近年の健康需要の高まりを受けて、大手飲料メーカーのアサヒビールとサッポロビールは今後、アルコール度数8%以上の「ストロング系缶チューハイ」の新商品を販売しないことを決定。これを受けて、都内の“のんべえ”たちは悲嘆に暮れているのかと思いきや……。

2000年代後半に登場するやいなや、「安く」「早く」酔えるお酒として、瞬く間にヒット商品となった「ストロング系チューハイ」。
しかし、これも時代の流れなのか。リサーチを専門とする株式会社インテージによると、昨年のハイボールを含む缶チューハイ市場は5333憶円で、そのうちアルコール度数8%以上の商品、いわゆる“ストロング系”が占める割合はおよそ25%。2017年の40%強から比べるとかなり需要は減っている。その理由について、飲料メーカー関係者が語る。

店頭に並べられたストロング系チューハイ(読者提供)

「2020年のコロナ禍以降、テレワークなどで通勤をする必要がなくなったことで在宅時間が増え、短時間で酔う必要がなくなった。さらに、健康に気をつかう人が増えたことがストロング系の需要減の要因とみられます。この流れから、各社はストロング系の新商品を発売することがなくなり、撤退が始まっています」

今年に入り、飲料メーカー大手のアサヒビールとサッポロビールは、今後アルコール度数8%以上のストロング系を販売しないことを発表。特にアサヒビールは、一時は79品目のストロング系を販売していたが、現在は1品目のみの展開となっている。

東京都北区の津川屋酒店の店主・齋藤健太郎さん(58)も、「ここ数年の間にストロング系の売上はかなり減った」と語る。

津川屋酒店店主、齋藤健太郎さん(撮影/集英社オンライン)

「うちで取り扱い始めた2010年ごろは売れ行きもそこそこだったけど、最近は売れ残りも多いから、今は度数9%の缶チューハイを2種類くらいしか置いてない。その代わりに無糖系や度数3%とかの甘い缶チューハイが売れてるね。
缶チューハイ全体の売上は変わってないし、ストロング系がなくなってもあまり困らないかな」

さらに、2月19日には厚生労働省が「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を発表。これは不適切飲酒への注意喚起を含んだ内容で、ストロング系には逆風必至といえるもの。このような一連の流れを受けて、都内の“のんべえ”たちは何を思うのか。昼飲みの二大聖地・赤羽と上野で調査をしてみると意外な声が聞こえてきた。

「ストロング系? そんなにおいしくはないけど、手っ取り早く酔えるから毎日飲んでるよ。
でも実際はなくなったほうがいいんじゃない? だってあれ飲んでロータリーで寝てるヤツとかよく見かけるし、そういうのって情けないし迷惑じゃん。
ストロング系がなくなれば(度数)6%のチューハイを飲むしかなくなるし、僕自身も少し健康になるかもね。とはいえタバコ吸ってるし、健康とか気にしてないけど(笑)」(赤羽・50代男性・職業不詳)

赤羽の飲み屋街(撮影/集英社オンライン)

「次の日、仕事が朝早いときとか、ひと缶飲んでさっさと酔いたいときに重宝してるね。でも、ぶどう味とかピーチ味とかはやたら甘くて、まずいウォッカを飲んだときみたいに悪酔いするから、無糖以外はなくなっても困らないかな」(赤羽・50代男性・会社員)

このように、ストロング系の市場縮小については意外にも「愛飲者だけど肯定的、または無関心」という意見が圧倒的だった。また、取材を進めていくうちに、20代の若者からはこんな意見も。

「早く安く酔えるから学生時代、ストロング系は友達との宅飲みなどには欠かせませんでした。でも社会人になって飲まなくなりましたね。理由?(度数が)強すぎて飲もうと思わないんですよ。もう歳なんですかね……」(赤羽・27歳男性・会社員)

「ストロング系は罰ゲームの道具でしかない」と話す大学生(撮影/集英社オンライン)

「僕のまわりに好んでストロング系を飲む人はいないです。ゲームで負けたらイッキしなくちゃいけない“罰ゲーム”の道具でしかない(笑)」(上野・21歳男性・大学生)

一方で、依然としてストロング系を心のより所にしてる人もいた。

「味もアルコールっぽくておいしくないし悪酔いもするけど、職場でイヤなことがあった夜や投げやりな気分の日はたまに買っちゃいます。何缶も飲むのは面倒くさいし、ひと缶で勝負つけたいんですよ(笑)。
まぁ、なくしたほうが世のためにはなると思いますけどね」(赤羽・30代女性・職業非公表)

「イヤなことがあった日は飲む」という30代女性

また、「これを飲むと明日への不安もすべてなくなる」と話すのは上野公園で「-196℃ ストロングゼロ」を飲んでいた、とび職の50代男性だ。

「いつも現場が夕方には終わるから、それから寝るまでだいたい8~10本くらいストロング系を飲んでる。別にうまくはないけどアルコールの“キック感”がいいんだわ。
少しでも度数の高いお酒を買ったほうがお得だから、発売されてからずっとこんな生活。タバコも1日1箱吸うけど、健康診断に引っかかったことはないし、このとおりピンピンよ!
ストロング系がなくなる? 別になんとも思わないね。今後は少し酒代がかさむけど、5%の缶チューハイに焼酎足して飲むだけだし」

強烈な“ストロングライフ”を送る50代男性

それぞれ理由は異なるものの、ストロング系がなくなったら困るという人は意外にもほとんどいなかった。各社の撤退も、厚労省のガイドライン発表も、タイミング的には間違ってなかったのかも。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班