いつの時代も、会話によるコミュニケーションは重要です。しかし、コミュニケーションに困難を抱え、学校でうまく会話ができずに悩んでいる発達障害の子がたくさんいます。相手の受け答えを聞かずに熱弁をふるってしまったり、相手の話を最後まで聞けなかったり……。
発達障害の子は、ほかの多くの子とは異なる、ユニークなコミュニケーションのスタイルをとっています。彼らに合った場面で、同じ波長の仲間となら、気持ちよく話ができることもあります。ですから、「うまく話すことより、楽しく話すこと」を目標にしてサポートしたいものです。
ここでは、『発達障害の子の「会話力」を楽しく育てる本』(藤野博監修、講談社刊)のエッセンスを、全8回にわたって紹介。発達科学の知見に基づきながら、発達障害の子が楽しく会話力を伸ばしていくためのヒントを探っていきましょう。
発達障害の子の「会話力」を楽しく育てる 第1回
小学校で友達との会話に苦労しているAくんのケースを見てみましょう。
Aくんは小学3年生の男の子。両親、妹と4 人でくらしています。家庭ではおしゃべりで、テレビや動画、ゲームの話をするのが好きです。話すことに集中しすぎて、相手の受け答えを聞かずに熱弁をふるっていることもあります。
Aくんがあまりにも情熱的で家族がついていけず、話がすれ違うこともあります。しかし、そういうところも含めて、家族全員で会話を楽しんでいます。
学校でも同じように話をしたいのですが、過去に趣味を語りすぎて友達に嫌がられてしまったことがあり、Aくんは最近、自分から友達に話しかけようとしません。
Aくんは、学校では自分が話すと場が白け、会話が盛り上がらないと感じています。それがこわくて、給食の時間も黙ってすごしています。
みんながおしゃべりをしているときに黙っているため、友達との関係がなかなか深まっていきません。休み時間も放課後も、ひとりでいることが多くなっています。
Aくんには、「趣味の話を語りすぎる」という特徴があります。それが家庭では個性として輝いていますが、学校では強すぎる個性となっています。学校のように集団行動の多い場では、特徴がまわりに敬遠されてしまう場合があるのです。
発達障害の子は、学校の友達など同年代の子とおしゃべりをするのが苦手なことがあります。ほかの大多数の子と感じ方や考え方が違うため、コミュニケーション・スタイルも違い、会話がすれ違うことがよくあるからです。
そのような子のスタイルを、まわりが「ちょっと変」だと感じて、平均的な話し方に直そうとすると、その子に無理をさせてしまいます。そして、会話力がなかなか育たなくなることも。
発達障害の子のユニークなスタイルを、ほかの子と比べて「不足している」「かたよっている」と考えるのではなく、ただ「違っている」のだと考えましょう。「違い」があるだけで、違いに合った育て方をすれば、その子らしいユニークな会話力がしっかりと育っていきます。
理解のある家族や趣味の合う人、特徴の似た人など、話し方のスタイルが合う相手とは、会話を楽しめることが多いものです。そのような相手・場面を増やすことが、会話力アップにつながります。
それでは、どのようにして会話力を育てていけばよいのでしょうか?
会話力というと、一般的には上手におしゃべりをして場を盛り上げる力をイメージするのではないでしょうか。
・誰とでも上手に雑談ができる ・長時間話していても話題がつきない ・相手の話を引き出すのがうまい
大人は子どもたちに、こうした「会話力」を求めがちです。しかし、発達障害の子に必要なのは、その子が得意な話し方や聞き方を用いて、必要な会話をする力です。
・日常生活に必要な会話ができる ・子どもの得意なやり方をベースにしている ・本人が会話を楽しめている
会話力の成長には、話し方のテクニック以上に、子どもが会話を楽しむ経験や「話したい」という気持ちが重要です。それには、その子が会話に自信をもち、会話を楽しめるように、環境を整えることが有効です。子どもの「やり方」「やりたいこと」「わかりやすさ」を意識して、対応していきましょう。
【会話力を育てるための3つのポイント】
●その子のやりたいことを
趣味や興味など、その子がモチベーションを保てることを会話にとり入れる。子どもが会話を楽しめる場面を増やしていく。
●その子の得意なやり方で
その子の話し方や聞き方にクセがあっても否定しない。その子の得意なやり方だと受け止め、それをベースにして会話のスキルを育てていく。
●その子にわかりやすく
まわりの人が、その子にとってわかりやすい言い方、情報の示し方を意識する。それにより、その子の会話への苦手意識をやわらげる。
会話力を育てるには、子どもに合った対応をするのもポイント。そこで次回は、『発達障害の子の「会話力」を楽しく育てる本』(藤野 博 監修)から、ASD、ADHD、LDの3タイプに分けて、それぞれの特徴と会話への課題についてお伝えします。
次回記事『話がすれ違う、気が散る、テンポの速い会話が苦手。発達障害の子は会話で悩んでいる!』はこちらから。
話がすれ違う、気が散る、テンポの速い会話が苦手…発達障害の子は会話で悩んでいる!