近年、豪雨被害が目立つように、日本の自然災害の発生件数は上昇傾向にある。災害時、女性は「弱者」といわれるが、中高年男性には意外なリスクが潜んでいた。リスクを軽視されがちな中年男性だが、彼らもまた「災害弱者」に陥ってしまうことは少なくないと専門家は指摘する。今回は、被災地の調査経験が豊富な関西大学社会安全学部教授の山崎栄一氏に問題点を解説してもらった。
◆男性には災害時に意外なリスクがつきまとう
これまで触れてきた中年男性に降りかかる「七大リスク」は、決して他人事ではない。一般に災害時死亡率が男性の1.5倍ほどになる女性は、「災害弱者」と呼ばれる。
しかし、たとえ災害をサバイブしても意外なリスクがつきまとう男性もまた、「災害弱者」になる点は見過ごされがちだからだ。
◆ジェンダーの押し付けの結果、弱音が吐けずに危険な作業に従事
その理由について、被災地の調査経験が豊富な関西大学社会安全学部教授の山崎栄一氏は、次のように説明する。
「避難所ではジェンダーの押しつけが強く、男性は男らしく振る舞うよう求められます。心身ともにキツく危険な作業をやらざるをえず、他方、辛いことがあっても弱音を吐いたり、周囲に相談したりすることができません」
◆“おじさん”は叩いてもいい、避難所で待つ過酷な生活
さらに、老若男女の区別なく、大勢の被災者が狭い空間に密集して暮らす避難所にもリスクが潜む。“おじさん”は叩いてもいい……そんな風潮が強い日本では、特に中年男性にとって苛酷な生活が待ち受けているという。
「見た目が小汚かったり、オタク系の痛いTシャツを着ていたりすると、避難所で女の子に目を留めただけで“変態おじさん”の烙印を押され、白い目で見られかねません。避難所生活を終えたとしても、女性に比べて男性はコミュニティをつくるのも参加するのも苦手なので、孤独死に繋がりやすい。中年男性は災害に起因するストレスも高く、災害関連死予備軍と言っても過言ではありません」
◆災害発生件数は上昇傾向。中高年男性に逃げ場ナシ
「災害大国」の日本では、自然災害の発生件数は上昇傾向にあり、近年では線状降水帯による風水害や土砂崩れが全国各地で発生している。
だが意外なことに、浸水想定区域に住む人は1995年から2015年の20年間で実に177万人も増加しているのだ。なぜなのか。
「郊外にある農地の住宅化が影響していると思われがちですが、実はそれ以上に都市部の河川近くにある平地が住宅化したのが大きい。当然ですが、ひとたび豪雨に見舞われれば被害が甚大になる。水害は逃げるしか手立てがないので、最善の防衛策は“住まない”ことです」
◆“おじさん”にとっての安全な場所は…
そして、「地震大国」でもある日本では、最近、各地で地震が頻発。首都直下型地震や南海トラフ地震はいつ起きても不思議でないといわれる。
「地震被害に対して国は、被災者生活再建支援法で被災者に手を差し伸べますが、家屋の半壊以下は対象外です。仮に、全壊しても支払われるのは最大300万円。これでは家を建て直すのは無理でしょう。だが、地震保険に加入していれば、保険金額の30~50%の範囲内で建物と家財が補償されます」
地震保険の世帯加入率は約35%にとどまる。水害や地震で失われる家の世帯主は、中高年男性が大多数を占める。「災害弱者」である“おじさん”たちにとって、日本に安全な場所はないのか……。
【関西大学社会安全学部教授・山崎栄一氏】「自然災害と法」を中心のテーマとして活動する。被災者支援、災害時要配慮者支援、災害時における個人情報の活用について精力的に講演・執筆活動を展開
<取材・文/週刊SPA!編集部 写真/時事通信社>