「俺も今までそんなに男が嫌なら自衛しろよwと思ってたが、こういう危険にさらされてる側の実情を知らなかった。何したって狙われるのに自衛しろはお門違いだったわ 俺ヒョロガリだから自信ないけど、変な男いたら注意するようにする」
【写真】自衛しろと思っていたが考えを一転、そのきっかけは?…実際の投稿
不動産会社に勤務していた派遣社員が行った営業所内での性加害、監督など強い立場を利用した俳優への性加害など、SNSやテレビで話題になるもののほか、痴漢や盗撮など性にまつわる事件が連日飛び込んできます。それに対して、「狙われるような服装をしているから、被害者にも問題あり」「嫌だとその場で拒絶すればいいのに」と被害者に手落ちがあったかのように攻撃する人もいます。
ぽよっちさんも、かつてはそんな考えを持っていたひとり。性的なトラブルに遭わないように、被害を受ける側が自分を守ればいいと考えていました。
しかし、あることをきっかけに被害を受ける人たちに心を寄せるようになります。「加害者対被害者と対立を煽るのではなく、男性にも女性にも優しい社会になって欲しい」と胸の内を語ってくれました。
ぽよっちさんが以前の考えを改めたのは、友人がとある犯罪に巻き込まれ、精神的に危ない状況になったから。「ニュースやTwitterで見る事件ももちろん許せませんが、実際に被害者を目にするのは全く違いました。いつも元気だったのにもう笑わなくなった。一生笑えないのかなと思ったら、犯人は普通に暮らしてるだろうになんで…と悔しくなりました」。
犯罪のトラウマで、何に対しても怯えるようになった友人を前に、まずは、自分が変わろう、できれば周りの男にも変わってもらえたらなと思うようになったそう。
泣き寝入りどころか、本当に辛いと助けを求めたり、警察へ行って訴えたりする元気すらなくなることも実感。 「痴漢を受けた時点で、どうして何もしないんだろうと以前は思っていました。でも、苦しくて何もできないんですよね」。
心が変わっていく過程で、かつて痴漢にあった母に向けた心ない言葉にも悔恨の念が生まれました。
「当時はバカだったから、母に対して、物好きもいるんだな~wとかまだまだいけてるってことじゃんwとか言ってしまいました。そのことを謝りに行ったら泣いていて…。その日もその日以降も思い出しては泣いてたらしくて、俺は何をやっていたんだろう、と思いました」
母からは辛い人の気持ちがわかる大人になってくれて嬉しいと言われたそうですが、「俺も第二の加害者だったのに、なんで被害者の方が優しくならなきゃいけないんだろってもっと情けない気持ちになりました」。
これらのことをSNSで投稿したのは、「痴漢に対しての考えが甘く、無意識に他人を傷つける、かつての自分のような人が減って欲しいと思ったから。また、過ちを犯してしまった人達も心を入れ替えて欲しい、できれば謝罪する勇気を持って欲しいという気持ちもあったから」でした。
また、痴漢被害を打ち明ける人に対し寄り添うふりをする人もいます。「“あなたの顔が痴漢の好みだったのでは”“どんな服を着ていたの?”“胸が大きく見えたんじゃない”“どんなことをされたの”などとセクハラ発言をする人たちもいるようなので、そういう言動は慎んで欲しい。それは二次被害です」と注意を促します。
しかし、投稿後は思わぬ事態に見舞われます。「痴漢の怖さをわかってくれてありがとう」「思いやれる気持ちが素敵」などの声が寄せられた一方で、「媚びんな」「男のフリして呟くの楽しいか」など批判的なリプライが届いたのです。
「自分を変えようと思ったところで止まるべきだった。他人まで変えようとするのは無理だ。日本語もまともに通じない人がいるって初めて知ったよ… 俺達は間違っても加害者になってしまわないようにしよう!って言っただけで死ねとか殺すとかまで言われる事態になるとは」と戸惑いを隠せませんでした。
この状況について、ぽよっちさんは「実際に性被害に遭った女性と、よく知らずに冤罪を過剰に恐れる男性の意識の差を痛切に感じました。冤罪を恐れて攻撃的なメッセージを送ってくる方達も実際に冤罪被害に遭ったという訳でもないらしくて。不思議でした」と振り返ります。
ぽよっちさん自身、痴漢冤罪は怖いと思っていたこと、夜道を歩いている際に女性に振り返られるとムカついていた過去を振り返り、「絶対痴漢される方が怖い。過去の自分が恥ずかしい」と猛省。
また、一部の性犯罪者のせいで男全部がおかしいみたいに言われてムカつく気持ちもわかると理解を示しつつ、女性に怒るのではなく、「性犯罪する男に向けよう」と訴えます。少しだけ疑われる男性、実際に性被害をこうむる女性、どちらの方が辛いのかと問いかけ、冤罪が怖いなら男も自衛する必要があると提案。
「むやみに他人に近寄り過ぎない」「夜道では離れて歩く」「電車では両手吊革」「カメラを向けているように見えない工夫」「恋人以外とはスキンシップしない」「不審がられるような見た目や挙動を改善する」を具体例として挙げ、女性が泣き寝入りしている実情などをあげて「被害の方が多いんだから、男も少しは気にして生きていこうぜ。こっちには1%も非が無い!って胸張って言える人生にしようよ」と呼びかけます。
男女共同参画白書 令和5年版によると、女性の約14人に1人は無理矢理に性交等された経験があるという結果が出ています。そのときは、「相手から、不意をつかれ、突然におそいかかられた」「相手から、「何もしない」などと騙された」と本人も予想できなかった状況、ほかには「身体的な暴力をふるわれた」「相手との関係性から拒否できなかった」という回答もあります(※1)。「自衛すれば」と思っている人は、一度この現実と向き合ってみてはいかがでしょうか?
2021年と2022年で比較すると、強制性交等・強制わいせつの認知件数はともに増加。性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターへの相談件数も増え、こちらの2022年度上半期の相談件数は、前年度と比較して10.4%も上昇しています。この数字が示すことが、被害が増えているのか、もしくは被害を訴える人が増えているのかはわかりません。しかし、一人でも加害者が減り、泣き寝入りする人が減ることを願うばかりです。
※1 内閣府「男女間における暴力に関する調査」より
(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・宮前 晶子)