ここ数年、警察官や弁護士などを装い、お金をだまし取る特殊詐欺が猛威を振るっており、去年は認知されているだけで17570件の被害が報告された。年々手口が巧妙化しており、まだまだ対策が及んでいない状況だ。
今回は、元特殊詐欺グループの主犯格で、現在は特殊詐欺や闇バイトなどの撲滅活動を行っているフナイム氏に、昨今の特殊詐欺事情について、どんな手口が流行っているのかやその対策について話を聞いた。
「去年一番流行った詐欺の手口は、銀行のキャッシュカードのすり替え詐欺です。不正入金や、銀行口座が犯罪に使われたと電話で伝え、職員を名乗る人を直接家に向かわせてキャッシュカードを入手し、お金を引き出す手法になります。勿論ですが、全て嘘なので銀行口座が利用停止にはなっていませんし、不正に使われてもいません」
この詐欺は銀行口座が不正に使用されたと、電話で伝えられるところから始まる。どの銀行であるのか、最近いつ頃お金を引き出したのかを聞かれ、使用停止の手続きのために、暗証番号が必要、印鑑が必要等と徐々に重要な情報に迫っていく。
銀行の職員、市の職員のような世間的に信用度の高い身分を名乗り、言葉巧みに暗証番号を聞いてお金をだまし取る詐欺になる。
「次に流行っていたのは老人ホームの入居詐欺だと思います。老人ホームの運営企業を装い、入居に必要な資金と騙り、お金をだまし取る方法です。例えば老人ホームに入居するためには3000万円必要ということで、営業トークのように電話で相手の資産を聞き出していきます。金融資産はどれくらいなのか、生命保険にどれだけお金を払っているのか。最後に相手が払える限界の金額を提示して、老人ホームへの入居を約束します。最後は入居金がだまし取られ、老人ホームへは入れません」
金融資産がどれくらいなのか、保険がどれくらいなのかを聞いて、相手がどれくらいの金を持っているのかを導いていく。場合によっては、入居する際に保険の解約、株式などの資産を売却させ、目的の金額を振り込ませる詐欺になる。
資産のことは必ず聞き、相手がどれだけ金を持っているのかを聞くのだが、直接的には聞かず、「今の預貯金は1000万円を超えていますか」「株式はどのような銘柄に投資していますか」と相手から開示させていく。これによって相手がどれだけの資産を持っているかを考えて、相手から奪える金額を打算し、詐欺の実行に移ることが特徴だ。
「最後は、暗号通貨詐欺と、宝くじやキャンペーンの当選詐欺になります。暗号通貨詐欺はメールやSNSで必ず儲けられる話があるから投資しないかと誘い、金を奪う詐欺です。古典的な株式投資詐欺やFX詐欺と同じ手口で、対象が株から暗号通貨に変わっただけです。当選詐欺は、SNS上でよく見るお金配りが多いですね。当選詐欺の場合は、知らない間に犯罪に巻き込まれることもあるので注意が必要です」
投資詐欺は、最初のうちは投資した金額が儲かると少しだけ出金ができるが、2回、3回と続けるうちに、お金が出金できなくなる。最初の数回、儲けたように見せかけて、投資を勧め、相手が大金を振り込んだ後で、犯人は消える手法だ。
当選詐欺は、「当選したので、振込先を指定してください」と連絡がきて、お金が振り込まれる。「10万円のところ間違えて100万円を送金してしまいました。返金していただけませんか」と連絡が来るのだが、相手に教えた口座が、マネーロンダリングに使われる可能性もあるので、注意が必要である。
「今年流行る詐欺は、恐らく義援金詐欺ですね。被災地を支援するためにお金を募るといった話で金をだまし取る手法です。人の優しさに付け込んで行われます。震災や大きな事故が起こると毎回行われている詐欺なので注意してください。また、これまで話した詐欺手口は’24年も継続して行われるはずなので、引き続き注意になります」
今年1月に発生した、能登半島地震への被災地支援の名目で行われる詐欺が注意だという。義援金詐欺だけではなく、被災地の名前を出した、保険金詐欺、老人ホームの入居詐欺も多くなるとフナイム氏は語ってくれた。
「詐欺に引っかかりやすいのは高齢者が多いですが、闇バイト等で若い人が間接的に詐欺に関わることも多くなってきています。私が講演などで話している対策としては、高齢者であれば、まずは話を『言いふらす』ことです。ホームヘルパーの方でも、近所の人でも構いません。とにかくお金周りの話は誰かに言いふらすことで、被害に遭う確率を減らすことができると思います。あとは、録音機能付きの電話も効果が高いと思います。詐欺師はなにか自分に関係する記録を残すことを嫌いますからね」
詐欺師がされて最も困ることは、誰かに話をされることだという。お金のことで人には言いにくい場合でも、誰かに相談することが大事であるという。「他業者には内密にお願いします」「今回限りの話になります」と、詐欺師もできるだけ、話が外部に漏れないように振る舞うが、それらを無視することが重要である。
「スマホが使える世代の方は、とりあえず聞いた話をスマホで調べてみてください。詐欺師は紳士的に振る舞うものなので、難しいかもしれませんが、お金に関係することであれば初対面の人の話は信用せずにまずは調べることです。『ググる』ことも必要ですし、SNSでこんな話があったと書くのも効果があります。一人で考えるのではなく、必ず第三者の考えを聞くようにしてください」
フナイム氏のXアカウントには多くの方からの相談が寄せられる。その多くは、お金がなく詐欺に加担しようと考えている、闇バイトをしてしまったがどうすればいいのかといった相談だ。
「詐欺に遭った後はほぼお金は返ってこないものだと考えてください。振り込んで10分くらいなら、『組戻し』を行って返金申請ができるかもしれません。しかし、相手も対策をしているので、すぐにお金が引き出せるようにしています。詐欺の対策は基本的には未然に防ぐしかないのです」
人間関係がどんどん希薄になっていく現代社会で、周りに相談するということは難しいかもしれないが、せっかく貯めた大切なお金を失わないためにも『誰かに言いふらす』というのは大切なのかもしれない。
取材・文・PHOTO:白紙 緑