株式会社LIFULLによる「二世帯同居、うまくいく家いかない家【二世帯同居調査1】」に興味深い調査結果がある。それは、「住宅の共有状況」によって、二世帯同居が「うまくいっている」と感じる人の割合に違いがあること。親世代・子世代の居住空間が「完全に独立している」人のほうが、住居を一部でも共有している人に比べて「非常にうまくいっている」と答えた割合が多いのだ。
親子であっても生活スタイルが異なる以上、二世帯同居には周到な準備とお互いの距離感が必要だと思わされる調査結果だが、現実にはなし崩し的に同居に踏み切る人もいる。
〈「息子と毒嫁に騙された…」夫に先立たれた67歳女性がハマった「二世帯同居」の落とし穴〉でお伝えしたように、夫をなくしたジュンコさん(67歳・仮名=以下同)は、「この家をリフォームして一緒に住まないか」という息子夫婦の提案を受けて、二世帯同居に踏み切った。しかし家の名義やリフォームについて一切息子任せにしていたら、自分の部屋は1階隅に追いやられ、洗濯機は2階にあるのみ、おまけに湯船もなくて銭湯に行けと言われる始末。
息子とその妻マナミさんに騙されたような気持ちになったジュンコさんだが、彼女を襲う「二世帯同居」の苦しみは、まだこれが序の口だった……。
実際、生活が始まってみると、「嫁はずる賢かった」とジュンコさんは言う。それまでジュンコさんは「嫁」という言い方を公私ともにしたことがなかったが、同居するようになってから「嫁」や「毒嫁」と自然に言ってしまうようになったそうだ。
最初は週に1、2回、「お義母さん、ごめんなさい。どうしても間に合わないので保育園のお迎え、お願いできますか」と言っていたマナミさんだが、数ヶ月たつうちに、それはほぼジュンコさんの仕事となった。
「忙しいので、夕飯の下ごしらえをしておいていただいていいですかと言われて、そうすると、次は『申し訳ありません。作って子どもたちに食べさせてもらえますか』となり、結局、私が毎日やるのが当たり前になっていった。
しかも、味つけが子ども向きじゃないとか献立が栄養不足だとか文句を言われて、1週間の献立表を渡されるようになりました。この通りに作れということですね。献立表の脇には『塩やしょう油は控えて』とメモがついているんです」
30数年の主婦歴を小バカにされたような気持ちになったという。
食材は週に2回ほど宅配で届くが、足りないものはスーパーで買うよう指示された。しかも銘柄が決まっている。
「マナミさんはオーガニックでなければダメというタイプなので、彼女が指定したものは、電車で30分かかる自然食品店に買いに行かなければならないんです」
ジュンコさんの負担は増えるばかり。パートを続けるのもつらくなっていった。息子は「パート、やめれば? おかあさんの小遣いくらい僕らがあげるから」と言ったが、夫の遺族年金が入る通帳は息子に「僕が管理するよ」と取り上げられていた。
ジュンコさんが自由になるのは昔からの自分のわずかな預金と、別の銀行口座に入ってくる国民年金だけだ。パートを辞めるわけにはいかなかった。
「たまりかねて娘に電話して打ち明けると、『だから言ったでしょ。軒を貸して母屋をとられるって』とさんざん言われました。それでも息子のためになるなら、孫のためならとがんばってはみたんです。
でも昨年夏、息子一家は私に黙って旅行にいきました。朝起きたら、『家族旅行に行くから。○日には帰る』と息子の字でメモがあっただけ。息子には少しは罪悪感があるんでしょう。だから口では言えず、メモを残していったんだと思う。息子はマナミさんに騙されているんですよ」
一家が旅行中、隣家の人にバッタリ会うと、「ジュンコさんも一緒に行けばよかったのに」と言われた。昔からのつきあいだから、「いや、私は誘われなかったのよ」とつい本当のことを言ってしまった。
