超高齢社会である日本。
高齢者人口の増加に伴い、医療費も上がっていくため、現役世代の負担増は避けられない。
そのため、以前に比べ国民皆保険制度の見直しを図るべきという意見も年々増えてきている印象だ。なかでも、後期高齢者への高額な延命治療費が保険適用の対象となっていることを問題視する声は少なくない。
病院などで高額な医療費がかかる際、「高額療養費制度」というものを利用できる。これは医療機関や薬局の窓口で支払った額が、ひと月で一定額を超えた場合に、その超えた分の金額が国から支給される制度を指す。
そして70歳以上で住民税非課税の低所得者の場合、どれだけ高額な延命治療を行ったとしても、1カ月の医療費の自己負担額は2万4600円が上限だ。たとえば延命治療に月100万円かかるとした場合、70歳以上の低所得者なら自己負担額が2万4600円で、残りの97万5400円が保険適用となり国が負担してくれる仕組みとなっている。
この場合、医療費のうち自己負担はたったの2.5%ほどになるため、患者側からすればとてもありがたい仕組みだが、残りの97.5%ほどは現役世代が支払う社会保険料から賄われるので、けっきょくは現役世代にそのツケが回ってきてしまう。
さらに今問題となっているのが、この制度を利用して年金ほしさに家族が延命治療を受けさせるケース。仮に延命治療を受ける高齢者の年金が月20万円だった場合、延命治療の自己負担額を引いた約17万5400円を高齢者の家族が受け取れることになるが、亡くなると家族はその額を受け取れないわけだ。
あえて悪意的に表現するが、高齢者に延命治療を受けさせたほうが、その家族にとってはかなり“貰い得”ということになる。
そこで今回は日本の医療問題を中心に執筆・取材を続ける医療行政ライターの中田智之氏に、この延命治療の問題点について解説していただいた。(以下「」内は、中田氏のコメント)
年金目当てに延命治療を行う家族がいるという噂について、中田氏の見解を伺おう。
「誤解なきようにお伝えしておきますが、最初から年金目当てで延命治療を選択する家族はあまりいないと思います。純粋に長生きしてもらいたいという家族愛から治療を選択するケースのほうが圧倒的に多いでしょう。
しかし、延命治療をして病院に高齢者家族を入院させているうちに、いつのまにか銀行口座に年金が貯まっていき、貯蓄額が増えていることに後から気づくというケースは多々聞きます。一度気づくと欲が出て、例えば『子どもの学費を払い終えるまで生き続けてほしい』などと口にする家族の話は聞いたことがあります」
どの家族もそんな邪な考えを持っているわけではないだろうが、延命治療を受けさせることでむしろお金が増えていくのなら、治療を辞める理由はないと考える家族は少なくなさそうだ。
だが当然、そんな延命治療に保険を適用するべきではない、と主張する声はよく見受けられる。
実業家のひろゆき氏は、インターネットテレビ局ABEMAの『Abema Prime』にて、ヨーロッパでは延命治療などの高額医療が保険適用外である実情と比較したうえで、「(日本の)国民皆保険が悪いのではなく、延命治療が保険診療の報酬で払われるという状況が悪い」と指摘。続けて、「厚生労働省がどれを保険の範囲にするか、範囲の問題」と述べている。
高額療養費制度が見直され、治療費を支払う割合が多くなれば、たしかに延命治療を選ぶ家族は減るかもしれないが、医療の平等的な観点からの批判が殺到するのは、想像に難くない。
では日本はなぜ高額な延命治療費が保険適用となっているのだろうか。
「日本の保険制度は、『疾病治療に必要なことはすべて保険適応』という線引きを作っています。他国を見ると、たとえ有効な治療法であってもそれを保険適応するかどうかは、費用対効果に鑑みて決定しており、慣例的に医療の高額部分は自費診療の二階建て、混合診療であるのが世界の標準です。
ですから日本の医療制度は包括的で患者からすれば素晴らしいものである反面、働く現役世代にとっては著しく負担の大きい制度であることは否めません」
日本の医療の「患者を広く受け入れる」という方針により、延命治療もその範疇に入っているため、結果、延命治療を選択する家族が増えるのも当然だろう。そして、多数ではないにしろ、なかには高齢者家族の年金をポケットマネーのようにいただいてしまおうという欲が出る人がいてもおかしくはない。
後編記事は「医師が終末期の患者に“延命治療”を勧めざるを得ないワケ、その根深い問題」から。