FRIDAY記者の手元に、1枚の写真がある。撮影場所は、静岡県富士宮市にある日蓮正宗総本山・大石寺。約700年前に開創されたこの巨大な寺院は、’91年に日蓮正宗に破門されるまで、創価学会にとって狎暫廊瓩噺世┐訃貊蠅世辰拭’68年、その大石寺で創価学会婦人部の幹部457人が参加する夏季講習会が行われていた。境内を埋め尽くさんばかりの女性幹部に囲まれ、両足を広げて椅子に座っている恰幅のいい男は――今年11月15日に95歳で死去した池田大作創価学会名誉会長だ。
「全盛期に500万人近い数の部員を抱えていた婦人部は、″先生″にとって、そして学会にとって最も重要な存在でした。’64年の公明党結成以来、選挙戦において彼女達は徹底した狃孤璽泪掘璽鶚瓩箸靴導萍していた。全国各地に散らばった婦人部員が非学会員に声をかけ、時には家庭訪問までして、投票を呼び掛けました。先生はその労をねぎらうため、女性幹部を集めて講習や研修会を開いていました。成果をあげた学会員には自ら近寄り、直接言葉を交わした。それを見た婦人部の面々は、『私もいつかは先生からお言葉を……』とさらに選挙活動にのめり込んだのです。結果として公明党は、ピークの’05年には898万票を獲得する一大政党に成長しました」(学会関係者)
政界にも多大な影響を及ぼした池田氏だが、その晩年は謎のベールに包まれていた。死去が発表されるまで10年以上、表舞台に一切姿を現さなかったのだ。
「’10年6月の本部幹部会を池田氏が突如欠席し、現会長の原田稔氏(82)に実務を全て引き継ぎました。以降、学会員へのメッセージを、長男で主任副会長の博正氏(70)が代読する形で求心力を保っていた。池田氏がいなくなることで、心が離れてしまう学会員が少なくないことを、幹部たちはよく理解していたのでしょう」(ジャーナリストの山田直樹氏)
「池田教」と揶揄されることもあった創価学会。″神格化″されていたカリスマの死は、学会内に混乱をもたらしている。
「10月27日に5期目を迎えることが発表された原田会長が82歳、理事長の長谷川重夫氏も82歳。4年の任期を終える頃には、ともに86歳です。次期会長候補と目される66歳の谷川佳樹氏は4年後に70歳。もう一人の候補である萩本直樹氏、池田大作氏の長男である博正氏は二人とも70歳で4年後には74歳。幹部陣は皆、高齢者なんです。それなのに、創価学会が打ち出した来年のテーマが『世界青年学会 開幕の年』というのはおかしな話。創価学会内部には、抜本的な世代交代や内部改革を求める会員が存在し、現執行部を批判する声もあがっていました。ところが唯一のカリスマの池田氏が鬼籍に入った。教団にとっては危急存亡の秋ですから、当面は池田氏の死をバネにして組織を引き締め、少なくとも、次の総選挙くらいまでは現行の体制で乗り切るでしょう」(創価学会ウォッチャーのジャーナリスト・乙骨正生氏)
その「次の総選挙」が行われるのはいつなのか。支持率低下に苦しむ岸田内閣が、池田氏の「弔い合戦」に燃える学会員の熱量に期待し、最後の一手として年明けに解散総選挙を仕掛ける可能性もくすぶっているが――。
「信者も高齢化が進んでおり、もはや弔い合戦に燃える人は少ない。彼らがカリスマを失った喪失感や混乱に耐え、まともな選挙活動ができるとは考えづらい。最大898万あった公明党の得票数も、昨年の参院選では618万と280万減り、今年の統一地方選でも苦戦。そんな状態で奮戦を期待するのは博打が過ぎますし、公明党も今すぐに国政選挙の準備はしたくないでしょう」(自民党関係者)
そもそも、外交や安全保障の分野で成果を上げてきた岸田政権と、池田氏の掲げる平和主義の理念を信ずる創価学会員の相性は悪かった。
「それでも、池田氏が存命の間は『先生にもなにか考えがあって自民党と組んでいるのだろう』と納得できたわけです。しかし池田氏亡き今、『平和を愛する先生ならこんなことはしなかった』とか、『先生の理念から公明党は離れてしまった』と防衛力強化を掲げる自民党と組むことをよしとせず、優秀な集票部隊が選挙協力に消極的になる可能性もある。池田氏の死は、自民党と公明党のどちらにも大打撃です。公明党との連立だけでは政権を維持できないと判断した自民党が、維新や国民民主と組む可能性だってあります。狎界再編瓩起きるかもしれません」(宗教問題に詳しいジャーナリストの藤倉善郎氏)
岸田文雄首相(66)は池田氏死去の報を受け、Xに〈池田大作氏の御逝去の報に接し、深い悲しみにたえません。池田氏は、国内外で、平和、文化、教育の推進などに尽力し、重要な役割を果たされ、歴史に大きな足跡を残されました〉と追悼文を投稿。立憲民主党の泉健太代表(49)や国民民主党の玉木雄一郎代表(54)らもそれに続いた。
「正直驚きました。ゴルバチョフ元ソ連大統領や胡錦濤前中国国家主席と友好な関係を築くなど、日本の民間外交で大きな業績を上げた功労者としての池田氏を追悼するという建て前なので、法的には政教分離の原則に反しないとは思いますが、特定の宗教団体のトップを国政政党の代表が称賛するのは不適切ではないでしょうか」(藤倉氏)
岸田政権は支持率が危険水域の10%台に近づいているうえ、起死回生の総選挙に踏み出すこともできない。池田氏の死去によって、いよいよ″崩壊″に向けたカウントダウンが始まった。
『FRIDAY』2023年12月8・15日号より