〈人口156人、上陸困難な“絶海の孤島”青ヶ島を現地取材! 1週間生活してわかった“リアルな島暮らし”〉から続く
東京都心から約360km離れた絶海の孤島・青ヶ島。2024年1月1日時点の人口は156人で、「日本一人口の少ない村」としても知られている。そんな青ヶ島の日常をYouTubeで発信しているのが、島民の佐々木加絵さん(40)だ。加絵さんが運営している「青ヶ島ちゃんねる」は登録者数14万人超の人気を誇る。
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青ヶ島ではいったい、どのような人々が暮らし、どんな生活が営まれているのだろうか。加絵さんに話を聞いた。(全3回の3回目/1回目から続く)
佐々木加絵さん(本人提供)
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――加絵さんは、YouTube以外にもいろんなお仕事をされているそうですね。
佐々木加絵さん(以下、加絵) はい。配達業、コワーキングスペースの運営、デザイナー、青ヶ島の観光ガイド、あとは実家が「かいゆう丸」という民宿を営んでいるので、その手伝いもしています。青ヶ島は人口156人(2024年1月1日時点)の島だから、1つの仕事だけでまとまった収入を得るのが難しく、私のように複数の仕事を掛け持ちしている人が多いんですよ。例えば私の弟は、建設業と漁業をしながら、村会議員としても活動しています。
――たくさんの仕事を掛け持ちしていると、みなさんかなり忙しいのでは?
加絵 そうですね。青ヶ島出身と言うと、「のんびりした人が多そう」という印象を持たれることが多いのですが、実際にはせっかちな人が多いかもしれません。村の飲み会などがあると、集合時間の30分前には来て、準備を始めている人もいます。
――「島時間」という言葉もある中、意外とそうでもないのですね。
加絵 意外性で言うと、島には若い人が多いんですよ。全国の15歳から64歳の人口割合が59.5%のところ、青ヶ島は69.2%。実際に島を歩いていても、見かけるのは30~40代の若い人ばかりです。

――なぜ青ヶ島には若い人が多いのでしょうか?
加絵 いろいろ理由はあると思いますが、介護や医療の問題が大きいと思います。島には介護施設や病院はなく、小さな診療所がひとつあるだけです。病気を患ったら島から出るしかありません。
――健康で元気だからこそ、島に住めるのですね。では島の人達は、どのような1日を過ごしているのでしょうか?
加絵 私は、午前中はSNSやメールのチェックをして、連絡船が来る日は12時から16時頃まで配送の仕事をします。配送が終わったら「かいゆう丸」で掃除や夕飯の準備をして、その後はYouTubeにアップするための動画編集をしていることが多いかな。夜はNetflixで韓国ドラマを観たり、友達の家に飲みに行ったりしています。
青ヶ島には集落が1つしかなく、みんな徒歩数分圏内のご近所さんだから、飲み会はいつも深夜まで行われています。私は眠気に勝てなくていつも深夜の1時くらいには帰宅するんですけど、明け方まで飲んでいる人も多いですね。そして、朝にはちゃんと仕事に向かう。ほんと、タフな人が多いんですよ。
――休日は何をして過ごしているのでしょうか。
加絵 そもそも、島には自営業の人が多いので「休日」という考え方があまりないんですけど……あえて言えば、畑をやっている人は多いかな。
――仕事が休みなのに、畑で働くんですか?
加絵 働くというよりも、癒やしの時間なんです。都会の人たちがベランダで家庭菜園やガーデニングを楽しむのと近いかもしれません。あとは、サウナに行ったり、宅飲みしたり、ゲームをしたり、NetflixやHuluでドラマや映画を観たりしています。
――都会での遊びとそこまで変わらないのですね。では、島の子どもたちはどんな遊びをしているのでしょう。
加絵 子どもたちも変わらないと思いますよ。最近話した子は、YouTubeの実況動画を参考にしながら、Switchでポケモンやマイクラをしていると言っていました。

――青ヶ島には現在、小学生が6人、中学生が2人いると聞いています。「部活」や「習い事」はあるのでしょうか?
加絵 今は、サッカーや柔道、太鼓、バンド、ピアノを習っている子がいると聞いています。
――「今は」というのはどういう意味でしょう?
加絵 学校に固定の部活や習い事があるわけじゃなくて、その時々で子どもたちが「やりたい」と言ったものを先生も含めた島の大人たちが教えているんですよ。子どもたちだけで人数が足りないときは、大人が交ざることもあります。私が子どもの頃は、剣道とピアノと太鼓を習っていました。
――想像以上に、島では子どもの頃からいろんな経験ができるのですね。
加絵 島は、都会と違って物やサービスが豊富ではないので、何でも自分たちでやらなければいけません。その影響もあってか、子どもたちの「やりたい」に応えられる器用で多才な人が多いんですよ。そんな大人を見て好奇心を掻き立てられるのか、子どもたちも2、3個部活と習い事を掛け持ちしている子が多いんです。

――青ヶ島では毎年、1年間島外の中学生を受け入れる「島留学」も行ってますよね。移住に興味のある子育て世代も増えてきていると思いますが、島ではどのくらいの生活費が必要なのでしょうか?
加絵 島には飲食店や映画館、クラブといったお金を遣って遊ぶ場所がほぼありません。もちろん人にもよりますが、ひと月10万円もあれば充分な暮らしができると思います。実際に村役場で働いている友人は、「給与は手取り20万円ほどだけれど、毎月10万円以上は貯金できている」と言っていました。
環境面でもお金の面でも、子育て世代はもちろん、パソコン1つでどこででも仕事ができるリモートワーカーにもおすすめの場所です。ただ、移住希望者が住める家がない、というのが問題になっていまして。
――移住希望者が気軽に引っ越せるよう、「空き家バンク」を活用している地方自治体も増えてきていますが、青ヶ島ではそういった活動はないのでしょうか?
加絵 青ヶ島は海に囲まれた島だから、空き家は潮風ですぐダメになってしまうんです。村営住宅の建設は盛んに行われていますが、村役場に勤める人が優先的に住めると決まっています。公費以外で新しく家を建てようと思っても、家を建てる材料費よりも、その材料を島まで運ぶ送料のほうがすごくて……。

