東京・上野を中心に飲食店をチェーン展開する「サンエイ商事」の経営者夫婦が殺害され、栃木県那須町の河川敷に火をつけられて捨てられていた事件で、栃木県警と警視庁の合同捜査本部は5月1日、新たに実行役の2人を死体損壊容疑で逮捕した。夫婦殺害を計画した首魁から依頼を受けた“遺棄グループ”は、これで全員が逮捕されたとみられる。また、遺棄グループ内での指示役の「アニキ」こと佐々木光容疑者(28)が客引きで生計を立てていたことが判明し、被害者とのおぼろげな接点が浮かび上がった。
〈画像多数〉NHK大河「軍師官兵衛」で主人公の幼少期役や映画「ぼくが命をいただいた3日間」で主演をつとめた元俳優の若山耀人容疑者と、平山容疑者の「カエルとダルマ」の刺青写真
新たに死体損壊容疑で逮捕されたのは韓国籍の姜光紀(カン・グァンギ)容疑者(20)と元俳優の若山耀人(わかやま・きらと)容疑者(20)。2人は4月16日早朝、那須町伊王野の林道脇の河川敷で宝島竜太郎さん(55)と妻の幸子さん(56)=ともに東京都千代田区=の遺体に火をつけて損壊した疑い。
姜容疑者と若山容疑者は、佐々木容疑者に指示されて犯行用の凶器や車両を用意した平山綾拳容疑者(25)から、犯行前日の4月15日夜、品川区内のコンビニ駐車場で乗用車の引き渡しを受ける様子などが防犯カメラに映っており、捜査本部が全国指名手配していた。ふたりはバラバラに逃亡していたが、姜容疑者は同30日に神奈川県内にいるところを、若山容疑者は5月1日午前5時ごろ千葉市内にいるところを捜査員が発見、身柄を確保した。
若山容疑者は岐阜県出身の元子役俳優で、2014年に岡田准一が主演したNHK大河ドラマ「軍師官兵衛」で主人公の幼少時代、映画「ぼくが命をいただいた3日間」で主演を演じていた。
この“遺棄グループ”について、社会部デスクが解説する。「この事件では犯行翌日に平山容疑者が『事件に関わったかもしれない』と警視庁大崎署五反田駅前交番に出頭したことから次々にめくれていった。平山容疑者が『アニキから頼まれて飲み仲間2人に遺棄を依頼し、車を引き渡した。アニキからは3人分の報酬として千数百万円を受け取った』などと供述し、実際に防犯カメラなどで裏付けが進んだ。
当初、平山容疑者は『アニキは怖い人』などと名前も言わなかったが、あっけなく佐々木容疑者と判明し、逃亡先の沖縄・那覇空港で確保。佐々木容疑者は『ある人物から4月の初めに遺体の処理を依頼された』と供述を始めており、宝島夫妻の殺害を計画した人物との接点があるとみて追及しています。平山容疑者と佐々木容疑者は『渋谷のクラブで出会った』と供述しており、SNSで連絡をとりあっていたようです。2人が出会ったクラブはビギナーな若者が集まるいわゆる“ナンパ箱”で大学生、新社会人、上京したての若者の交流の場として人気があるようなところ」
徐々に浮かび上がる猟奇的事件の全貌。捜査本部の発表では佐々木容疑者は「住所、職業不詳」だが、集英社オンラインの取材で福岡県出身、フリーの「客引き」を生業としていたことが判明した。知人の飲食店関係者によると、佐々木容疑者は今年2月ごろから上野でフリーの客引きをしており、付近にはサンエイ系列の飲食店も複数あったという。
「(佐々木)光はそれ以前は中洲(福岡市博多区の繁華街)で仕事をしていて、おそらくキャッチをやっていたと思います。今年の2月ごろに人づてで紹介されて、4月の半ばくらいまでこっちで客引きをしていて、ウチの店にも客を入れてくれていました。髪の毛は黒髪でスーツ姿、ワイシャツは黒でしたがブランド品などもなくお金はあまりもっていない印象でした。『コワモテ』という報道をみましたが、礼儀正しくてふだんから敬語、真面目な九州男児のイメージです。低姿勢で話すからお客さんからも『あの子いい子だねー』って好かれていました。パリピとかクラブ好きといった印象もありません。彼にお酒をおごってくれる人もいて、すぐ真っ赤になっていたので酒はあまり強くなかったと思います」(佐々木容疑者と交流があった店舗関係者)
佐々木容疑者は周囲からは「ササキさん」と苗字で呼ばれていたという。関係者が続ける。「彼は女の子にも優しくて、寒いときは外で立っているとジュースをおごってくれることもありました。出勤時間はだいたい午後6時半ごろから午前2時くらいまでで、始発で帰っていた印象です。上京後間もないのでまだ人脈はなかったと思いますが、4月1日ごろ『後輩が車で迎えにくる』と話していたので、友達もそこそこいたのかもしれません。
(事件前日の)4月15日の夜にもキャッチに出ていて、慌てた様子で店前を走っていたのを別の従業員がみています。それからすぐに『体調が悪い』『風邪をひいた』という理由で上野に顔を出さなくなりました。それでまさかの逮捕…。髪の色も違うし、テレビを見て驚きました」
佐々木容疑者も、取り調べに対し宝島夫妻について「面識がない」と話しているという。事件発生から間もなく2週間を迎える。だが、別の関係者によると宝島夫妻の葬儀の日程もまだ決まっていないという。「アニキ」の逮捕はまだ、事件解明の入り口にしか過ぎないようだ。
客引きの「アニキ」にまだ生きている宝島夫妻の「遺体の処理」を依頼したのは黒幕なのか。♯11で報じた、捜査関係者が関心をよせる「X」とも点と線がつながってきた。事件は確実に核心に迫っている。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班