「脂肪」と一口に言っても、皮下脂肪と内臓脂肪があるのをご存じでしょうか。お腹がポッコリ出てしまうだけでなく、《隠れ肥満》の原因にもなるのが内臓脂肪。放置するとさまざまな病気を引き起こすリスクがあるのです(構成=吉川明子 イラスト=豊岡絵里子)
【写真】内臓脂肪が引き起こすリスク* * * * * * *2種類の脂肪それぞれの役割とは太って見た目が悪くなる原因としてみなさんに嫌われがちな脂肪ですが、少なければ少ないほどよいというものでもありません。

脂肪とは、体が飢餓状態に備えて、エネルギーを貯蔵したもの。体内の細胞一つひとつを包む膜の成分でもあり、女性ホルモンや男性ホルモンの原料になるなど、人の生命維持に関わる重要な役割があります。脂肪のもとになる成分は、中性脂肪です。血液中に溶けている油のことで、血液検査ではおなじみの項目。中性脂肪が多ければ多いほど、脂肪が大きくなっていきます。では、この脂肪は体のどこにあるのか。そもそも脂肪には、皮下脂肪と内臓脂肪の2種類があるのです。皮下脂肪とは、その名の通り全身の皮膚の下に蓄積されたもの。体を寒さから守って体温を一定に保ち、外部からの衝撃を和らげる働きがあります。つけばつくほど体全体が丸みを帯びるため、見た目にわかりやすい。やあご、二の腕などにお肉がついたな、と思ったら、それは皮下脂肪です。女性の場合は特に、子宮や卵巣を守るため下腹部につきやすいのも特徴。また、皮下脂肪はビタミンDや女性ホルモンを合成する役割も担っています。一方の内臓脂肪は、その名の通り内臓を覆うようについているもの。お腹は巨大な空洞になっており、その中に胃や腸、肝臓などたくさんの臓器が存在しています。しかし、人は直立しているため、重力によって臓器がずり落ちかねません。そこで、臓器の隙間を内臓脂肪で埋めることで固定しつつ、内臓を守るクッションの役割を果たします。内臓脂肪は臓器の周りという体の深い部分に蓄積するため、見た目では判断がつきにくいのが特徴です。このように、皮下脂肪も内臓脂肪も重要な働きがあるため、ほどほどの量であればむしろないと困ります。しかし、脂肪が増えると体重が増加し負担がかかって、足腰を痛める原因に。さらに、そういったわかりやすい弊害のほかに、実は内臓脂肪は、病気を引き起こしかねないので注意が必要です。私は内科医として、健診センターでのべ20万人以上もの健康診断を行ってきました。そこで糖尿病をはじめ、さまざまな病気の人を診て気づいたのが、そのほとんどの人にかなりの量の脂肪、特に内臓脂肪が蓄積されているということでした。あらゆる不調を呼ぶやっかいな脂肪もともと内臓脂肪には、体の機能を調節するための物質を分泌する役割があります。その物質のなかには、食欲を抑えるなどいい効果をもたらすものがある一方、悪い働きをするものも。内臓脂肪が適正量であれば、いい効果のほうが優勢ですが、増えすぎると悪い効果のほうが優勢になってしまうことが明らかになっているのです。なかでも注意が必要なのは、インスリンがうまく働かなくなること。インスリンが働かないと血糖値が下がらなくなるだけでなく、細胞がブドウ糖を取り込めず、エネルギーを作ることができません。ですから、脳は過剰にインスリンを作らせる命令を出し続けることになる。それでうまくまわればよいのですが、高濃度のインスリンには困った性質があり、血圧を上昇させてしまうのです。すると、動脈硬化が進行し、脳梗塞や心筋梗塞の危険性が高まります。また、インスリンの過剰分泌と動脈硬化は、認知症の進行を早めることもわかっているのです。さらに、内臓脂肪はがんを引き起こすきっかけにも。本来細胞には、体にとって不都合な細胞が自然と淘汰される、「アポトーシス」という機能が備わっています。ところが大量のインスリンが分泌されると、アポトーシスが効きにくくなり、悪い細胞が増殖するのです。ほかにも、胆石や骨粗鬆症を引き起こすおそれがあるなど、内臓脂肪はまさに万病のもと。実は、日本人を含むアジア人は、欧米人に比べて皮下脂肪が少ないものの、内臓脂肪は多く付きやすい体質です。スリムに見える人でも、内臓脂肪を溜め込んでいる場合があるので、意識して落とすように努力しましょう。<後編につづく>