――家がないから、移住者が増えない、と。
加絵 はい。移住者が増えないから、子どももどんどん少なくなっていて。私が小中学生の頃は、同級生が4人いました。でも今の青ヶ島には、先程も話題に出た通り小学生が6人、中学生は2人で、同級生がいないのが当たり前になりつつあります。しかも中学生は2人とも、島留学で一時的に滞在している子たちです。
――島生まれの子どもが少なくなっているのですね。
加絵 数年前までは「もんじ」という島内の居酒屋で期間限定のバイトを募集していて、毎年のように本州からリゾートバイト感覚で来る人がいました。その中には、バイトの期間が終わっても島に残り、そのまま島の人と結婚する方もいたんですよ。でも今はその居酒屋が閉店したため、島の人と本州の人が出会う場はほぼなくなってしまいました。
現在、島には若い人が多いですが、小さい頃から家族のように育ってきているから、今更幼馴染との結婚は考えられません。役場や学校に転勤で来た人と島の人が結婚することはありますが、任期が終わると家族で本州に戻ってしまいます。
島の少子化問題を解決するには、以前のように島の人と島外の人が出会う場を増やす必要があります。そのためには、少しずつ観光客や移住者を増やしていかないといけません。でも、受け入れる住居の数に限界があるというジレンマを抱えている状況です。
住居問題と少子化問題の解決の一助となればという思いで、現在、私が主導して島内に「ミュージアムハウス」と「グランピング施設」を作る計画を進めているんです。

――ミュージアムハウスとはどのようなものなのでしょう?
加絵 まだ構想段階ではあるのですが、青ヶ島の文化や自然を紹介するミュージアム兼ゲストハウスを作りたいんです。ゲストハウスは、短期間の観光客だけでなく、将来移住を考えているような長期滞在の人も泊まれるようにしたい。また、ミュージアムの隣には飲食スペースを併設して、そこでリゾートバイトを復活させたいと思っています。
――では、グランピング施設は?
加絵 二重のカルデラがある池之沢という地域には、現在もキャンプ場があります。そこに、簡易住宅の設置計画を進めています。資材の輸送費が高額になるなど、解決すべき課題はありますが、それがクリアできれば観光客や移住者を受け入れる場所が一気に増えるので、いろんな課題の解決につながるはず。キャンプ場のすぐ近くには、トイレとサウナ、そして炊事ができる地熱釜があるから、日常生活にも困りません。
将来的には、キャンプ場以外にも簡易住宅を設置して、移住希望者が住める場所をさらに増やしていきたいです。
――実現したら、観光客も移住者も増えそうですね。
加絵 ミュージアムハウスの企画は、東京都の支援を受けられることになったのですが、まだ課題は残っていて……。運用資金は都が補助してくれるものの、実際の建築や運用は村役場と協力しながら進めていく必要があります。ただ、小さい村なのでマンパワーがなく、なかなか企画が進まないんです。(2023年12月取材時点。1月に村長選挙が行われ、現在は企画実現に向けて動きが加速しているそう)
――行政と連携する難しさもあるのですね。
加絵 青ヶ島には「ひんぎゃの塩」や「青酎」といった歴史的にも文化的にも価値の高い特産品がありますが、それらも自治体のサポートを受けずにやっています。先ほど話題に出た「島留学」も、「自治体を通すより早いから」という理由で、島民が個人で立ち上げたんですよ。

「自分の力で島を良くしよう」という、還住(島民たちが力を合わせて、噴火で無人島になった青ヶ島を開拓し、再興した1835年の出来事)の歴史を引き継いだ青ヶ島スピリッツは島の誇りです。でも、住居問題や少子化など、個人では解決が難しいものもあります。
――そういえば、青ヶ島の投票率は毎回80%前後とかなり高いそうですね。
加絵 青ヶ島は人口約160人の小さな島ですが、「村」なので島の中に村議会があり、そこで村長を決めます。親族や友人が議員や村長をしているから、政治への興味関心が強いのかも。最近では30、40代の若い議員も増えてきているんですよ。
――先ほど、加絵さんの弟さんも議員だと言っていましたね。
加絵 はい。私の弟も含め、青ヶ島には「この島をもっと良くしたい」と思う若い人たちがたくさんいます。その人達が心置きなくチャレンジができる自治体になっていってほしい。
若い人が村を引っ張り、もっと新しいチャレンジができる環境が整っていけば、島内の雇用が増えて、島にUターンする人や移住する人が増えていくと思うんです。

――それが、加絵さんの理想の青ヶ島なのでしょうか?
加絵 うーん、正直今の暮らしには満足しているんですよ。でも島の未来を考えたら、今から動くべきことがあるんだろうなって。
数年前に青ヶ島沖で金鉱脈が見つかるなど、この島が発展を遂げるチャンスはたくさん眠っています。でも、それを活かすための人が足りない。行政には、この課題にもっと向き合ってほしいですね。
とはいえ、何か変えたいことがあるなら人任せにするのではなく、可能な限り自分で動く必要もある。私自身は、YouTubeやミュージアムハウスの計画を通して、島の未来のためにできることをしていきたいと思っています。
写真=佐々木加絵さん提供
(仲 奈々)