11月8日、警視庁捜査2課は、通信大手「ソフトバンク」のシステム開発をめぐる架空の投資話で会社役員から12億円を騙し取ったとして、同社の元部長ら3人を詐欺容疑で逮捕した。この事件は1年前、デイリー新潮のスクープで発覚。取材後にソフトバンクが「社員が犯罪に加担している」と警視庁に通報を入れたところから捜査が始まった。ソフトバンクの元部長らに詐欺話を持ちかけた主犯のホストは、お笑いコンビ「TKO」の木本武宏(52)と投資トラブルを抱えていた男だった。
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【写真7点】ソフトバンク元部長の“素顔”。大木を騙した「ホスト詐欺師」と吉村崇&くっきー!とのスリーショットや「でっちあげ事業計画書」などを一挙公開ホストをしながら月々5万円を返済していた容疑者 芸能界を揺るがしたTKO木本の投資トラブルが発覚したのは昨年7月のことだった。木本が投資金の返済をめぐってトラブルになっていた人物こそが、今回、主犯として逮捕されたホストの森田真伍容疑者(41)である。今年1月に復帰したTKOの木本武宏「木本は当時、アパレル会社代表だった森田容疑者が勧めたFX関連の投資話に乗って自ら数千万円の損失を抱えてしまった。そればかりでなく、平成ノブシコブシの吉村崇や野性爆弾のくっきー!など、十数人の芸能人脈を森田に紹介し、芸能界で総額数億円にも及ぶ投資被害を拡大させてしまったのです」(芸能事務所関係者) 芸能界を混乱に陥れた責任を問われ活動休止に追い込まれた木本だったが、今年1月、「返済計画に目処がついた」などとして復帰会見を開催。その時、木本は森田容疑者とは連絡が取れていて、「返済が始まっている」と説明していた。「トラブル発覚後しばらくの間、森田容疑者は雲隠れしていましたが、最近は歌舞伎町のホストクラブに勤務。その稼ぎから木本をはじめとする何人かの債権者に月々5万円を返済し続けていました」(同)詐欺の舞台となったソフトバンク本社 逮捕を免れようという魂胆でコツコツと再起に向けて動き出していたのだろうが、あえなく逮捕となってしまったワケである。「今回の逮捕容疑となった詐欺案件で、木本ら芸能人らの被害者は確認されていません。勧誘を受けたのは約20人で引っかかったのは3~4人。そのうち12億円を騙し取られた会社経営者のケースが逮捕容疑となりました」(警視庁担当記者) 昨年10月、その詐欺スキームの詳細をデイリー新潮に明かしてくれたのが被害者の1人で、森田容疑者から総額1億円、この案件だけで約3900万円を騙し取られたと訴えるAさんだった。以下はAさんが当時、語ってくれた話だ。 21年末、森田容疑者から「儲かる投資案件がある」と誘われ、港区・竹芝のソフトバンク本社を一緒に訪れた。会議室に資料を持って現れたのが、同社「デジタルトランスフォーメーション統括部」統括部長の清水亮容疑者(47)と元課長の枡田健吾容疑者(42)だった。清水容疑者が説明し始めたのは、「全チャネル統一ナレッジ管理システムプロジェクト」と題した架空の投資話だった。「全国で約3000店舗あるソフトバンクショップとY!モバイルショップの店頭で使うシステムのリプレイス(入れ替え)作業に投資しないかという話でした。ソフトバンクはこの事業を、清水部長が代表を務めるトレンドライフ社に発注。トレンド社は事業を受けるにあたり必要な資金を調達するため、一口2億円を6口、計12億円の出資を募る。出資者はトレンド社と月利5%の金銭消費者契約書を交わすといった概要でした」(Aさん)なぜか連絡手段に「Signal」を指定 事業を統括するサラリーマン部長が、自分が代表を務める「プライベートカンパニー」に事業を発注するというメチャクチャな事業計画である。だが、清水容疑者らが「うちは兼業が認められているんです」と自信満々な様子で語っていたという。「トレンド社がソフトバンクから受注した事業を、さらに桝田課長が代表を務める『ネクストドア』社に発注すれば、利益相反にはならないという話でした」(同) なぜ「部長の会社」では利益相反になり、「課長の会社」ならば大丈夫なのかよくわからない説明だったが、「清水部長は、これまでにトレンド社がソフトバンクから受注した実績や自身の著書を見せながら、終始、自信満々に説明するのです。リスクはないんですかとも聞きましたが、『あるとしたら天災による遅延やシステムを動かした時にバグが出ることくらい。