目をカッと見開いて手術台の上に横たわる「しろ」の姿を見つけたときの絶望感は、察するに余りある――。十分な説明がないまま手術を受けて飼っていたウサギが死んだとして、飼い主の夫婦が動物病院らに慰謝料など計660万円の損害賠償を求めた訴訟で、裁判所が病院側の過失を認め、計66万円の支払いを命じた。
【写真まとめ】元気だったころの「しろ」
判決は京都地裁で3月26日にあった。夫婦らが5日に会見して明らかにした。代理人らによると、動物は損害賠償額が人間に比べて低く、訴訟を断念するケースが多いという。
訴状によると、ウサギはネザーランド・ドワーフホト種の雌で、名前は「しろ」。夫婦は21年8月15日、しろが食事や排便をしなくなったことから、「ベトリード」(奈良市)が運営する「けいはんな動物病院」(精華町)を受診。内科的治療を受けていたが、18日に担当医から「何もしなかったら今日の夕方には腸管が破裂して死んでしまうかも」などと言われ、夫婦は手術の同意書にサイン。しかし手術中に腹などを切開したタイミングで心停止し、しろが死んだ。
判決で中山裕貴裁判官は、当時、ただちに外科的治療が必要な状況ではなく「内科的治療の継続も選択肢だった」と認定。同意書に外科的治療の危険性の記載もなかったとして病院側が「飼い主に対して確認すべき注意義務に違反した」と結論付けた。
会見した飼い主の紀良明さん(54)は「金額は重視していない。医師側などの過失が認められたことがなにより」と話した。妻(50代)は帰宅すると駆け寄ってきたしろとの生活を振り返り「動物は言葉が話せない。動物が不当な医療を受けることがなくなれば」と訴えた。
病院を運営するベトリードは「判決についてはコメントを差し控える。控訴の意向については弁護士と相談する」とコメントした。【水谷怜央那】