東日本大震災の被災者に貸し付けられた9都県の約525億円の災害援護資金のうち、8都県で約57億円の返済が滞っている。
今春から返済期限が到来し始めるが、生活が苦しく、支払いの見通しが立たない被災者は多い。回収には自治体側の負担も大きく、独自に免除の判断基準を設ける動きも出ている。(盛岡支局 長嶋徳哉、東北総局 吉田一葵)
■生活苦
仙台市で高齢の母親と2人で暮らす無職の男性(44)は、2011年10月に震災で壊れたテレビやパソコンの修理費用として150万円を借りた。当時は仕事を転々としていたが、「10年後には定職に就いて返済できるだろう」と考えていた。
だが、翌年に難病を発症。定職に就けずに滞納を続け、督促を受けた昨年から月3万円ずつ返済し、契約社員の仕事を失った先月からは3000円に減額してもらった。男性は「見通しが甘かった」とこぼした。
親族から引き継いだ返済に苦しむ被災者もいる。
宮城県塩釜市の70歳代の女性は、80歳代の夫と17年に亡くなった母親が借りた計300万円を少しずつ返済している。年金は月9万円ほど。認知症の夫が利用する介護施設費用も必要で、70歳を過ぎてから水産加工のパートを始めた。「今は食べていくのが精いっぱい。せめて整理してからあの世に行きたい」と話す。
■今春にも期限
災害援護資金は、6年の猶予期間を含めて借りてから13年以内に返済する必要があり、早ければ今春に期限を迎える。
内閣府によると、岩手、宮城、福島3県の滞納額は、22年9月時点で計55億1333万円。市町村別では仙台市が最も多く、26億4446万円に上る。東北市長会は昨年10月、返済期間延長などを盛り込んだ特別決議を採択。12月には北海道東北地方知事会が国に提言した。阪神大震災では5度の延長を繰り返した。
■相続人
一方、回収作業は、自治体にとって大きな負担となっている。災害弔慰金支給法は借り手の死亡や重度の障害、破産などの場合に返済が免除されると定めているが、実際には死亡者を免除するには相続人がいないことを前提としており、その確認項目は多岐にわたるため、時間がかかることが多い。
このため、仙台市は借り手が死亡した場合に返済を免除する独自基準を採用している。〈1〉不動産や預金の有無〈2〉生活保護の受給〈3〉連帯保証人の有無〈4〉借り手と相続人との関係性――を中心に判断し、20年10月から昨年末までに計1億7536万円分の免除を決めた。宮城県気仙沼市でも同様の基準策定の検討を始めた。
仙台市では、相続人がいても支払いの可否を判断し、免除する運用も検討している。市災害援護資金課の斎藤充課長は「返済を引き継いでも家計に余裕のない人の負担を軽減する必要がある」と話す。
災害援護資金に詳しい関西大の山崎栄一教授(災害法制)は、「保証人がいらないため借り入れしやすい一方、相続人に引き継ぐことを強調すると被災者が借り入れの申請をちゅうちょしかねない」と指摘し、「給付型に変えることも検討すべきで、このままでは返せない人が増えるばかりだ」と話している。
◆災害援護資金=災害弔慰金支給法に基づき、全半壊世帯などに150万~350万円を低利で貸し付ける制度。国が3分の2、残りを都道府県か政令市が負担し、貸し出しの窓口となる市町村が回収する。