〈一人娘も結婚して、孫が2人いて、とても幸せです。でも認知症になったらと心配で夜も眠れません「気にしてもしょうがないよ。なるときはなる。それでもなっちゃったら…」〉から続く
「夫婦仲が悪いわけではないのですが、ひとつだけ我慢できないことがあります。それはこの頃、私を『ばあさん』と呼び始めたことです」
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夫のばあさんという呼びかけが許せない相談者に、毒蝮三太夫さんが送った回答とは? 著書『70歳からの人生相談』(文春新書)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
「ばあさんと呼ぶ夫が許せない…」そんな悩みをどう解消すればいいのでしょうか? 写真はイメージ getty
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【お悩み「私を『ばあさん』と呼ぶ夫が許せない。どう言えばやめてくれるか」】

夫は80歳、私は75歳です。おかげさまで今年、金婚式を迎えました。二人の子どもは、それぞれ家庭を持って別に住んでいます。夫婦仲が悪いわけではないのですが、ひとつだけ我慢できないことがあります。それはこの頃、私を「ばあさん」と呼び始めたことです。「やめてよ」と言っても「ばあさんを『ばあさん』と呼んで何が悪い」と、ぜんぜんやめてくれません。

悔しいので「なによ、自分もじいさんのくせに」と言ってやりましたが、「そうだよ、じいさんだよ」と涼しい顔をするだけでした。どんなふうに言えばやめさせられるでしょうか。このままだと顔を見るのも嫌になりそうです。(75歳、女性)
金婚式おめでとう。長く一緒にいるっていうのは、素晴らしいことだよ。で、なんだって。夫から「ばあさん」と呼ばれるのが嫌で、やめさせたいわけか。怒ってはいるけど、これは一種のノロケだな。
いいじゃないか、呼ばせてやれば。きっと亭主は、親しみを込めて「ばあさん」と呼んでるんだよ。これまでは「おかあさん」や「ママ」だったのかな。いつまでも「子どもの母親」として扱うのは可哀想だと思ったのかもしれない。
下の名前で「マユミさん」とか「ジュンコ」なんて呼んでる夫婦もいる。それも仲睦まじい感じがしていいよね。ただ、若いうちから慣れてればともかく、歳取ってから急に下の名前で呼ぶのは、人によってはテレ臭いかもしれない。
ただ、「ばあさん」と呼ばれたくないあなたの気持ちも、よくわかる。この頃の70代は若々しくて、「ばあさん」という言葉が似合わない人が多い。たぶんあなたも、いつも小ぎれいにしてて、昔の70代のイメージとは違うんだろう。だけど亭主は、女心がわからずに、平気で「ばあさん」なんて言っちゃうんだよな。
俺も半世紀以上にわたって、さんざん「ジジイ、ババア」って言ってきた。でも最近は70代の女性に向かって、「ババア」とは言えない。「ババア」と呼ばれるにふさわしい貫禄っていうか、ふさわしい円熟味が出てくるのは80を越えてからだ。
もちろん、俺の言う「ババア」や「ジジイ」は、罵ったりバカにしたりする言葉じゃない。人生の年輪を重ねてきたことへの敬意や、深い親しみの気持ちを込めた「尊称」なんだ。猫なで声で「おばあさん」「おじいさん」って言うほうが、相手に壁を作っているみたいで失礼だと感じる。なんか対等じゃないんだよな。
あなたんちのジジイ、じゃなくて亭主は「昨今のジェンダーの常識」についていけてないってことだな。いや、俺も意味がよくわからずに使ってるけど、要するに古い感覚で言葉を使ってるわけだ。戦前に作られた「船頭さん」っていう童謡には、「今年60のおじいさん」って歌詞がある。そこまで感覚は古くないかもしれないけどね。
だからといって「あなたは頭が古いのよ! 70代に向かって『ばあさん』って言うのは時代遅れよ!」と責めたら、相手もカチンときてケンカになるだけだ。そこは年の功で、穏やかな言い方でこっちが望んでいる方向にもっていこう。「今の私は、まだ『ばあさん』と呼んでもらえる資格はないと思うの。80代になるまで待ってちょうだい。それでもまだ貫禄が足りないと思ったら、90代まで待ってちょうだい。いつの日か、縁側でお茶をすすりながら『おじいさん』『おばあさん』と呼び合うのが似合う夫婦になりたいわね」 そんなふうに言ってみたらどうかな。亭主もよくわからないなりに「よっぽど言われたくないんだな」と思ってくれそうだ。「毎日『ばあさん』って呼んで、私を早く老けさせたいのね。まだまだ元気で一緒にいたいわ」でもいい。 とにかく、まだまだ末永く幸せに暮らしてくれ。仲がよくてけっこうだ。「夫婦ゲンカは犬も食わない」ってのは、金婚式を越えた夫婦にも当てはまるみたいだな。〈「妻に先立たれ、生きる意味を見失った」人生に惑う72歳の相談者…毒蝮三太夫(80)が「女性が多いサークルに行け」と答えたワケ〉へ続く(毒蝮 三太夫/文春新書)
だからといって「あなたは頭が古いのよ! 70代に向かって『ばあさん』って言うのは時代遅れよ!」と責めたら、相手もカチンときてケンカになるだけだ。そこは年の功で、穏やかな言い方でこっちが望んでいる方向にもっていこう。
「今の私は、まだ『ばあさん』と呼んでもらえる資格はないと思うの。80代になるまで待ってちょうだい。それでもまだ貫禄が足りないと思ったら、90代まで待ってちょうだい。いつの日か、縁側でお茶をすすりながら『おじいさん』『おばあさん』と呼び合うのが似合う夫婦になりたいわね」
そんなふうに言ってみたらどうかな。亭主もよくわからないなりに「よっぽど言われたくないんだな」と思ってくれそうだ。「毎日『ばあさん』って呼んで、私を早く老けさせたいのね。まだまだ元気で一緒にいたいわ」でもいい。
とにかく、まだまだ末永く幸せに暮らしてくれ。仲がよくてけっこうだ。「夫婦ゲンカは犬も食わない」ってのは、金婚式を越えた夫婦にも当てはまるみたいだな。
〈「妻に先立たれ、生きる意味を見失った」人生に惑う72歳の相談者…毒蝮三太夫(80)が「女性が多いサークルに行け」と答えたワケ〉へ続く
(毒蝮 三太夫/文春新書)