静岡県の川勝平太知事は10日、辞表を提出する予定だ。
4月2日夕方の突然の辞意表明のニュースは、静岡県だけでなく、全国を駆け巡り、まるで、「お笑い川勝劇場」の様相を呈した。
静岡県と全く関係のない芸能人らがワイドショーなどでこぞって川勝知事の「不適切発言」を本気で怒っているから、びっくりさせられた。
猫も杓子も「川勝はけしからん」「知事なのに何って発言をするんだ」などの一斉攻撃を始めたのだ。
1日の新規採用職員向けの訓示で、「県庁はシンクタンク(政策研究機関)だ。毎日毎日、野菜を売ったり、牛の世話をしたり、モノを作ったりとかと違い、基本的に皆さま方は頭脳、知性の高い方たち。それを磨く必要がある」などと述べたことが報道され、県庁へ苦情の電話、メールが殺到、職業差別発言と糾弾された。
その職業差別発言が辞意表明のきっかけとされた。
しかし、翌日の3日午後、急きょ、静岡県庁で開いた記者会見で、川勝知事は「(不適切発言は)1つの大きな辞任の理由だが、これ自体はことばの使い方あるいは説明不足であり、直すことができる」と開き直った。
これに対して、記者が「昨日の段階で不適切と思っていないと話していた。撤回をしない意向も示したが、現状ではどうか」とただした。
川勝知事は「心を傷つける人がいるという指摘を受けると、直接行って謝りたいぐらいだ。そういう意図とは違い、説明すればわかるぐらいで不十分な表現が針小棒大なかたちで批判に結びついたという面もある。傷つけたことはわたしの心も傷ついているので、申し訳ない」などと釈明した。
さらに「全部を読んでもらえれば、わかってもらえる。言い換えると、不適切だとは思ってなかった。一部だけを取れば、差別発言ともとられかねないところがあるのは確かで、そこで傷ついたことは不本意であり、申し訳ない気持ちがある」などと述べた。
これでは、実際には、不適切発言と思っていないから、撤回を拒否した。
ところが、2日後の5日夕方になって、川勝知事は「職業差別を受けているととられるのは遺憾千万」などと発言の撤回を表明した。
農業、酪農団体などの「撤回しろ」表明に屈したかたちだが、実際には、3日に行った説明が知事の真意なのだろう。
立ち止まって、冷静になって考えてみればわかるが、川勝知事が政治資金規正法や公職選挙法など何らかの法に触れることをしたわけではない。
また自民党派閥の裏金疑惑のような政治責任を問われているわけでもない。
よくある女性問題やセクハラ、パワハラでもない。
県庁の新規採用の若い職員に向けて、仕事への自信と誇りを持って向かってほしいという願いが知事の真意であり、実際には、農業や酪農団体を貶める意図など全くなかったのだろう。
ところが、若い記者たちは「鵜の目鷹の目」で川勝知事のことば狩りを続け、どんな発言にもアンテナを立て、あら探しをしていた。あらゆる取材でボイスレコーダーを用意していた。
そうとも知らずに、いつも通り、目の前の相手を上げるのに、誰かと安易に比較してしまう昔ながらの癖が出たのだ。
その比較対象の相手が、今回は、「野菜売り」や「牛の世話」、「モノづくり」だったのはまずかった。
「一部だけとれば、差別発言ととられかねない」(川勝知事)のだが、メディアは一斉に、「一部の差別発言」に集中攻撃した。
単に、川勝知事のわきが甘く、過去の時代では許された差別的な価値観を変えることができなかった。
川勝知事は、過去の暴言失言のほうが今回の発言よりももっとひどかった。それでも辞めさせられなかったのは、手も足も出なかったからである。
後編『辞表提出した川勝知事の再出馬は?…「2027年開業断念」は静岡の未着工が理由は虚偽で』で詳しく解説する。
辞表提出した川勝知事の再出馬は?…「2027年開業断念」は静岡の未着工が理由は虚偽で