世界的なブームになりつつある日本酒ですが、安く販売されているものもあります。「なぜ安いのか」その理由をご存じですか(写真:Tokkuri/PIXTA)

70万部の大ベストセラー『食品の裏側』の著者、安部司氏が開発した8万部突破のレシピ集『世界一美味しい「プロの手抜き和食」安部ごはん ベスト102レシピ』に続き、『世界一美味しい「プロの手抜き和食」安部ごはん2 ベスト107レシピ』が発売され、発売7日で増刷するなど反響を呼んでいる。
『食品の裏側』発売後、全国の読者から受けた「何を食べればいいのか?」という質問に対する答えとして、安部氏が自ら15年かけて開発した膨大なレシピノートの中から、「簡単に時短に作れるレシピ」を厳選したレシピ集だ。
いまなお食品添加物の現状や食生活の危機をメディア等で訴え続けている安部氏が「日本人が知らない『激安お酒』のヤバすぎる裏側」について語る。
*日本酒シリーズ1回め:日本酒「”添加物”で伝統的造り方が減少」は問題か
*日本酒シリーズ3回め:日本酒「純米酒」と「吟醸」の違い、正確に言えますか?

前回記事「日本酒『”添加物”で伝統的造り方が減少』は問題か」が大変な反響を呼び、驚いております。
「昔ながらのじっくり発酵させた酒がうまい」という私の意見に賛同してくれる声も多かった一方で、酒を速く作る技法である「速醸派」からはお叱りの声もいただきました。
繰り返しになりますが、あくまで酒は嗜好品です。
あくまで私の見解、昭和の古オヤジの一意見として受け止めていただければと思います。
今回は、前回の記事とはまた違った角度から、「原材料」にフォーカスして日本酒を分析していきたいと思います。
前回記事の復習になりますが、日本酒(清酒)は米に麹を仕込み、さらに酵母を加えて発酵させて作るものです。
じっくり時間をかけて発酵させることで甘味、酸味、辛味など、日本酒の複雑で深い味わいが醸成されます。
当たり前ですが、日本酒の原料は「米」です。米だけで作った酒を「純米酒」といいます。
ところが、この純米酒は値段が高くついてしまいます。
そこで登場するのが「醸造アルコール」です。
「醸造アルコール」とは、サトウキビや砂糖を作る際に副産物として生ずる「糖蜜」やでんぷんを原料に作られる蒸留酒のことです。アルコール度はほぼ100%です。
この「醸造アルコール」は味や香りのない無味無臭の酒です。ちょうど「甲類焼酎」みたいな感じです。
これを製造の過程で添加すれば「カサ増し」ができるのです。
もちろん無制限に添加していいというわけではなく、「本醸造酒」の場合は主原料の白米1トンに対し、120リットル以内と制限されています。
「醸造アルコール」を添加した酒は「普通酒」「一般清酒」とも呼ばれます。私たち業界人は「アル添(酒)」などと呼んでいます。
今、日本酒で最も多く出回っているのが、この「アル添酒」です。みなさんもご自宅にある酒のラベルを見てみてください。
見分け方としては、原材料に「醸造アルコール」と書かれているのですぐにわかります。
【「清酒」(アル添酒)の原材料例】米、米麹、醸造アルコール、糖類、酸味料
ちなみに、純米酒の原材料表示は「米、米麹」だけとなっているはずです。
「醸造アルコール」については「日本人が知らない『激安のお酢』のヤバすぎる裏側」にも書いているので、興味のある方は参照してみてください。
この「醸造アルコール」を使えば、「1本の純米酒」から「3本の酒」を作り上げることも簡単です。これが「3倍増」という作り方で、作り方は以下の通りです。
まず純米酒1本を用意します。
純米酒のアルコール度数が15%とすると、「醸造アルコール」を水で薄め、同じ15%にします。これを2本分加えれば、1本から3本の日本酒が出来上がるというわけです。
