「たたけば埃が出る」という言葉があるが、ここまで盛大に埃が舞うのも珍しい。「パワハラ癖」から「女性トラブル」まで、財界リーダーらしからぬ“素顔”が明るみに出たサントリー・新浪剛史社長(64)。そんな彼の新たな疑惑は、「巨額不正流用事件」との関係――。
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【写真を見る】約2億円! ワイキキビーチにほど近い高級コンドミニアム 新浪社長時代にローソンが購入している サントリーの新浪剛史社長がローソンの社長を務めていたのは2002年から14年まで。その間に傘下の子会社で約345億円にも上る巨額の不正流用事件が起こっていたことを覚えている方は多くはあるまい。舞台となったのは、ローソンのチケット販売子会社「ローソンエンターメディア」(現ローソンエンタテインメント。以下、ローソンエンタ)。東京地検特捜部に会社法違反(特別背任)容疑で逮捕され、11年に懲役8年の実刑判決を下されたのは、同社のA元専務である。判決当時39歳だったA元専務は、数年前に刑務所から出た後、東京都内の賃貸マンションでひっそりと暮らしていた。

新浪剛史氏 今月上旬、そのマンションを訪ねると、「新浪さんには迷惑をかけた身なので」「私、本当にご迷惑をかけた身でして……」 ドア越しにそう繰り返すばかりだったA元専務。 しかし後日、“新浪氏も事件当時、A元専務の行為を把握していたのではないか?”と問うと、それを否定することなく、無言を貫いた――。A元専務宅に家宅捜索に入る特捜部の係官事件の首謀者と新浪氏の関係「4度の結婚歴」「凄絶なパワハラ」「ハワイ豪華コンドミニアム私物化疑惑」「女性トラブル」。内閣府経済財政諮問会議の民間議員や、経済同友会トップも務める新浪氏の品位を問う記事を本誌(「週刊新潮」)は連続して掲載してきた。「サントリー」というタブーの陰に隠れてこれまで報じられなかった“素顔”に驚いている読者も多いに違いないが、疑惑はまだあった。それが、この巨額不正流用事件との関係だ。 事件の首謀者たるA元専務は、「30歳でローソンエンタの取締役になった。芸能界とのつながりが強く、プロダクションの社長などに気に入られていて、30代半ばでローソンエンタの代表権のある専務になりました。異例の人事だったのは間違いなく、彼のことを買っていた新浪さんの意向なしにこんな大出世はあり得ない」(ローソン元幹部) ローソンエンタにおける新浪氏の登記簿上の肩書は社外取締役。しかし、新聞や雑誌の報道では「会長」としているものもある。不正流用を公表、謝罪した新浪氏「私も新浪さんは会長だと認識していました。新浪さんとAさんと当時の社長で会社を回していると思っていました」(同)144億円が回収不能に A元専務が資金の流用に手を染め出したのは07年。その手口はこうだ。「ローソンエンタのようなチケット販売会社は、チケットの代金だけではなく、“協賛金”という名目の金を興行主に支払わなければならない慣行があります。A元専務はローソンエンタと興行主の間に『プレジール』という会社を介在させ、同社を通してチケット代金を払うことで、協賛金の一部をプレジールが負担する、という方式を会社に提案し、採用されています」(全国紙社会部デスク) チケット販売から興行後に決済するまでには2~6カ月の期間がある。つまり、その期間、莫大なチケット販売代金がプレジール社に「滞留」するわけだ。「A元専務とプレジール社の元社長らはその資金を豚肉輸入事業などに投資し、利益から協賛金を捻出した上で残りを山分けすることを計画。A元専務自身も約9千万円の分け前を受け取っています。しかし投資は失敗し、興行主への支払いが滞るように。結局、07年から10年の間に約345億円がプレジール社に送金され、そのうち約144億円が回収不能になりました」(同) 10年3月、ローソンエンタは東京地検特捜部に告訴状を提出。5月にはA元専務らに約144億円の損害賠償を求める民事訴訟を起こしている。ちなみにA元専務は特捜部に逮捕されたのと同時期に破産の手続きを開始。後に「免責」、つまり債務弁済責任から免れることを認められている。「新浪さんが何も知らなかった、というのはあり得ない」 同年2月、不正流用の事実を公表した新浪氏は、「目が行き届かず、大変反省している。