東京都は女性の活躍推進に取り組む企業などに「東京都女性活躍推進大賞」を贈呈している。令和5年度は、建設業として初めて佐藤興業が大賞を受賞、塗装業等を営む建設会社だ。とはいえ、佐藤興業も2015年時点では女性の職人・施工管理・役職者は0人だったという。
「当社のキーワードは多様性と適正配置です」こう話す佐藤東平社長は、インターンシップなども活用し女性職人や施工管理希望者を積極採用。その結果、女性職人は13人、全体の23.6%に増えたという。
佐藤興業で働く浅津星亜さんは、インターンシップを経て2019年に入社。
塗装技能士として令和5年全国建築塗装技能競技大会に出場、日本建築仕上材工業会会長賞を受賞するほどの技術の持ち主だ。
浅津さんは、女性職人が増えたことにより塗装という仕事の表現の幅がひろがったのはもちろんのこと「入社したころは現場に少なかった女性用の更衣室やトイレがきちんと用意されるようになった」と話す。
見落とされがちかもしれないが、建設業を“女性の職場”にしていくために重要な環境整備のひとつだろう。
また、佐藤興業では入社年数ごとに将来の道筋を示す「キャリアパス」を策定。入社1、2年目は先輩社員につき基本を学ぶ「一般教育」から始まり、専門教育、中堅社員、等とステップアップしていくと、最終的には「暖簾分け」「ビジネスリーダー」にまで至る。
具体的な道筋を示すことで、「自分の進みたい道やそれに向けて何をしなければいけないか考えやすい」との声があがっているという。
費やした時間でどれだけ効果・満足を得られるかという「タイムパフォーマンス(タイパ)」を重要視するZ世代にとって、自分の将来の時間軸の把握できることは、職場を選ぶ重要な指標のひとつなのではないか。
建設業というと力仕事が多く男性の職場で女性には難しいというイメージがある。
そこで佐藤社長は新人に対するキャリアプランのアンケートで以下の質問して適性をはかるという。
(1) 自分の得意なことと苦手な仕事は?(2)家族と友達にどんな長所と短所があると言われるか?(3)2、3年後どうなりたいか?(4)将来のキャリアプランは?(3、6、9年後など)
佐藤社長は「(1) (2)の質問で個人の強みが見えてくる」としたうえで「男性でも力が弱い人は勿論います。その人が重量物を運んでもメリットないかも、と思っています。何かハンデがある場面では、その分、他の作業で自分の特性や得意分野を人より発揮して人の役に立つように伝えています。」
性別だけでなく、個人の個性を丁寧に見ていくことで、様々な人が働きやすい職場の『最適解』が見えてくるのかもしれない。
女性比率の向上とともに、今後どこまで多様性をあふれる職場づくりをするのか注目したい。
意見交換会では、参加者から女性特有の体調不良についても話が及んだ。
小池知事は「私も40代後半、仕事ばっかりやりすぎて、半年間で2回おなかを切ったことがありました。どうせなら1回ですませたかった。ボンネットを開けるのとワケが違うので。」と話し、卵子凍結補助、女性特有の悩みを解決するフェムテック企業への支援などに触れつつ、働く女性の支援策にかける思いを語った。
参加者からは「今後も若い人の話を聞いてほしい」と“注文”が入るとともに、「小池知事も人間だったんだな、と思いました」との“つっこみ”もあった。
内閣府の男女共同参画局によると、女性の就業率は15歳から64歳で72.4%、25歳から44歳で79.8%となっている。15~64歳の男性が84.2%となっていることもあり、決して低い数字ではないといえる。
女性の就業率があがっているにもかかわらず、女性が活躍が進まないのはなぜか。
株式会社Will Lab代表取締役で、G20に女性政策を提言するW20の共同代表を経て、内閣府男女共同参画推進連携会議有識者議員を務める小安美和氏は「女性の就業率は上昇しておりM字カーブは改善しつつあります。しかし、女性は非正規雇用が多いほか、勤続年数が短かったり、役職がついていなかったりすることから賃金が上がらず、男女間の賃金格差が依然としてあります。また、男女で配属の偏りがあり、ポジションや賃金が上がらない構造となっている職場もあります」と、職場の構造改革の必要性を指摘する。
都は魅力ある職場づくりを推進するため、結婚から子育てまでのライフステージ支援、賃上げに取り組む都内中小企業に専門家を派遣し、取り組み内容に応じて最大130万円の奨励金をだすなど、200項目弱の雇用支援策をうちだしている。
しかし、いくら数多くの支援策があっても使えなければ意味がない。
多忙な日々を過ごしていたとしても、必要な支援を『選びやすく使いやすい』環境整備も都に求められているのではないか。
厳しい人手不足が叫ばれる中、すでに高い女性就業率からすれば女性雇用の人数的“伸びしろ”は小さいとも思える。
女性が活躍して生産性を上げることができる職場づくりが急務であろう。
(執筆:フジテレビ社会部 小川美那)