それもほぼないですよ』と。そして、『ソフトバンクが最終的なお金を支払うわけですから大丈夫』と言うので……」(同) だが、今になって振り返れば他にも怪しい点はあったという。「会う前から『秘密保持契約書』に必ずサインが必要ですと森田を通してしつこく言われており、当日もそれにサインさせられました。さらに、『情報漏えいを防ぐために今後の連絡はSignalにして欲しい』と言われました。実際、その後、数回にわたって清水部長とやり取りが続いたのですがすべてSignalを使わされました」(同)直撃に「Aさんを知らない」 SignalとはLINEのようなオープンソースのメッセンジャーアプリである。LINEとの最大の違いは、メッセージが自動的に消える機能がついている点で、証拠のやり取りを残さない目的で薬物の売買などに使われることも多い。商取引において大事なのは、後々言った言わないで揉めないようにやり取りを証拠にして残すことなのに跡形なく消すというのだから、これまたおかしな話だ。 だが、完全に信じ込んでしまっていたAさんは、最終的にはこの案件に3900万円もの大金をつぎ込んでしまったのである。「出資金は森田の口座に入金しました。しばらくの間は配当金が入ってきましたが、やがて途絶えるようになり、森田とも連絡がつかなくなってしまった」(Aさん) デイリー新潮がAさんのこの訴えを聞いたのが昨年10月初旬で、この時点で清水・桝田両容疑者はまだソフトバンクに勤務していた。記者が清水容疑者の携帯に電話すると本人が出た。――森田氏の投資トラブルについて取材している中、Aさんからあなたの話が出てきた。Aさんのことは知っていますよね。「Aさん? 存じ上げないですね」――Aさんは森田氏と一緒に昨年12月にあなたの会社を訪ね、12億円の出資話について勧誘を受けたと取材に答えている。Aさんに投資案件を勧誘した事実はないか。「私はAさんという方を知りませんので、そのへんに関してはお答えできません」会社に連絡すると伝えると…――ソフトバンクシステム受託ビジネススキームという資料を作成したのはあなたではないのか。「そのへんもちょっとわかりませんので、ノーコメントで控えさせていただきます」 記者が丁寧にAさんの氏名を字解きまでして説明しても、「知りませんねぇ」としらばっくれる清水容疑者。だが、「では、森田さんのことは知っていますか」と聞くと、徐々に受け答えが怪しくなってきた。「はい、あの、このへんもノーコメントにさせていただきます」「この番号を誰から聞いたんですか。いきなり知らない人から電話をかけてこられて、内容的にもよくわからないことを聞かれて気味が悪いんですけど」 埒が明かないので会社に連絡すると通告すると、「それは、何の権利があってやられるんですかね、それがもし本当だったら、当然、あの……、秘密保持契約も結んでいますし、そのへんが漏れたらまずい……。そもそもなぜ知っているんですかって話ですよね、はい」 最後はしどろもどろになって電話は切られた。そして翌4日、ソフトバンク広報部に取材を入れると、〈当社内に「全チャネル統一ナレッジ管理システムプロジェクト」は過去も現在も存在せず、当社がこのプロジェクトの名目で出資を募ったことも一切ありません〉とする衝撃の回答が届いたのである。 以下はその続きだ。〈(デイリー新潮)編集部からの問い合わせを受けたその日(10/4)に、当社社員である対象者へ聞き取り調査を実施した結果、対象者が当社に存在しないプロジェクトを第三者と共謀して捏造し、投資勧誘を行ったという極めて悪質な行為が行われたことが判明しました。当社は、この聞き取り調査でこれらの事実を初めて把握したため、本日(10/5)、本件を警視庁へ通報しました。今後は、捜査に全面的に協力していきます。また、当社内においても対象者を厳正に処分する予定です〉ソフトバンクの責任は? その後ソフトバンクは、10月19日付で清水・桝田両容疑者を懲戒解雇。そして、1年1カ月間の時を経て、今回の逮捕となったのである。 Aさんは逮捕後、こう懸念を語った。「正義の鉄槌が下されたという意味においては良かったとは思っています。ただ、私たち被害者にとっては失った投資金が戻ってくるかが一番大事。森田容疑者からは今年の3月頃から毎月少額が返済され続けてきましたが、それが止まってしまわないかが心配です」 そして、ソフトバンクに対して次のような不満を述べるのであった。「詐欺は会社の中で行われたのだから同社にも責任があるはず。しかし、今回の逮捕を受け、電話で問い合わせても『弊社は関与していないので使用者や監督者としての責任はありません。警察にいってください』と全く取り合ってくれません」 逮捕後、ソフトバンク広報部に改めて取材をすると次のように回答した。「本件は極めて悪質な行為であり、重大な事案と受け止め、すぐに警視庁に通報し、以降、捜査に全面的に協力してきました。ただし、本件に関する元社員の行為は当社の業務外の行為であり、当社は一才関与しておりません」デイリー新潮編集部
