)
最後の紹介は週刊文春。世の中のスクープを連発し『文春砲』なる言葉まで誕生している雑誌だ。
週刊誌の知名度は最も高いだろう。販売部数も総合週刊誌で最も高く人気ぶりが伺える。
「固い文章で記事が書かれているので、読み書きの勉強になりました。しかし、面白さは他の雑誌が上です。60代以上の高齢受刑者にも人気でした。他の雑誌だと、ちょっと物足りないと感じる人が読んでいる印象です」(40代)
「不良や、暴力団が見栄を張って買っていました。ヤクザたちは舐められたら終わりなので軟派な大衆娯楽雑誌ばかりを読んでいるわけにはいかないんでしょう。ただ気にしているのはヤクザだけなので、実際は誰も気にしませんでした」(50代)
刑務所では固く書かれた雑誌よりも、柔らかな文体の雑誌が人気な傾向だ。文春は政治のようなとっつきにくい内容も多く、そのためこの順位となった。
暴力団や半グレのような人が、セクシーな女性ばかりが載っている雑誌を購入し続けると、他の受刑者に「暴力団なのにスケベなんだな」と思われるため、周りの目線を気にして、このような硬派な雑誌をよく購入するようだ。
女性刑務所では読まれる傾向が違う。実際に収監されていた合沢萌氏に話を聞いた。
男性の受刑者ばかりを取り上げたが、女性刑務所では、どのような雑誌が人気なのだろうか。
去年10月に出所した合沢萌さんから、女性刑務所で読まれている雑誌について、話を聞くと、男性受刑者とは違う答えが返ってきた。
「私がいた刑務所で人気だったのは、ダ・ヴィンチ(KADOKAWA)です。こちらは文芸誌で、本を紹介しています。刑務所だと、どのような本が面白いのかといった情報が入ってきません。そのため文芸誌が人気でした。週刊誌だと女性自身(光文社)が人気でした。他の週刊誌は男物っぽいので、それに比べて買いやすいからだと思います」
刑務所内では、普段一切読書をしない人でも読書をするようになる。最初はどのような本を買えばいいかがわからず困るため、文芸誌を購入しアンテナを張るのだという。
合沢萌 Xアカウント:@aizawamoe YouTubeアカウント:https://www.youtube.com/@ladyprisoner_moe
雑誌ばかりを取り上げたが、漫画雑誌も人気だ。
中には60歳を超える受刑者が週刊少年ジャンプ(集英社)のような少年漫画雑誌を購入し、雑居房で漫画の雑談をしているケースもある。20代の若い受刑者に限らず、漫画はどの世代でも読まれ、その人気ぶりが伺える。
紙メディアが衰退していると言われている昨今、確実な需要は刑務所の中にあるのかもしれない。
※算出方法:元受刑者10人に、同じ部屋で読まれていた雑誌を10冊選んでいただいて多い順に集計しました。
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