国立公園・鳥取砂丘(鳥取市)に令和8年、世界的なホテルチェーン「マリオット・インターナショナル」(本社・米国)の最高級ブランド「ラグジュアリーコレクション」が開業する。
海外の富裕層をメインターゲットに1泊6万円以上の宿泊料金を見込む。鳥取砂丘一帯は年間160万人以上が訪れる観光地ながら、宿泊施設がほとんどないことから通過点に終わっており、同ホテル進出により世界的リゾートとしての知名度アップに期待の声があがる。一方、周辺観光との連携や移動のための交通手段確保などの課題が早くも浮上し、山陰初の五つ星ホテルの行方が注目されている。
会員1億8200万人
「鳥取砂丘に積もる雪を見たい。インスタ映えする光景だと思う。世界に1億8200万人いるマリオットグループの会員は砂丘の魅力にひきつけられるだろう」
10月末、鳥取市役所で行われたホテル開業の記者会見。同社の日本・グアム担当エリアヴァイスプレジデントのカール・ハドソン氏は鳥取砂丘で体感した魅力を具体的にこう語った。
世界で31ブランド約8600のホテルを展開する同社。鳥取砂丘で運営するホテルを、同社の最高級ブランドの1つであるラグジュアリーコレクションとしたことについては「ラグジュアリーコレクションはソフトブランド。(同社のブランドの1つである)ザ・リッツ・カールトンなど確立したハードブランドとは異なり、柔軟性があって鳥取らしさを打ち出せる」と説明。「鳥取砂丘で最初に開業することを大切に考えている。アドバンテージ(有利)もある」と述べた。開業時点で、同社が日本で展開するラグジュアリーコレクションブランドのホテルは6軒目となる。
計画によると、建設地は国立公園・鳥取砂丘の西側高台で敷地は1万8260平方メートル。4階建て2棟を予定し、客室数は108部屋を見込む。すべての客室から鳥取砂丘と日本海を見下ろし、最上階に大浴場やプールを備えて眺望を楽しむことができるとしている。
ハドソン氏によると、日本観光はアジア太平洋圏の中でも人気が高く、外国人観光客の傾向を分析すると、2回目の訪日旅行では4割が大都市ではなく地方を旅先に選ぶという。また、ラグジュアリーコレクションの顧客層は「冒険好きで、伝統的な観光ルートよりも自らの意思で『探検』を楽しむ方々」と説明した。
万博後に開業ずれこみ
ホテル建設予定地は現在、大阪の不動産会社「dhp都市開発」が所有しているが、もともとは鳥取市有地だった。この土地の活用を目指して市が令和元年、公募型プロポーザルで開発計画を募集。同社を中心とする企業グループが提案した高級リゾートホテル誘致計画が選ばれた。当初は、誘致するホテルブランドをアジア系四つ星ホテルに絞り込んで協議が進んでいたが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って暗礁に乗り上げ、進出は頓挫。協議は振り出しに戻っていた。
当初の計画では、大阪・関西万博が行われる令和7年までのオープンを目指していたが、ホテルブランド選定の遅れから万博には間に合わず、開業は8年までずれこむことになった。来年春の着工を目指すとしており、同社の榎本泰之社長は「コロナの流行から3年半、どうなるかと不安に思った時期もあった」と紆余曲折した経緯を振り返りながらも、「砂丘や日本海、星空などの自然と、カニなどの海の幸、山の幸といった素晴らしいコンテンツを十分堪能していただける」と開業に自信をみせた。
観光連携、移動手段など課題
観光地としての鳥取砂丘は、ドライブインや土産物店、世界初の砂像専門美術館「砂の美術館」などが集積する東側エリアに比べて、キャンプ場や、アスレチック遊具を備えた「チュウブ鳥取砂丘こどもの国」、カヌーやサップなどアクティビティー(遊び)が楽しめる多鯰(たね)ケ池などで構成する西側エリアは来訪者が少なく、にぎわい創出が課題となっていた。
このため、同市は「整備構想」を策定。一帯の将来像として示されている滞在型観光エリアに向けて、キャンプ場などの再整備に着手するとともに、4年にはエリア内にワーケーション施設が開設された。そんな中でのホテルの開業決定には、既定路線とはいえ関係者に安堵(あんど)が広がった。
同市と同社は記者会見の席上、観光振興に関するパートナーシップ協定を締結した。これに基づき市は、約150億円と見込まれる事業費の一部支援を検討する。さらに、記者会見で深沢義彦市長は「観光客の受け入れ環境の充実、砂丘を中心とした高付加価値化に取り組む」と述べ、歴史・文化と生活圏を共有する鳥取県東部と兵庫県北但西部7市町の「麒麟のまち圏域」や、京都から鳥取まで日本海沿岸6市町にまたがる「山陰海岸ジオパーク」全体の観光振興に結び付ける考えを示した。
具体的には、両エリア内観光ルート策定や、カヌーやパラグライダー、サンドボードなどの多様なアクティビティーの充実を模索する。また、周辺観光を楽しむための交通手段についても、現在運行している「周遊タクシー」をはじめとした対応の充実が検討課題となる。
同市観光・ジオパーク推進課の担当者は「鳥取砂丘の雪景色など地元民にとっては当たり前の景観が外国人観光客には魅力なのだと再認識した。同様に砂の上で楽しむアクティビティーや紙漉(す)きなど伝統文化の体験も魅力的なのでは。国内外の観光客受け入れに向けて視点をかえて魅力提供を考えていく」としている。(松田則章)