前編記事『大量発生する「マダニ」が危険すぎる…公園遊びで油断してはいけない、致死率2割の感染症』より続く。
マダニは今やどこにでも存在する。前出の岡林氏が語る。
「ペットとして飼っているネコが草むらからマダニを持ち帰ってきたり、近所の野良ネコと戯れているときにもらって家に持ち込みます。イヌよりも接触の機会が多いネコからヒトに感染しやすく、飼い主が実際にSFTSウイルスを移された事例もあります」
ペットが持ち込むマダニに咬まれるだけでなく、注意すべきはすでに感染しているペットが直接ヒトに移すケースである。
’16年、弱ったネコを保護しようと抱えて咬まれた50代の女性が、SFTSを発症して死亡した。これが哺乳類からヒトに感染して死亡した世界で初めての事例だが、女性がダニに咬まれた形跡はなかった。
また、体調不良のネコを治療していたある獣医師はネコの身震いで飛んだ体液の飛沫で感染した。
ペットと触れ合うとき、指のささくれから感染する恐れもある。それほど感染力は強いのだ。
「イヌよりもネコの発症数が多く、致死率はイヌで29%なのに対し、ネコでは60~70%です。ネコの感染は4月に多く、5月にはヒトへの感染が増える傾向にあるので、体調の悪いペットに注意してほしいです」(岡林氏)
さらに恐ろしいことに、マダニが媒介するSFTSがヒトからヒトへ移ることも、先月初めて日本で確認された。
感染したことがわかったのは20代の医師。昨年4月、SFTSを患った90代の男性患者を診察したときに移った。患者がSFTSと診断される前の診察で手袋をしておらず、死亡した後の処置ではゴーグルをつけていなかったという。
農作業もせず山にも入らず、ペットを飼っていない人でも、他人から移される恐れが出てきた。
では、どのようにして身を守ればよいのか。
厚生労働省や医師らがすすめる、マダニから身を守る方法は次の通り。
・屋外ではシャツの袖口は軍手や手袋の中に入れ、ズボンの裾に靴下をかぶせる。首にはタオルを巻くか、ハイネックのシャツを着用する
・屋外活動後はシャワーや入浴をする
・上着や作業着は家の中に持ち込まない
・ペットの感染を防ぐために、虫除け剤が入ったスプレーを使用する
もし咬まれたら―マダニは長時間、ときには10日間以上も吸血する。吸血中に取り除こうとすると、マダニの口が皮膚の中に残って化膿することもあるので、皮膚科などで除去や消毒などの処置を受けよう。
五箇氏が警鐘を鳴らす。
「マダニは日本紅斑熱やダニ媒介脳炎などの原因にもなります。’22年に死亡した茨城県の70代女性は、マダニが媒介するオズウイルスに感染したのですが、これが世界初の死亡例となりました。マダニのような吸血性昆虫はどんな未知のウイルスを持っているかわかりません。渡り鳥もマダニを運びますから、大陸からウイルスがやってくる可能性もあるんです」
わずか数mmの生物やペットに殺される危険が日常に潜んでいることを忘れてはならない。
「週刊現代」2024年4月20日号より
大量発生する「マダニ」が危険すぎる…公園遊びで油断してはいけない、致死率2割の感染症