東京都の中嶋ひろ子さん(83)=ひろの字は「广に黄」=は約30年前、戸籍に記される名前の漢字を区役所に無断で変更された経験を持つ。国は現在、自治体の情報システムを効率化するため、戸籍などに使われる文字を減らそうと検討しているが、中嶋さんは「無断で名前が変えられることがあってはなりません」と訴える。
【違いが分かる? 「辺」の仲間】 1991年11月、中嶋さんの自宅に東京都文京区役所から「お知らせ」が届いた。戸籍上、名前の「ひろ」に使われる漢字を「广に黄」から「廣」に変更したというのだ。

区役所が根拠としたのは、90年の法務省通達。自治体が戸籍の誤字や俗字を「正字」に修正することを認める内容だった。 「(形の違いは)たかが横棒一本と思ったのでしょうか」。中嶋さんは行政に力で押さえつけられたように感じ、怒りに震えた。 親からもらった名前に愛着があるし、名刺でも使っている。漢字を変えると知人への連絡も手間だ。元の名前に戻すよう求めたが、区役所に拒まれた。弁護士に相談し、漢字を元に戻す許可を求めて東京家裁に申し立てた。 家裁は92年、中嶋さんの主張を認める審判を下した。漢字が変わると社会生活に多大な影響を及ぼし、根拠となる法律の規定がないのに「一方的に改めることは許されない」と判断した。 中嶋さんは元の字を取り戻したことに「誇らしさと達成感を感じた」と振り返る。 あれから約30年たち、戸籍や住民基本台帳など自治体の業務はほとんど電子化された。政府は自治体の情報システムを効率化するため、使用する文字を絞り込む検討をしている。 字の形がわずかに異なる文字も含めて、戸籍だけで約70万字も使われ、システム間の連携の障壁になっているためだ。ただ、人によっては住民票などに表示される氏名の漢字の形が変わるなどの影響が出る可能性がある。 「デジタル社会を回していくために、文字数を減らして字体を統一していくことは避けられないでしょう」 スマートフォンを使い慣れた中嶋さんは、デジタル化への対応に理解を示しつつも、政府に注文する。「名前は親からもらったかけがえのないもの。行政の都合でどうしても変えるなら、市民に許可を願い出るプロセスが必須です」【隈元悠太、原田啓之】
1991年11月、中嶋さんの自宅に東京都文京区役所から「お知らせ」が届いた。戸籍上、名前の「ひろ」に使われる漢字を「广に黄」から「廣」に変更したというのだ。
区役所が根拠としたのは、90年の法務省通達。自治体が戸籍の誤字や俗字を「正字」に修正することを認める内容だった。
「(形の違いは)たかが横棒一本と思ったのでしょうか」。中嶋さんは行政に力で押さえつけられたように感じ、怒りに震えた。
親からもらった名前に愛着があるし、名刺でも使っている。漢字を変えると知人への連絡も手間だ。元の名前に戻すよう求めたが、区役所に拒まれた。弁護士に相談し、漢字を元に戻す許可を求めて東京家裁に申し立てた。
家裁は92年、中嶋さんの主張を認める審判を下した。漢字が変わると社会生活に多大な影響を及ぼし、根拠となる法律の規定がないのに「一方的に改めることは許されない」と判断した。
中嶋さんは元の字を取り戻したことに「誇らしさと達成感を感じた」と振り返る。
あれから約30年たち、戸籍や住民基本台帳など自治体の業務はほとんど電子化された。政府は自治体の情報システムを効率化するため、使用する文字を絞り込む検討をしている。
字の形がわずかに異なる文字も含めて、戸籍だけで約70万字も使われ、システム間の連携の障壁になっているためだ。ただ、人によっては住民票などに表示される氏名の漢字の形が変わるなどの影響が出る可能性がある。
「デジタル社会を回していくために、文字数を減らして字体を統一していくことは避けられないでしょう」
スマートフォンを使い慣れた中嶋さんは、デジタル化への対応に理解を示しつつも、政府に注文する。「名前は親からもらったかけがえのないもの。行政の都合でどうしても変えるなら、市民に許可を願い出るプロセスが必須です」【隈元悠太、原田啓之】