「そうしたら彼女、『え、マナミさんが、お義母さんを誘ったけど、忙しいからって断られた。一緒に行きたいんですけどねって言ってたわよ』と。それを聞いて私はびっくりしました。なんて性悪な毒嫁なのかと……」
旅行から帰ってくると、息子は名物と書かれた小さな菓子折をひとつ渡してきた。こんなものいらないと突き返してやりたかったが勇気が出なかった。
家族はリビングでワイワイ楽しそうに話していたが、ジュンコさんは顔を出す気にもなれなかった。笑い声を聞きながらひとり部屋にいる孤独感は、ひとり暮らしのときには感じたことのない虚しさを伴っていた。
「マナミさんは息子の前で聞こえよがしに、今度はお義母さんも一緒に行きましょうねと言ったんですよ。よくそんなことが言えるものです。私を軽く見ている証拠ですよね」
その旅行で味をしめたのか、外食に行くときもジュンコさんは誘われなくなった。
「外食には一緒に行きたくなかった。そういうときはひとりで好きなものを作って、広いリビングでのんびりしていました。ただ、外食を断っていると、息子には『おかあさん、何かいじけてる?』と言われることもありましたね」
あちらが勝手にやるのなら、自分も勝手にやるまでだとジュンコさんは徐々に開き直っていく。自室前の庭に洗濯機を設置、配水管の工事もしてもらった。それを知ったときの息子の怒るまいことか。思い出しても笑えるとジュンコさんは言った。
「近所に知られたらどうするんだというわけです。僕らがおかあさんのめんどうを見てないみたいじゃないかって。コインランドリーに行くのが嫌なら2階に洗濯物を持ってくればいいだろと。
いや、実際にめんどう見てもらってないし、毎日おさんどんさせられて私は家政婦扱いだし、嫌がらせみたいに2階に洗濯機があるからって、行けるわけがないでしょと思い切り言いたいことを言ってやりました。
あんた、考えてごらん、この状況と言ったけど息子には伝わってないみたいでした。旅行にだって誘われてないんだからねと暴露したら、さすがにちょっと驚いていたようですが、それでも息子としては妻を庇いたいんでしょう」
今年に入り、ジュンコさんはパート先の友人に紹介してもらった弁護士に相談した。通帳を取り戻すことが目的だ。
自分の言っていることが被害妄想ではないと明らかにするために、病院に行って、認知症ではないことの証明ももらった。
「通帳を取り戻したら別居することも視野に入れようと思っています。実はリフォームに関しては私もいくらか支払いをしている。そのとき息子に通帳とカードを預けたら、『今後、僕が管理してあげるよ』と言われたんです。
もしかしたら、勝手に使われているかもしれない。そうだとしたら裁判も辞さないつもりかと弁護士に聞かれ、そこは悩んでいるところですが……」
こんなことなら古い家であっても、ひとりで暮らしていればよかった、あるいは自宅を処分して高齢者サービスのある賃貸住宅にでも住めばよかった。後悔ばかりが先に立つ。
「もちろん、優しい子どもだったら同居もありかもしれませんが、息子でも娘でも結婚すれば他の世帯ですから、同居なんかしないほうがストレスはたまらないような気がします。
子どもたちと暮らそうなんて考えなければよかった。二世帯で暮らそうと子どもが言ってきたときは裏がある……そう考えたほうがいいかもしれません」
この年でこんな後悔を抱えることになるとは、とジュンコさんは自嘲的な表情になった。
* * *
株式会社クランピーリアルエステートが20~30代の男女200人を対象にした調査によれば、「義両親との同居はアリ?ナシ?」をたずねたところ、8割近くの人が「ナシ」と回答したという。
ジュンコさんは夫に先立たれてはいるものの、二世帯同居を望む子世代は本来稀だということである。実の子の言葉を疑うのは気が進まないが、「一緒に暮らそう」と言われたときには、いったん立ち止まって考えたほうが良さそうだ。
「あなたは何人産んでも子育てが下手ねえ」夫と一緒にモラハラ三昧だった義母に訪れた「意外な最期」