旅や出張に行ったら地元や職場の知人にお土産を買って帰ることもあるだろう。その際、ついつい惰性で買ってしまうのが「甘いもの」である。地名が冠されたものなどを含め、分類するとクッキー系、アンコ系、スポンジケーキになんらかのクリームが入ったもの、タルト系、パイ生地系、チョコレート系などがある。
【写真】スイカに缶詰、シウマイ…中川氏が贈って相手に喜ばれ、相手から貰って喜んだお土産の品々
しかし筆者(中川淳一郎・佐賀県唐津市在住)が東京等への出張の際に甘いものを買ってきても、地元・唐津の人々があまり喜ばない様子をこの3年ほど感じてきた。バレンタインデーにチョコレートをもらって喜び、ホワイトデーにクッキー系を返す、といった昭和オッサン的価値観で生きてきた人間からすると「とりあえず甘いもの買っておけばいいんだろ、オラ」という感覚があった。
だが、昨今、風潮は変わったのではないか。キーワードは「ダイエット」「糖質オフ」「グルテンフリー」である。その人の嗜好も考えずにクッキーを渡したら「うわー、おいしそう!」ではなく、「あ……、ありがとうございます……」的な反応をされることが複数回あった。
後に分かるのだが、この人は一家でグルテンフリーを徹底していたのだ。恐らくこの人はクッキーを捨てたか誰かにあげたのであろう。というわけで、「お土産」に関して安易に甘いものを渡せばいい、と考えるのは間違いである! ということをここで主張したい。だったらどうすればいいか。
それは「送る人に欲しいか欲しくないかを聞く」と「ストーリー性を持たせる」の2つである。
とはいっても、私は甘いものを否定しているわけではない。元々アンコが好きだと言っていた唐津の屋台の女将には、私が宿泊していた東京・人形町にある「重盛永信堂」の「つぼ焼」を買っていった。これは「人形焼」を大きくして、こしあんではなく、粒あんにしたものである。女将に渡したらすぐに食べてたいそう喜んでくれた。
さて、彼女だからこそ、「つぼ焼」を渡したが、他の人に対しては別の考え方をする必要があった。というのも、前述の通り、グルテンフリーを思想としている人や、「子どもには添加物が多いものを食べさせたくない」と考える人が案外多いのである。だから、空港で売られている定番の甘いものを買うのは憚られる。
となると、一番手っ取り早いのが、お土産を渡したいと考える人に電話をすることだ。何かを渡したいと考える相手が何を欲しいかは正直分からない。今回私は4人のお子さんがいる2組に電話をした。
いずれも育ちざかりのお子さんを持つ一家である。その時に思ったのは、どのお菓子にするかではなく、お土産として何がいいか、である。そこで、お菓子ではなく、晩のおかずとなり、家事の手間が省けるものが良いだろうと思った。そうした考えから崎陽軒のシウマイを渡し、その日のおかずを作る手間を省かせてあげるのが良いと思った。
一人目の主婦・Aさんは「食べたことはないですが、聞いたことはあるので気になります」と言い、もう一人のアウトドア会社経営者・Bさんは「神奈川に住んでいたことがあるので懐かしいです」。
2組の6人家族に3箱(45個)ずつを渡したのだが、さすがに食べ盛りの子ども達がいる一家。両家ともペロリとすぐにたいらげたそうだ。たいそう喜んだという丁寧なメッセージももらった。やはり、お土産というものは「甘いものを渡せばいい」ということではないのだ。
何よりも「その人が欲しいもの」を渡す必要がある。今回私は崎陽軒のシウマイを渡したが喜んでもらえた。ヘンに甘いものを渡さないで良かった。それと同時に、冒頭で述べたようにグルテンフリーやら糖質オフの風潮があるだけに甘いものを前提にする必要はない。お土産の本質は「本当に好きなものを渡す」にある。そのためには、安易にその土地のスイーツを買うのではなく、電話をして、「これを買うけど欲しい?」と半強制的に伝えた方がいい。
さらに、お土産とは別なのだが、「突然何かを送る」という技もある。私の地元・唐津に何度も来ているコピーライターのこやま淳子さんという人がいるのだが、彼女は唐津の「川島豆腐店」の豆腐と豆腐プリンをいたく気に入った。
私が同店の前を通った時に、地方発送を受け付けていることを知ったのでこやまさんに送った。すると「私を気にかけてくれていたのね!」と喜んでもらえたのである。このように、「甘いものを渡せばいい」というのは短絡的で、その人と結び付けたほうがいい。
あと、この手の贈り物もアリだな、と思ったのが、2023年末にスイカを贈呈してもらったことだ。相当儲かっている中小企業の社長から送ってもらったのだが、正月に皆でスイカ割りをしたら子ども達は大喜び。贈り物というものは、定説に従わず、誰が喜ぶか、を考えて贈るべきである。それがあなたの価値を高めるのである。
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。
デイリー新潮編集部