遺品は故人の生き方を反映する。大量のものに囲まれて一人で亡くなられた現場を見ると、「親子関係は良好だったのだろうか」などと、つい生前の暮らしぶりに思いをはせてしまう。誰もものを持っては逝けない。形はさまざまだが、結局のところ、最後は誰もが「身ひとつで逝く」。
孤独死、自殺、ゴミ屋敷、夜逃げの後始末……“社会の現実がひそむ”遺品整理と特殊清掃の現場を克明に記録した『遺品は語る』(赤澤健一著)から、日本の現状をお届けしよう。
『遺品は語る』連載第9回
『「床から天井まですべてゴミ」…ヤバすぎるゴミ屋敷で発見した“3000枚”の〇〇と清掃員が抱いたある複雑な 「思い」』より続く
ゴミ屋敷の多くは、一人暮らしの高齢者が住んでいる。ゴミを片づける体力を失ったり、面倒になったりしたためにゴミ屋敷化するのだ。認知症との関連を指摘する専門家もいるようだ。
だが、一人暮らしではなく、ご高齢の母親と40代の娘さんが一緒に住んでいるのにゴミ屋敷となった案件を経験したこともある。
ADHDという発達障害がある。注意欠陥多動性障害といって、忘れ物が多かったり、衝動的で落ち着けなかったりといった症状を示す。この障害のためにものを片づけられなくなってしまった娘さんが原因の案件だった。
お二人から依頼を受け、話を聞いてみると、娘さんは若いころからADHDのため片づけができず、お母さんが元気なうちは片づけをしてくれていた。ところが、お母さんが高齢化して、掃除や片づけができなくなってしまったのだという。
見積もりに伺うと、古い家だが一戸建てで、屋内のみならず廊下や玄関まで、腰の高さのゴミに埋め尽くされていた。悪臭もひどく、ハエやゴキブリも大量発生している。
そんな中で生活すること自体が危険だ。早急にゴミを片づける必要がある。
ゴミ屋敷で恐いのは、ゴミのために転倒が多くなることだ。それでケガをすることもあれば、打ちどころが悪くて死亡することさえある。
迅速に処理する必要がある一方で、ゴミ屋敷の案件では作業量自体も多くなりがちだ。たとえば、この案件のようなケースでは、大量のゴミを運び出す以外に、部屋を清掃し、薬剤で消毒し、さらにゴキブリなど害虫を駆除するといった追加作業が欠かせない。
事実、比較的小さな家だったが、ゴキブリが壁の隙間にまで入り込んでしまっていた。徹底的に駆除しなければ、繁殖してまた大量発生することになる。ゴミ屋敷では、ほかにも配水管など配管の隙間にまでゴキブリが入り込んでいるのが普通だ。
もちろんこれらは、私どもが遭遇した中でもかなり困難な事例であることは確かだ。しかし、レアケースというわけでもない。なにしろいまや、こうした事例が全件数の一割以上を占めているのだから。
『「海外で爆売れ」日本の中古品販売を取り巻くヒドすぎる現状と遺品リユースの意外過ぎる「実態」』へ続く
「海外で爆売れ」日本の中古品販売を取り巻くヒドすぎる現状と遺品リユースの意外過ぎる「実態」