かつての「結婚後は男性は外に、女性は家に」が夫婦のあり方だった日本の常識は薄れ、いまでは「夫婦共働き」が新常識として定着しつつある。
実際に、内閣府が2022年に行った調査によれば、現在は共働き世帯が全体の7割に達しており、家計負担も対等が一般的で、消費の際は一緒に話し合って使う傾向が若い世代になるほど強まっていた。
しかし収入内訳を見れば、男女の差はまだまだ顕著だ。妻が夫の年収を上回る世帯は、日本はわずか約5%と世界最低のレベル(NewsWeekより)で、雇用における「ジェンダーの壁」はなかなか突破できていない状況だ。
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イギリスの経済学者であるジョアンナ・シルダ氏は自身の研究のなかで「妻の収入が世帯収入の40%を上回ると、男性のストレスが増大する」という分析を発表。ジルダ氏は、「男性の稼ぎに関する社会的な規範と、夫は妻よりもお金を稼ぐものだという伝統的な価値観が、男性のメンタルヘルスを脅かしていることを示唆しています。
(略)こうした意識が残っているということは、ジェンダー規範がいかに根強いものであるかを示しています」とコメントしている。
長らく続いてきた「ジェンダーの価値観」は、社会状況の変化にすぐに対応できるほど柔軟でもなければ、パッと手放せるほど手軽なものでもなく、人々にこびりついているようだ。
年収は1000万円越え、有名メーカーに勤務するエリートビジネスマンの栄治さん(41歳・仮名)も、そんな「壁」に悩まされているひとりだ。長澤まさみ似の妻、真紀さん(38歳・仮名)との間のほころびにより、精神的に追い込まれ泥沼に陥ってしまったという。
<41歳「年収1000万円越え」のエリートサラリーマンが闇落ちした、TikTokで「バスった妻」の驚愕年収>に引き続きお伝えする。
「そのお金で、いつかマンションか戸建てを買おうとも思っていました。でも、なんていうか……僕らね、本当は子どもが欲しかったんですが、結婚して2年ほどした頃かなあ…無理ということがわかったんです。
最初は真紀が、『不妊症かも』といくつかの産婦人科に通ったんですけどね。異常がなくて。お医者さんから“ご主人も調べてみては”とアドバイスをいただいて検査をしてみたら、僕、無精子症だったんです。いや、ふたりでしょんぼりですよ。
それで真紀に聞いたんですよね、子供がほしいなら別れるからって。そしたら、『好きだから別れない』って。それからなんです。真紀がよく外出するようになり、ふたりの関係が少しずつ変わっていったのは。
でも僕には、無精子症なのに一緒にいてくれているという負い目もあって、真紀がすることには何も言えなくなったんです。そしてだんだんと、ギャンブルやお酒に逃げるようになりました」
その結果が、真紀さんの起業と成功だった。それを知ってからは、栄治さんは真紀さんに生活費を渡していない。貯金もしなくなり、それどころか、切り崩してすべてのお金をギャンブルとお酒に費やした。
貯めるには大変でも使うのは一瞬。1日10万円や20万円をギャンブルで“スル”のは簡単なことだったし、友達にキャバクラでおごれば、いくらでもお金を遣えた。
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「平日の日中はあいかわらず普通に会社でサラリーマン。でも、朝からビールを飲んで出勤していますからね。会社ではずっと鬱々としています。なんとか仕事をこなして帰宅して。酒臭いのバレないかとヒヤヒヤして、会社では誰ともあまり話さなくなりました。
実は僕にも、心のどこかで起業家の夢ってありましたから。でもそんな才能は自分にはないだろうと、会社員になった。でも、もともとは“自分が守らなきゃ”と思っていた長澤まさみ似の妻は起業して成功している。
僕には会社どころか子供を作る才能もない。なんかもう、何を頼りに生きていけばいいのかと……ギャンブルに負け、飲み屋の女性を口説いて、ホテル行っての毎日ですよ」
真紀さんもまた、子供ができない暮らしを受け入れようとしてそれができなくて、SNSに力を注いだのだろう。自分の居場所を見出した今、栄治さんに三下り半を突き付けているのかもしれない。
「1年ほど前に、すでに記入済みの離婚用紙を渡されているんです。でもまだ僕は考え中ということにしています。お互い、家にはあまり居ないようにしているし、ふたりでいても、まず会話はありません。たまに“まだ書類出してくれないの?”と言われて黙るくらいです。
真紀は優しいと思いますよ。僕が決めるのを待ってくれている。僕もね、早く離婚してあげるほうがいいのはわかっているんです。離婚すれば、真紀は再婚して別の男の子供を出産できる可能性もある。でもそう考えると、ますます気持ちは沈み、何をしたらいいかもうわからない。
彼女だけしあわせになるのも癪だなって、このまま籍を抜かずにいてやろうかと、いじわるな気持ちになっているのかもしれません」
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浮気をしても、栄治さんの心はずっと真紀さんの元にあるのだという。浮気相手も最初からそれをわかっているので、しつこく言い寄ってもこないそうだ。
栄治さんといれば、おいしいご飯をごちそうしてくれて、ブランド品のひとつでも買ってもらえる。それでただ一緒にいるだけなのだろうと栄治さんは言う。
栄治さんの心のうちにあるのは、妻への深い愛情と嫉妬心だ。起業して成功している妻が妬ましく、無精子症の自分を責めて続けている。離婚するほうがいいのは頭ではわかっていても、気持ちの整理がつかないのだ。もうずっと、何年もの間……。
栄治さんの話を聞きながら、もうふたりは別れるほうがしあわせになれるのになと、私も思う。ここまで離れてしまった心は、もう修復できない。一緒にいても、栄治さんは、ずっと真紀さんに負い目を感じながら生きていくことになる。
世の中には、妊娠と出産を望まない女性もたくさんいる。そういう相手と出会い、親しくなれたら、栄治さんはしあわせになれる気がする。それともやはり、いつまでたっても真紀さんのことを忘れられないのだろうか。
話し方の穏やかな栄治さんから、『どんな関係になっても、真紀と一緒にいるんだ』という静かな狂気を感じる。
ふと、スコット・フィッツジェラルドの小説「華麗なるギャツビー」のストーリーを思い出した。レオナルド・ディカプリオやロバートレッドフォード主演で映画化ほか、多数の舞台化もされている名作である。
ギャツビーの恋人は、戦地に赴き終戦後も連絡をくれないギャツビーを待てずに、別の男性と結婚してしまう。だけどギャツビーは何年たっても恋人のことが忘れられず、執念で再会までこぎつける。でも最後にはやはり悲劇がふたりを襲う……。
恋愛というものには、そういう、理屈をこえた狂気じみたところがあるものかもしれない。破滅的な恋ほど美しくも見えるかもしれない。
でも、狂気の果てにあるのは、大概は破滅ではないだろうか。栄治さんが自分で自分を破滅させるのも悲しいが、真紀さんの人生まで破滅させてしまうのは、あまりにも残酷だ。修復できないのならば、早く離婚してほしい。
今ならまだ、真紀さんの「子供がほしい」という望みがかなうかもしれないからだ。好きな人の願いをかなえてあげるのもまた、愛のひとつのカタチなのではないだろうか。