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太って見た目が悪くなる原因としてみなさんに嫌われがちな脂肪ですが、少なければ少ないほどよいというものでもありません。
脂肪とは、体が飢餓状態に備えて、エネルギーを貯蔵したもの。体内の細胞一つひとつを包む膜の成分でもあり、女性ホルモンや男性ホルモンの原料になるなど、人の生命維持に関わる重要な役割があります。
脂肪のもとになる成分は、中性脂肪です。血液中に溶けている油のことで、血液検査ではおなじみの項目。中性脂肪が多ければ多いほど、脂肪が大きくなっていきます。
では、この脂肪は体のどこにあるのか。そもそも脂肪には、皮下脂肪と内臓脂肪の2種類があるのです。
皮下脂肪とは、その名の通り全身の皮膚の下に蓄積されたもの。体を寒さから守って体温を一定に保ち、外部からの衝撃を和らげる働きがあります。つけばつくほど体全体が丸みを帯びるため、見た目にわかりやすい。
やあご、二の腕などにお肉がついたな、と思ったら、それは皮下脂肪です。女性の場合は特に、子宮や卵巣を守るため下腹部につきやすいのも特徴。
また、皮下脂肪はビタミンDや女性ホルモンを合成する役割も担っています。
一方の内臓脂肪は、その名の通り内臓を覆うようについているもの。お腹は巨大な空洞になっており、その中に胃や腸、肝臓などたくさんの臓器が存在しています。しかし、人は直立しているため、重力によって臓器がずり落ちかねません。
そこで、臓器の隙間を内臓脂肪で埋めることで固定しつつ、内臓を守るクッションの役割を果たします。内臓脂肪は臓器の周りという体の深い部分に蓄積するため、見た目では判断がつきにくいのが特徴です。
このように、皮下脂肪も内臓脂肪も重要な働きがあるため、ほどほどの量であればむしろないと困ります。しかし、脂肪が増えると体重が増加し負担がかかって、足腰を痛める原因に。
さらに、そういったわかりやすい弊害のほかに、実は内臓脂肪は、病気を引き起こしかねないので注意が必要です。
私は内科医として、健診センターでのべ20万人以上もの健康診断を行ってきました。そこで糖尿病をはじめ、さまざまな病気の人を診て気づいたのが、そのほとんどの人にかなりの量の脂肪、特に内臓脂肪が蓄積されているということでした。
もともと内臓脂肪には、体の機能を調節するための物質を分泌する役割があります。その物質のなかには、食欲を抑えるなどいい効果をもたらすものがある一方、悪い働きをするものも。
内臓脂肪が適正量であれば、いい効果のほうが優勢ですが、増えすぎると悪い効果のほうが優勢になってしまうことが明らかになっているのです。
なかでも注意が必要なのは、インスリンがうまく働かなくなること。インスリンが働かないと血糖値が下がらなくなるだけでなく、細胞がブドウ糖を取り込めず、エネルギーを作ることができません。ですから、脳は過剰にインスリンを作らせる命令を出し続けることになる。
それでうまくまわればよいのですが、高濃度のインスリンには困った性質があり、血圧を上昇させてしまうのです。すると、動脈硬化が進行し、脳梗塞や心筋梗塞の危険性が高まります。
また、インスリンの過剰分泌と動脈硬化は、認知症の進行を早めることもわかっているのです。
さらに、内臓脂肪はがんを引き起こすきっかけにも。本来細胞には、体にとって不都合な細胞が自然と淘汰される、「アポトーシス」という機能が備わっています。ところが大量のインスリンが分泌されると、アポトーシスが効きにくくなり、悪い細胞が増殖するのです。
ほかにも、胆石や骨粗鬆症を引き起こすおそれがあるなど、内臓脂肪はまさに万病のもと。
実は、日本人を含むアジア人は、欧米人に比べて皮下脂肪が少ないものの、内臓脂肪は多く付きやすい体質です。スリムに見える人でも、内臓脂肪を溜め込んでいる場合があるので、意識して落とすように努力しましょう。
<後編につづく>