能登半島地震では、石川県珠洲市や輪島市で多数の集落の孤立状態が続く。
北部沿岸に面した珠洲市高屋町では、市中心部につながる道路の一部が土砂でふさがれている。ここに移住した染色家、室山雅さん(22)の父泰伸さん(56)は、実情を知ろうと徒歩で集落に入った。
雅さんは地震前日の昨年12月31日、高屋町で工房を構えたばかり。地震の一報を受け、大阪から駆け付けた泰伸さんは、外出先で被災した雅さんと市中心部で再会した。
高屋町は人口が100人に満たない集落。住民らを心配した雅さんの意を受け、泰伸さんは支援物資を用意して5日に市中心部を出た。
残り2キロほどで大きな岩が道をふさいでおり、家屋をのみ込んだ土砂を避けながら歩いた。悪路を越えて出発から約3時間後にたどり着き、雅さんが世話になった茶屋の女性と対面できた。工房は屋根瓦が落ちるなどしていたが、大きな損傷はなかった。
住民からは「(集落に)倒壊などの被害は少なく、死亡者もいないのでは」と聞かされた。商店が住民のために商品を配り、最低限の生活物資は確保できているようだった。
ただ、携帯電話はつながらず、停電が続く。住民は「ガソリンが必要」と口をそろえた。車は移動の手段だけではなく、暖も取れる。泰伸さんは「一晩過ごせる量でいいので、少しずつ支援が届けば」と話した。
漁港は岩場が多いように見え、消波ブロックの付け根も黒かった。泰伸さんは「隆起したという報道もあった。海が浅くなって船を着けられず、海上輸送も難しいのでは」と話す。
1時間ほどの滞在で支援の必要性を痛感し、市中心部に戻った。工房や町の無事を伝えると、雅さんは「一番の笑顔」で出迎えてくれた。親子で願うのは、少しでも被災者の生活が上向くことだ。