しわをとり、若々しく見せるなどの美容目的の注射で、しこりなどの合併症が報告されている。「額が膨らみすぎてコブダイのようになった」という女性に話を聞いた。
【映像】お尻のように割れてしまった“おでこ”
「(額が)日々大きくなっていたので、今考えたらよくこれで生きてたな…」
3年半ほど前、おでこのしわを消して丸みをだし、若々しく見せたいとある美容クリニックで施術を受けたという岡田美香さん。行ったのは、PRP+bFGF(ベーシックエフジーエフ)という注射だ。
「『膨らみすぎますよ』という説明はまったくなくて…。自分のなりたい丸みを出せますという感じの(説明)。私もそんなに心配していなかった」(岡田さん、以下同)
注射を打った直後から効果を感じていたという岡田さん。しかし、おでこの膨らみは収まらず、2年後には、予想だにしなかった形に変形してしまったのだ。
「肥大化しすぎちゃった。額がちょっと割れているような、お尻のような感じになっていて、額の限界を感じたというか、皮膚も相当伸びていた。(当時)誰に会っても『何かおでこやってますか?』と必ず言われるぐらいかなりパンパンな状態。何か偽造しているというか、『自然でこんな人いないよな』という顔になっていた。今考えたらコブダイにしか見えない」
自身をコブダイに例えるほど、突き出てしまったおでこ。岡田さんの打ったPRP+bFGF注射とはどんなものなのか。
PRP療法は再生医療に分類され、患者本人の血液中に含まれる血小板を利用することで、傷ついた組織の修復を促すことを目的としている。
そこに、修復機能の増強を目的として添加されたのがbFGF。しかし、これはやけどや床ずれなどを治療するための外用薬であり、製薬会社は「注入投与は目的外使用であり、有効性・安全性は確立されていない」と注意喚起している。
また、日本美容外科学会(JSAPS)も2021年度版の診療指針で、有効性は「あり」としながらも、「注入部の硬結や膨隆などの合併症の報告も多く、bFGFの注入療法は安易には勧められない」としている。
この注射により、おでこが膨張してしまった岡田さんは、施術を受けたのとは別の美容クリニックへ駆け込んだ。
「相談した先生に『これはちょっと異常なのでとにかくかき出しましょう。切開して出さないとこれは無理です』と言われ、切ることを決意した」
傷を最小限にするため、こめかみを切開したものの、すべては取り切れず、結局全額切開することに。
「取り出したものは、脂肪に似ていた。脂肪吸引で取った、黄色いウニウニしたような」
おでこを肥大化させていたものを取り除き、元の状態に戻すことはできたものの、注射代50万円と、治療のための2度の手術代250万円で、およそ300万円かかったという。
それでも、注射を打ったクリニックを訴えることはしなかったという。
「私はクリニックで同意書を書いている。思い通りになっていないといっても、施術としては『正しいことをやりましたよ』となってしまう。だから(300万円を)捨てたようなもの。自分の体も傷つけて、皮膚も傷つけて、いろんな神経も切って…」
切らずに手軽に受けられることから広く行われている「PRP+bFGF注射」だが、慎重な姿勢を示している医師もいる。
神戸大学病院形成外科・美容外科客員教授の原岡剛一氏は「安全な手法の開発に注力している医師はいるものの、その手法に広く合意は得られていない」と話す。
「現時点では、私は実施するつもりはない。この合併症の起こる機序、どうしてそういうような合併症が起こってしまうのか、その合併症がもし起こってしまった時どのような治療法があるのかがまだ確立されていないのでは。異常な増殖を引き起こした場合、それをコントロールする方法は少なくとも私の知る範囲ではない」
合併症が起きたとしても、注入したbFGFだけを取り除くことはできない。ステロイド注射で鎮静化させることも考えられるが、最終的にはしこりなど組織ごと外科的に切除するしかないという。
一方で、施術を行っている複数のクリニックのHPには、「(PRP+bFGFの)厚生労働省認可施設」「国に届出した再生医療」などの記載がある。
一見、「国が認めた治療法」にも思えるが、再生医療の法制度に詳しい国立がん研究センター生命倫理部長の一家綱邦氏は「法律に基づいて実施されているという再生医療であっても、国が安全性や有効性を保証する仕組みにはなっていない」と警鐘を鳴らす。
再生医療を行う場合、国が認定した再生医療の委員会の審査を受けた計画を国に届け出る義務がある。しかし、審査では使用される材料の安全性は検討されるものの、施術の有効性までを保証するわけではないという。
保険外診療の再生医療の中でも、有効性まで厳しい審査を経ているものもあるが、自分が受けるものについてどのような審査が行われたかについては、委員会の構成員や審議内容を自身で確認する必要がある。
国への届け出は、もともと再生医療の実態を把握するために始まった制度であった。だが、一家氏はその実態について「現在は『法律に基づいて行われている」という、その形式的な事実だけが一人歩きして、宣伝材料、患者さんの安心材料に使われてしまっているようにも思う」と指摘する。
また、障害やその恐れがある事象などが起きた場合は国への報告が必要となっているが、この療法が含まれる第三種再生医療全体の統計を見ても、報告はほぼない。厚生労働省によれば何が「障害」に当たるのかは統一した基準がなく、医師の判断によるという。
こうした現状のもと、美容医療を選択する場合、どのような点に注意したらよいのか?
原岡氏は、「自由診療であることを念頭に、合併症が起きたときの対応まで確認することが必要」としたうえで、医師側の姿勢も問われているという。
「『適応外使用を行う=悪』では決してない。そうなると、美容外科が全部悪人になってしまう。とはいえ、患者さんに適応外使用であることをきちんと説明することは絶対求められるべきであり、『すごくいい治療ですよ』とだけ伝えて患者さんに勧めることは厳に慎むべきだ。それは医師としての矜持にかけてやっていただきたい」
PRP+bFGFの合併症に悩まされた岡田さんは今後もSNSで情報を発信していきたいと話す。
「注入のオペはすごく手軽で、みんな手を出してしまうが、『これだけお金をかけても失敗している人もいるんだ』と伝えたい。自分がもうあほ過ぎて本当に…。仕方がないので前を向くしかない」
また、合併症が起きてしまった場合の対処について、一家氏は次のように述べる。
「医師の説明を受けて医療を受けることに同意したからといって、全てが患者さんの自己責任になるわけではない。医師の説明が適切でない場合には、法的に問題になる。また、再生医療等安全性確保法の合併症報告制度において『障害』の定義が曖昧だからこそ、患者さんには障害=合併症の発生をまずは再生医療を受けた医療機関に報告することが期待されるし、医療機関もやりっ放しではなく、実施結果を把握する責任があるだろう」(『ABEMAヒルズ』より)