実名もあれば、「匿名」とする人もいる。
「寄付ネーム」とでも、呼べばよいだろうか。兵庫県三田市社会福祉協議会が2か月ごとに発行する冊子「社協だより」には、個人や団体名が並ぶ。困窮世帯や高齢者らへの福祉事業を目的とした「善意銀行」に、お金や物資を贈った人の一覧だ。
掲載の名前は思い思いに決められるため、漫画の主人公などを名乗る例も。その中に、毎月2000円の寄付を続ける「2011.3.11」さんがいる。
東日本大震災の起きた日付だ。理由を直接聞きたくて、市社協を通じて取材を申し込むと、「特別なことをしているわけではありませんから」と謙虚な言葉だけが伝言で戻ってきた。三田市に住む70歳代の女性だということのみ、明かしてくれた。
市社協によると、毎月欠かさず窓口に顔を見せては「わずかですけど」と、直接お金を託しているという。東日本大震災の直後から続いているというから、総額では30万円を超える。尊い思いが、どれだけ多くの人たちのために役立てられたことだろう。
その女性が、今年1月の寄付分で「名前」を変えた。「2024.1.1」と。能登半島地震の発生日だ。次々と起こる巨大災害の被災者たちに心を寄せていきたい。そんな温かさがにじむ。
窓口で、女性が阪神大震災への思いを語っていたことがあるそうだ。担当者は「きっと29年前の経験と記憶が、困っている人に手を差し伸べる背景でしょう」。ずっと女性は「1995.1.17」の名前を心に持ち続けてきたのだろう。
東日本大震災の発生から、11日で13年になる。忘れない、と誓いを新たにする日だ。あなたの名は? そう問われているような気がする。(竹村文之)