芸能界を揺るがしたTKO木本の投資トラブルが発覚したのは昨年7月のことだった。木本が投資金の返済をめぐってトラブルになっていた人物こそが、今回、主犯として逮捕されたホストの森田真伍容疑者(41)である。
「木本は当時、アパレル会社代表だった森田容疑者が勧めたFX関連の投資話に乗って自ら数千万円の損失を抱えてしまった。そればかりでなく、平成ノブシコブシの吉村崇や野性爆弾のくっきー!など、十数人の芸能人脈を森田に紹介し、芸能界で総額数億円にも及ぶ投資被害を拡大させてしまったのです」(芸能事務所関係者)
芸能界を混乱に陥れた責任を問われ活動休止に追い込まれた木本だったが、今年1月、「返済計画に目処がついた」などとして復帰会見を開催。その時、木本は森田容疑者とは連絡が取れていて、「返済が始まっている」と説明していた。
「トラブル発覚後しばらくの間、森田容疑者は雲隠れしていましたが、最近は歌舞伎町のホストクラブに勤務。その稼ぎから木本をはじめとする何人かの債権者に月々5万円を返済し続けていました」(同)
逮捕を免れようという魂胆でコツコツと再起に向けて動き出していたのだろうが、あえなく逮捕となってしまったワケである。
「今回の逮捕容疑となった詐欺案件で、木本ら芸能人らの被害者は確認されていません。勧誘を受けたのは約20人で引っかかったのは3~4人。そのうち12億円を騙し取られた会社経営者のケースが逮捕容疑となりました」(警視庁担当記者)
昨年10月、その詐欺スキームの詳細をデイリー新潮に明かしてくれたのが被害者の1人で、森田容疑者から総額1億円、この案件だけで約3900万円を騙し取られたと訴えるAさんだった。以下はAさんが当時、語ってくれた話だ。
21年末、森田容疑者から「儲かる投資案件がある」と誘われ、港区・竹芝のソフトバンク本社を一緒に訪れた。会議室に資料を持って現れたのが、同社「デジタルトランスフォーメーション統括部」統括部長の清水亮容疑者(47)と元課長の枡田健吾容疑者(42)だった。清水容疑者が説明し始めたのは、「全チャネル統一ナレッジ管理システムプロジェクト」と題した架空の投資話だった。
「全国で約3000店舗あるソフトバンクショップとY!モバイルショップの店頭で使うシステムのリプレイス(入れ替え)作業に投資しないかという話でした。ソフトバンクはこの事業を、清水部長が代表を務めるトレンドライフ社に発注。トレンド社は事業を受けるにあたり必要な資金を調達するため、一口2億円を6口、計12億円の出資を募る。出資者はトレンド社と月利5%の金銭消費者契約書を交わすといった概要でした」(Aさん)
事業を統括するサラリーマン部長が、自分が代表を務める「プライベートカンパニー」に事業を発注するというメチャクチャな事業計画である。だが、清水容疑者らが「うちは兼業が認められているんです」と自信満々な様子で語っていたという。
「トレンド社がソフトバンクから受注した事業を、さらに桝田課長が代表を務める『ネクストドア』社に発注すれば、利益相反にはならないという話でした」(同)
なぜ「部長の会社」では利益相反になり、「課長の会社」ならば大丈夫なのかよくわからない説明だったが、
「清水部長は、これまでにトレンド社がソフトバンクから受注した実績や自身の著書を見せながら、終始、自信満々に説明するのです。リスクはないんですかとも聞きましたが、『あるとしたら天災による遅延やシステムを動かした時にバグが出ることくらい。それもほぼないですよ』と。そして、『ソフトバンクが最終的なお金を支払うわけですから大丈夫』と言うので……」(同)
だが、今になって振り返れば他にも怪しい点はあったという。
「会う前から『秘密保持契約書』に必ずサインが必要ですと森田を通してしつこく言われており、当日もそれにサインさせられました。さらに、『情報漏えいを防ぐために今後の連絡はSignalにして欲しい』と言われました。実際、その後、数回にわたって清水部長とやり取りが続いたのですがすべてSignalを使わされました」(同)