当然ですが、このままでは純米酒特有の味も風味も薄くなってしまいます。そこで「いろいろなもの」を添加して、味を調えます。
「糖類」(ブドウ糖、水あめ)で甘みを出し、「酸味料」(乳酸やコハク酸など)でさわやかな酸味を、「アミノ酸」(グリシン、アラニンなど)でうま味を加えるといった具合です。
この薄め方ですが、「出来上がった日本酒」を「醸造アルコール」で増量し薄めている、と思っている人もいますが、そうではなく、製造工程の中の「もろみ」の段階で増量します。そうしないと味が調わないからです。
この「3倍増方式」も、ただ糖類や添加物を入れればいいというものではなく、日本酒の繊細な味を作り出すためには、結構な技術がいるのです。
私も食品専門商社で商品開発をしていたときは「アル添酒」をよく開発したものでした。自分が飲ん兵衛ですから、それはそれは上手な「アル添酒」を作り上げたものです(笑)。
このあたりのことは『食品の裏側』でも述べているので、参考にしていただければと思います。
「『醸造アルコール』で薄める」というとあまりイメージが良くないかもしれませんが、醸造アルコールは適度に使えば品質が安定し、味がクリアになり、後味にキレが出るなどの効果があります。
人によっては「醸造アルコール」を添加した日本酒のほうがむしろ好きという人もいますし、私も、ある銘柄の「特別本醸酒」が好きですが、これも「醸造アルコール」を添加したものです。
要は、「醸造アルコール」も使い方次第で、たんに「カサ増し」のために使われることで、日本酒本来の味が損なわれることが問題なのです。
「醸造アルコール」を添加することで、コストダウンが可能ですが、これよりもっと安い酒があります。それは「合成酒」です。
「合成酒」は、「醸造用アルコール」に先の要領で「糖類」や「添加物」を混ぜて、酒らしい味に仕立てたものです。
添加物は20種類も使われているものもあります。風味付けのために醸造酒を少し添加することもあります。
酒店やスーパーで並んでいる一番安いお酒がこれです。
これもラベルを見ればわかります。「醸造アルコール」が最初に来ているからです。
【「合成清酒」の原材料例】醸造アルコール、米、米麹、糖類、小麦たんぱく分解物、調味料(アミノ酸等)、酸味料
この「合成酒」は「激安の料理酒やみりん」にも使われています。
昔は、「合成酒」は一口飲んだだけでそれとわかったものですが、最近では本当に技術が進み、上手に作られていると思います。
とはいえ、「合成酒」は「合成酒」であって、純米酒には遠く及びません。なにより糖類や添加物が入った飲料をたくさん飲むのは、私は気が進みません。
しかし、「『合成酒』の値段の安さは、ほかに変えられない」という人もいるでしょう。

私が言いたいのは「ただ安いから」というだけで飛びつくのではなく、何が入っているのか、何が使われているのか「裏側」をきちんと知ったうえで選んでほしいということです。
ぜひ「値段」だけを見て選ぶのではなく、そして「ブーム」や「目新しさ」にとらわれずに、「自分の舌でおいしいと思う日本酒」を選び、上手に愉しんでほしい、と思います。
新刊『安部ごはん2』では「酒のつまみにもなる!ホタテ鍋の香ばし『みそ焼きごはん』」など絶品おつまみをいろいろ紹介しています。
どれも簡単にできるものばかりです。
日本酒の味を引き立てるのは「おいしいおつまみ」です。ぜひ作って、おいしい日本酒とともに召し上がっていただきたいと思います。
次回はよく混同されている「純米酒」「吟醸」の違いについて述べていきたいと思います。
安部氏が開発した「魔法の調味料」さえあれば、簡単につくれる「酒のつまみにもなる!ホタテ鍋の香ばし『みそ焼きごはん』」(『安部ごはん2』より/撮影:佳川奈央)
(安部 司 : 『食品の裏側』著者、一般社団法人 加工食品診断士協会 代表理事)