信頼回復に向け全力を尽くしたい」 と、謝罪した。あたかも被害が巨額になってから事実を把握したかのような言いぶりだったのだが、「被害額が膨れ上がるまで新浪さんが何も知らなかった、というのはあり得ないのではないでしょうか」 と、ローソン元役員。「例えば最初にプレジール社から興行主への支払いが滞った時、ローソンエンタが約20億円を直接興行主に支払っています。そんな巨額の支払いを、親会社の最高権力者である新浪さんの了解なしに処理することは考えられません」“理解しがたい言動” 当時のローソンエンタ社長やA元専務は、取締役会の決議を得ないまま、約20億円を支払っている。A元専務が逮捕される前、不正流用について調査した第三者委員会が公表した報告書には、こうある。〈(取締役会の決議を得ていなかったことなどについて)N社長及びK(取締役)は、「時間もなく差し迫っていたため、思い至らなかった」と述べるのみであり、理解しがたい言動というほかない〉 第三者委員会の調査に対して彼らが“理解しがたい言動”をしたのは、何かを隠したかったからではないのか。そして、それは以下の“重大証言”と関係しているのではないか――。新浪氏に相談「Aのことは、彼がローソンエンタの前身のローソンチケットに入社した頃から知っています。事件発覚の3年くらい前、つまり07年頃にAから“飲みに行きませんか”と誘われ、それから2~3カ月に1度くらいのペースで飲みに行くようになりました」 そう振り返るのは、さる音楽プロモーターである。「Aは一緒に飲んでいる時、“新浪さんからだ”と言って、新浪さんの名前が表示されている携帯を自慢げに見せて、私の目の前で電話で新浪さんと会話をすることがありました。その時に、“〇億円投資します。いいですよね?”“やります”という話をしていたのです。金額はうろ覚えですが、数億円だったのは間違いありません」 この音楽プロモーターは計3回、A元専務が新浪氏と電話で投資について話しているのを目撃したという。「金額を出していたのは最初の1回だけで、残り2回は“今進めていますから”という内容でした。私が“何の投資してるんだ?”と聞いたら、“肉の先物です”と言っていて、私が“肉なんて素人が一番手を出しちゃいけないヤツだ”と忠告したのをハッキリ覚えています」新浪さんにしょっちゅう電話していた A元専務も約9千万円の分け前を受け取っていたことは前述したが、羽振りの良さを感じさせることはなかった。「私と飲んでいる時は“心ここにあらず”といった感じのことが多かったので、すでに投資がうまくいかなくなっていたり、興行主への支払いが滞ったりしていたのではないでしょうか」 ローソンが不正流用について公表する直前には、「Aが新浪さんにしょっちゅう電話していたのを覚えています。また、Aから、“プレジールの社長の家を見に行ってほしい”と頼まれたこともありました。“連絡がつかないから”と。逮捕前、ローソンエンタの別の社員から“Aが逮捕されるらしい”という話と、事件の概要を聞きました」A元専務に取材すると… この証言についてA元専務は何と言うか。――Aさんと新浪氏が投資について電話で話すのを聞いていた人がいる。「ええ」――そのやり取りというのは、Aさんが新浪氏に、数億円「投資します。いいですよね?」と投資の許可を得ているものです。「……」――話を聞いていた人が何の投資かと尋ねたらAさんは「肉の先物」と答えたと聞きましたが覚えている?「……」――プレジールの件で流用されたお金は豚肉事業などへの投資に使われたようですが、これは新浪氏も投資について把握していた、ということではないのか?「申し訳ないですが、これ以上お答えできることはありませんので……」 音楽プロモーターの証言について、新浪氏にもサントリーを通じて取材を申し込んだところ、以下の回答が寄せられた。「新浪と元ローソンエンターメディア専務のA氏とは、ご質問のような関係は全くございません」“新浪さんは結構出しましたよ” 数年前、件の音楽プロモーターにローソンエンタの社員が連絡してきた。「“間もなくAさんが出所しますので、祝い金を出してもらえませんか”と言ってきました。当然断りましたけどね。断ったことに対する冗談なのか本当の話なのかは定かではないのですが、“新浪さんは結構出しましたよ”と言っていました」 ローソン元役員(前出)はこう明かす。「Aさんは2年前に会社を立ち上げて代表取締役となり、韓流タレントのマネジメントなど、芸能関係の仕事をしています。生活に困っている様子はないです」 巨額不正流用事件の「真相」は、このまま闇に埋もれてしまうのか。「週刊新潮」2023年11月30日号 掲載