SignalとはLINEのようなオープンソースのメッセンジャーアプリである。LINEとの最大の違いは、メッセージが自動的に消える機能がついている点で、証拠のやり取りを残さない目的で薬物の売買などに使われることも多い。商取引において大事なのは、後々言った言わないで揉めないようにやり取りを証拠にして残すことなのに跡形なく消すというのだから、これまたおかしな話だ。
だが、完全に信じ込んでしまっていたAさんは、最終的にはこの案件に3900万円もの大金をつぎ込んでしまったのである。
「出資金は森田の口座に入金しました。しばらくの間は配当金が入ってきましたが、やがて途絶えるようになり、森田とも連絡がつかなくなってしまった」(Aさん)
デイリー新潮がAさんのこの訴えを聞いたのが昨年10月初旬で、この時点で清水・桝田両容疑者はまだソフトバンクに勤務していた。記者が清水容疑者の携帯に電話すると本人が出た。
――森田氏の投資トラブルについて取材している中、Aさんからあなたの話が出てきた。Aさんのことは知っていますよね。
「Aさん? 存じ上げないですね」
――Aさんは森田氏と一緒に昨年12月にあなたの会社を訪ね、12億円の出資話について勧誘を受けたと取材に答えている。Aさんに投資案件を勧誘した事実はないか。
「私はAさんという方を知りませんので、そのへんに関してはお答えできません」
――ソフトバンクシステム受託ビジネススキームという資料を作成したのはあなたではないのか。
「そのへんもちょっとわかりませんので、ノーコメントで控えさせていただきます」
記者が丁寧にAさんの氏名を字解きまでして説明しても、「知りませんねぇ」としらばっくれる清水容疑者。だが、「では、森田さんのことは知っていますか」と聞くと、徐々に受け答えが怪しくなってきた。
「はい、あの、このへんもノーコメントにさせていただきます」
「この番号を誰から聞いたんですか。いきなり知らない人から電話をかけてこられて、内容的にもよくわからないことを聞かれて気味が悪いんですけど」
埒が明かないので会社に連絡すると通告すると、
「それは、何の権利があってやられるんですかね、それがもし本当だったら、当然、あの……、秘密保持契約も結んでいますし、そのへんが漏れたらまずい……。そもそもなぜ知っているんですかって話ですよね、はい」
最後はしどろもどろになって電話は切られた。そして翌4日、ソフトバンク広報部に取材を入れると、〈当社内に「全チャネル統一ナレッジ管理システムプロジェクト」は過去も現在も存在せず、当社がこのプロジェクトの名目で出資を募ったことも一切ありません〉とする衝撃の回答が届いたのである。
以下はその続きだ。
〈(デイリー新潮)編集部からの問い合わせを受けたその日(10/4)に、当社社員である対象者へ聞き取り調査を実施した結果、対象者が当社に存在しないプロジェクトを第三者と共謀して捏造し、投資勧誘を行ったという極めて悪質な行為が行われたことが判明しました。当社は、この聞き取り調査でこれらの事実を初めて把握したため、本日(10/5)、本件を警視庁へ通報しました。今後は、捜査に全面的に協力していきます。また、当社内においても対象者を厳正に処分する予定です〉
その後ソフトバンクは、10月19日付で清水・桝田両容疑者を懲戒解雇。そして、1年1カ月間の時を経て、今回の逮捕となったのである。
Aさんは逮捕後、こう懸念を語った。
「正義の鉄槌が下されたという意味においては良かったとは思っています。ただ、私たち被害者にとっては失った投資金が戻ってくるかが一番大事。森田容疑者からは今年の3月頃から毎月少額が返済され続けてきましたが、それが止まってしまわないかが心配です」
そして、ソフトバンクに対して次のような不満を述べるのであった。
「詐欺は会社の中で行われたのだから同社にも責任があるはず。しかし、今回の逮捕を受け、電話で問い合わせても『弊社は関与していないので使用者や監督者としての責任はありません。警察にいってください』と全く取り合ってくれません」
逮捕後、ソフトバンク広報部に改めて取材をすると次のように回答した。
「本件は極めて悪質な行為であり、重大な事案と受け止め、すぐに警視庁に通報し、以降、捜査に全面的に協力してきました。ただし、本件に関する元社員の行為は当社の業務外の行為であり、当社は一才関与しておりません」
デイリー新潮編集部