あおり運転のニュースはよく見聞きするが、逮捕劇に発展するまでの詳しい経緯や被害者側の対応などについては知らないままというケースも多い。今回は、注意を受けてはじめて自分たちのNG行動に気づいたという深沢エリナさん(仮名・20代前半)に話を聞いた。◆駐車場に見かけない白いバンが
その日、社用車(会社名の記載はナシ)に忘れ物をしたことを思い出したというエリナさん。会社の近くまで戻っていたため面倒臭いと思いながらも、さっき車をとめたばかりの会社の駐車場へ5分ほどの距離を引き返した。
「駐車場へ着くと同僚のH美(20代半ば)の車が見えたので、手を振って声をかけようとしたときです。H美の車は助手席側をこちらに向けたまま、妙な位置で停止していました。そしてもう1台、いつもは見かけない白いバンが止まっていました」
駐車スペース枠外に止まっているそのバンには運転手の姿はなく、運転席のドアは解放されたまま。そして目を凝らすと、死角になっていた運転席側に人影が見える。不審に思って近づくと、運転席側のドアをガチャチャと開けようとする年配風の男性の姿があった。
◆「ノロノロ走ってムカついたんだ!」
「男性は、声のボリュームを絞りながらも威圧的に『降りて来い!』と言い、ずっと運転席側のドアをガチャガチャしていて怖かったです。ただ、付近は静かな住宅街。叫べば誰かが飛び出してきてくれそうな雰囲気だったため、さらに近づいてみることにしたのです」
エリナさんがH美さんの車へ近づくと、より状況がクリアに見えてきた。H美さんは運転席の窓を細く開け、黙ってにらみをきかせている。「どうしたの? 何かあった?」と声をかけると、年配風の男性は驚き、「なっ……」と一瞬あとずさる。
「そして、『コ、コイツがノロノロ走ってたからムカついたんだ!』と怒鳴り、焦った様子で再びH美の運転席ドアを開けようとガチャガチャ! すると、普段は大人しい印象のH美が『壊れるだろ! やめろ!』と、声を押し殺しながら静かに怒鳴ったのです」
◆男性はバンに乗り込んで急発進
男性も、「はぁ! 何だよ、このアマ!」と応戦。H美さんも止まらない。「ずっと煽って、ここまでついてきて、すんごいキモイ!」と中年男性を煽るようなことを言い放つ。すると当然、相手も「キモイってなんだよ? 降りて来いコラァッ!」と激高。
「一触即発の雰囲気だったので、私は咄嗟に冷静を装って『警察、呼びますよ?』と言いました。すると男性は慌てたように『クソッ!』と吐き捨て、バンに乗り込み、急発進して去っていったのです。ホッとしてH美に駆け寄り、事情を尋ねました」
すると、H美さんは不機嫌そうに「こっちは法定速度で走っていたのに、後ろからエンジンをふかしてくるからキモイしイライラして、少し速度を落としたんだよね。そしたらさらに煽ってきて、ここまでついてきたんだよ」と言う。
◆会社の先輩に説教されたワケ
「でも話を聞いていると、追いかけてきた年配男性も粘着質で怖いが、不自然にノロノロとしたスピードで走るなど、H美にも必要以上に男性を怒らせる原因があったのでは?という気持ちもわいてきたのです。そんなことを考えていると、会社の先輩がやってきました」
この日、駐車場に到着したエリナさんは、念のため先輩に連絡をしていたのだ。
「さっきまでの出来事を話すと先輩は『2人の対応は、ヤバイと思う』と言い、煽られたと感じたH美が速度を落としたことで、余計に相手の怒りを高めてしまった。そのことは大いに反省すべきだと、こってりお説教されてしまいました」
あおり運転はもちろん犯罪であり処罰されるべき行為だが、どんな相手にも冷静な運転を心がけ、気持ちを逆撫でしないことも大切といえるだろう。
<TEXT/夏川夏実>
―[シリーズ・危険!あおり運転]―