サントリーの新浪剛史社長がローソンの社長を務めていたのは2002年から14年まで。その間に傘下の子会社で約345億円にも上る巨額の不正流用事件が起こっていたことを覚えている方は多くはあるまい。舞台となったのは、ローソンのチケット販売子会社「ローソンエンターメディア」(現ローソンエンタテインメント。以下、ローソンエンタ)。東京地検特捜部に会社法違反(特別背任)容疑で逮捕され、11年に懲役8年の実刑判決を下されたのは、同社のA元専務である。判決当時39歳だったA元専務は、数年前に刑務所から出た後、東京都内の賃貸マンションでひっそりと暮らしていた。
今月上旬、そのマンションを訪ねると、
「新浪さんには迷惑をかけた身なので」
「私、本当にご迷惑をかけた身でして……」
ドア越しにそう繰り返すばかりだったA元専務。
しかし後日、“新浪氏も事件当時、A元専務の行為を把握していたのではないか?”と問うと、それを否定することなく、無言を貫いた――。
「4度の結婚歴」「凄絶なパワハラ」「ハワイ豪華コンドミニアム私物化疑惑」「女性トラブル」。内閣府経済財政諮問会議の民間議員や、経済同友会トップも務める新浪氏の品位を問う記事を本誌(「週刊新潮」)は連続して掲載してきた。「サントリー」というタブーの陰に隠れてこれまで報じられなかった“素顔”に驚いている読者も多いに違いないが、疑惑はまだあった。それが、この巨額不正流用事件との関係だ。
事件の首謀者たるA元専務は、
「30歳でローソンエンタの取締役になった。芸能界とのつながりが強く、プロダクションの社長などに気に入られていて、30代半ばでローソンエンタの代表権のある専務になりました。異例の人事だったのは間違いなく、彼のことを買っていた新浪さんの意向なしにこんな大出世はあり得ない」(ローソン元幹部)
ローソンエンタにおける新浪氏の登記簿上の肩書は社外取締役。しかし、新聞や雑誌の報道では「会長」としているものもある。
「私も新浪さんは会長だと認識していました。新浪さんとAさんと当時の社長で会社を回していると思っていました」(同)
A元専務が資金の流用に手を染め出したのは07年。その手口はこうだ。
「ローソンエンタのようなチケット販売会社は、チケットの代金だけではなく、“協賛金”という名目の金を興行主に支払わなければならない慣行があります。A元専務はローソンエンタと興行主の間に『プレジール』という会社を介在させ、同社を通してチケット代金を払うことで、協賛金の一部をプレジールが負担する、という方式を会社に提案し、採用されています」(全国紙社会部デスク)
チケット販売から興行後に決済するまでには2~6カ月の期間がある。つまり、その期間、莫大なチケット販売代金がプレジール社に「滞留」するわけだ。
「A元専務とプレジール社の元社長らはその資金を豚肉輸入事業などに投資し、利益から協賛金を捻出した上で残りを山分けすることを計画。A元専務自身も約9千万円の分け前を受け取っています。しかし投資は失敗し、興行主への支払いが滞るように。結局、07年から10年の間に約345億円がプレジール社に送金され、そのうち約144億円が回収不能になりました」(同)
10年3月、ローソンエンタは東京地検特捜部に告訴状を提出。5月にはA元専務らに約144億円の損害賠償を求める民事訴訟を起こしている。ちなみにA元専務は特捜部に逮捕されたのと同時期に破産の手続きを開始。後に「免責」、つまり債務弁済責任から免れることを認められている。
同年2月、不正流用の事実を公表した新浪氏は、
「目が行き届かず、大変反省している。信頼回復に向け全力を尽くしたい」
と、謝罪した。あたかも被害が巨額になってから事実を把握したかのような言いぶりだったのだが、
「被害額が膨れ上がるまで新浪さんが何も知らなかった、というのはあり得ないのではないでしょうか」
