「何もない田舎町ですが、スーパースター大谷翔平の原点を一目見ようと全国から熱心なファンがやってきます。先日は九州からわざわざいらっしゃった方もいました。
大谷選手が通っていた小学校、中学校、ゆかりの品が展示されている場所を回るコースが定番ですが、中には実家を見学に行く人もいるようです」
こう話すのは、JR水沢江刺(えさし)駅内にある観光案内所「南岩手交流プラザ」の男性スタッフだ。
東京駅から東北新幹線に乗っておよそ3時間。岩手県の南部にあるJR水沢江刺駅は、今期も野球界の話題を独占した大谷翔平が生まれ育った奥州市の玄関口だ。
観光案内所の一角には大谷ゆかりの品を展示するコーナーがあり、「聖地巡礼」する熱烈ファンを出迎えているが、男性スタッフは悩ましい問題を抱えている。
「展示されているのは、大谷選手の活躍を伝える新聞記事の切り抜き中心です。大谷家は関連グッズを提供してくれないので展示するものがありません。訪れたファンから『これだけですか』と言われることが多い。我々としては頭が痛い。市内にはゆかりの品が展示された場所がいくつかありますが、どこも似たり寄ったりです」
一方、別の施設の関係者はこうぼやく。
「秘蔵写真などを展示したいのが本音ですが、大谷家の協力は得られず難しい。展示しているエンゼルスのグッズは公式HPから自腹で購入しています。当然予算の問題があり、数は限られてしまいます」
地元を訪れた野球ファンは正直な思いを明かす。
「少年時代の秘蔵写真など地元でしか見ることができないお宝グッズがあると思っていましたが、どこも新聞記事の切り抜きばかりでした。見所といえば、実寸大の握手像くらいでしょうか」
大谷翔平の握手像(写真:週刊現代)
黄金色に輝く大谷の握手像は奥州市役所と奥州市伝統産業会館にある。日ハム在籍時の2017年、本人協力の元、実際に手を測定し、南部鉄器の技術を用いて作成された。
奥州市伝統産業会館の握手像の周囲には伝統工芸品とともに、ユニファームなどグッズも展示されているが、やはり新聞記事の切り抜きのほうが目立つ。前出のファンは続ける。
奥州市伝統産業会館にある展示コーナー(写真:週刊現代)
「幼いころの写真、使用していたグローブやバッド、ユニフォーム、少年時代に獲得したメダルやトロフィー。これらを見ることで、メジャーの大スターを近くに感じたかった。
同じくメジャーで活躍したイチローさんや松井(秀喜)さんの地元には現役時代から記念館がありましたが、大谷選手は彼ら以上の実績を誇りながら記念館がないのが不思議です。
そもそも街をあげて応援している雰囲気もありません。応援幕を掲げているのは、大谷選手が通っていた小学校くらい。飲食店を訪れてもポスターを貼っているところは皆無でした。市内を回っていても『大谷翔平の地元』を感じることはほとんどなかった。なぜPRしないのか不思議です」
奥州市は観光客誘致に取り組んでいるが、「これという観光スポットに欠ける」という地元住民の声もある。その意味でも近年の大谷の大活躍はPRできる絶好の機会だが、なぜ控えめなのか。市の関係者は内情をこう明かす。
「地元としては観光客を呼び込むために『大谷翔平の故郷』をアピールしたいという思いがあります。しかし、大谷家はそれを歓迎していません。
市長を会長とする『ふるさと応援団』という有志の団体があります。市としては後援会をつくりたかったのですが、大谷家の参加はかなわず、応援団を名乗ることになりました。
市は市民名誉賞を新設し、授与を大谷家に打診したこともありますが、これもあっさり辞退されてしまった。
もちろん大谷家の思いもわかります。下手に地元と関係を築けばオフに顔を出さなければいけません。野球だけに専念したい大谷選手にとっては面倒になるでしょうからね。
ただ、大谷選手は郷土の誇りです。シーズンオフになると花巻東高校の集まりに参加していると聞きますが、地元である奥州にも顔を見せてほしい」
大谷が活躍しても地元が盛り上がりに欠ける理由には大谷家の意向が強く働いているという。後編記事『「大谷翔平」で儲けるのはNG…地元・奥州市に立ちはだかる「大谷ルール」とは』では、地元が「大谷の故郷」をアピールできない事情について詳しく紹介している。