宝くじを数学の視点から解説します(画像:宝くじ公式サイト)
いよいよ2023年も残り2週間を切りました。12月22日まで発売している「年末ジャンボ宝くじ」は1等・前後賞合わせて10億円と高額賞金が魅力です。
日本宝くじ協会によると、宝くじをこれまでに購入したことがある人は8500万人を超えており、これは宝くじを購入することができる18歳以上の人口の80%以上。2023年4月に実施した調査では、過去1年間で宝くじを購入した人を指す「宝くじ人口」も5000万人以上います。
さて、そんな宝くじについて1つクイズです。宝くじを300円で1枚購入したとき、返ってくるお金(リターン)はどのくらいでしょうか。
答えを出すために、実際に計算をしてみましょう。
以下は、1等から7等までの「当せん金」とその本数です。
1等 7億円(23本)1等の前後賞 1億5000万円(46本)1等の組違い賞 10万円(4577本)2等 1000万円(184本)3等 100万円(9200本)4等 5万円(4万6000本)5等 1万円(46万本)6等 3000円(460万本)7等 300円(4600万本)
全体の宝くじの発売枚数は4億6000万枚であることがわかっているため、その全体の枚数で割り算をすることで、各等級の当たりが出る確率を算出できます。そして、それぞれの「当せん金」をその確率にかけ算すると、各等級の1枚当たりに見込まれるリターンが算出できるのです。
例えば、1等が当たる確率を考えてみましょう。1等の当たりの本数は「23本」です。全体の枚数で割ると、
23÷460,000,000=1/20,000,000
となり、2000万分の1の確率であることがわかります。つまり、2000万分の1の確率で、7億円が当たるのです。よって、1枚買ったときのリターンの平均は、(当たる確率)×(当せん金)で求められるため、
1/20,000,000 × 700,000,000 = 35
となります。これはあくまで1等に限った話なので、他の等級でも同様に計算していきます。すると、
・1等の前後賞1/10,000,000 × 150,000,000 = 15
・1等の組違い賞199/20,000,000 × 100,000 = 0.995
・2等1/2,500,000 × 10,000,000 = 4
・3等1/50,000 × 1,000,000 = 20
・4等1/10,000 × 50,000 = 5
・5等1/1,000 × 10,000 = 10
・6等1/100 × 3,000 = 30
・7等1/10 × 300 = 30
となります。今回考える「1枚当たりのリターンの平均値」は、この数値をすべて足したものとなり、その答えは「149.995円」。ほぼ「150円」、つまり購入金額の半分のお金が平均で返ってくる計算です。
「案外返ってくるな」と思った人もいれば、「平均すると半分しか返ってこないのか」と残念に思った人もいることでしょう。リターンが半分の賭けごとはやらないほうが得なのは目に見えていますが、それでも多くの人が宝くじを毎年購入するのは、まさに「夢を買っている」からでしょう。
さて、この「リターンの平均値」のことを、数学用語で「期待値」と言います。もしかしたら、聞いたことがある人もいるかもしれません。この期待値ですが、実は昨年(2022年)から、高校1年生で習う必修の単元になりました。
学習指導要領が改定され、令和4年度から新課程での学びが行われるようになりました。おそらくなじみ深い人もいるであろう「数学C」が復活したり、受験数学において重要単元の1つを担っていた「整数の性質」が吸収されたりと、学習内容がいくらか変化しました。
その中で、元々は任意履修の単元であった「期待値」が、「数学A」の「場合の数と確率」の単元に登場するようになったのです。「期待値」の定義は、「確率変数と確率のかけ算の総和」であるため、上で行った計算と同じです。
この期待値の考え方は、ビジネスでもとても役に立ちます。あなたがとある会社のメンバーで、来季の売り上げ目標を達成するための戦略を考えているとしましょう。
市場が好況であれば700万円の利益が見込まれるが、不況であれば200万円の赤字になると推測されるプランAと、市場が好況であれば250万円の利益が、不況であれば150万円の利益が見込まれるプランBがあった場合、あなたはどっちの方が「いいプランである」と感じるでしょうか。
ここで、プランBを選択する人は少なくないでしょう。理由としては、「好況でも不況でも、一定程度の利益が見込まれる」ことが挙げられます。この考え方は、決して間違っているわけではありません。
しかし、ここで「期待値」の考えを用いれば、もっと戦略を適切に評価できます。仮に市場が好況である確率と、不況である確率を50%ずつで考えてみましょう。
すると、プランAの期待値は、
50/100×700 + 50/100× (-200) = 250(万円)
プランBの期待値は、
50/100×250 + 50/100×150 = 200(万円)
となり、プランAの期待値の方が大きいことがわかります。つまり、この仮定においてはプランAの方が合理的な選択なのです。
もちろん、好況、不況の確率によって期待値も変わっていきます。例えば、好況である確率を30%、不況である確率を70%とすると、プランAの期待値は、
30/100×700 + 70/100×(-200)= 70(万円)
プランBの期待値は、
30/100×250 + 70/100×150 = 180(万円)
となり、プランBの期待値のほうが大幅に大きくなります。つまり、見た目の数字と直感だけで判断するのではなく、それぞれの確率から得られる期待値を考慮に入れて分析することが、適切な戦略立案には求められます。
高校数学において必修となった「期待値」の考え方は、さらにスタンダードなものになっていくでしょう。ビジネスの場においても、これを基に判断することは非常に重要です。
(永田 耕作 : 現役東大生・ドラゴン桜チャンネル塾長)