と、ローソン元役員。
「例えば最初にプレジール社から興行主への支払いが滞った時、ローソンエンタが約20億円を直接興行主に支払っています。そんな巨額の支払いを、親会社の最高権力者である新浪さんの了解なしに処理することは考えられません」
当時のローソンエンタ社長やA元専務は、取締役会の決議を得ないまま、約20億円を支払っている。A元専務が逮捕される前、不正流用について調査した第三者委員会が公表した報告書には、こうある。
〈(取締役会の決議を得ていなかったことなどについて)N社長及びK(取締役)は、「時間もなく差し迫っていたため、思い至らなかった」と述べるのみであり、理解しがたい言動というほかない〉
第三者委員会の調査に対して彼らが“理解しがたい言動”をしたのは、何かを隠したかったからではないのか。そして、それは以下の“重大証言”と関係しているのではないか――。
「Aのことは、彼がローソンエンタの前身のローソンチケットに入社した頃から知っています。事件発覚の3年くらい前、つまり07年頃にAから“飲みに行きませんか”と誘われ、それから2~3カ月に1度くらいのペースで飲みに行くようになりました」
そう振り返るのは、さる音楽プロモーターである。
「Aは一緒に飲んでいる時、“新浪さんからだ”と言って、新浪さんの名前が表示されている携帯を自慢げに見せて、私の目の前で電話で新浪さんと会話をすることがありました。その時に、“〇億円投資します。いいですよね?”“やります”という話をしていたのです。金額はうろ覚えですが、数億円だったのは間違いありません」
この音楽プロモーターは計3回、A元専務が新浪氏と電話で投資について話しているのを目撃したという。
「金額を出していたのは最初の1回だけで、残り2回は“今進めていますから”という内容でした。私が“何の投資してるんだ?”と聞いたら、“肉の先物です”と言っていて、私が“肉なんて素人が一番手を出しちゃいけないヤツだ”と忠告したのをハッキリ覚えています」
A元専務も約9千万円の分け前を受け取っていたことは前述したが、羽振りの良さを感じさせることはなかった。
「私と飲んでいる時は“心ここにあらず”といった感じのことが多かったので、すでに投資がうまくいかなくなっていたり、興行主への支払いが滞ったりしていたのではないでしょうか」
ローソンが不正流用について公表する直前には、
「Aが新浪さんにしょっちゅう電話していたのを覚えています。また、Aから、“プレジールの社長の家を見に行ってほしい”と頼まれたこともありました。“連絡がつかないから”と。逮捕前、ローソンエンタの別の社員から“Aが逮捕されるらしい”という話と、事件の概要を聞きました」
この証言についてA元専務は何と言うか。
――Aさんと新浪氏が投資について電話で話すのを聞いていた人がいる。
「ええ」
――そのやり取りというのは、Aさんが新浪氏に、数億円「投資します。いいですよね?」と投資の許可を得ているものです。
「……」
――話を聞いていた人が何の投資かと尋ねたらAさんは「肉の先物」と答えたと聞きましたが覚えている?
「……」
――プレジールの件で流用されたお金は豚肉事業などへの投資に使われたようですが、これは新浪氏も投資について把握していた、ということではないのか?
「申し訳ないですが、これ以上お答えできることはありませんので……」
音楽プロモーターの証言について、新浪氏にもサントリーを通じて取材を申し込んだところ、以下の回答が寄せられた。
「新浪と元ローソンエンターメディア専務のA氏とは、ご質問のような関係は全くございません」
数年前、件の音楽プロモーターにローソンエンタの社員が連絡してきた。
「“間もなくAさんが出所しますので、祝い金を出してもらえませんか”と言ってきました。当然断りましたけどね。断ったことに対する冗談なのか本当の話なのかは定かではないのですが、“新浪さんは結構出しましたよ”と言っていました」
ローソン元役員(前出)はこう明かす。
「Aさんは2年前に会社を立ち上げて代表取締役となり、韓流タレントのマネジメントなど、芸能関係の仕事をしています。生活に困っている様子はないです」
巨額不正流用事件の「真相」は、このまま闇に埋もれてしまうのか。
「週刊新潮」2023年11月30日号 掲載