以前から気になっていたのだが、駅で花屋をよく見るような気がする。
そもそも、駅構内にあるお店の定番といえば、立ち食いそばや、かつてはキヨスクだったコンビニ、ちょっと時間がつぶせたりできるカフェなどだ。移動中にほんの少し立ち寄って用を足すという利便性があって、ないと困る場所。
一方、花はやっぱり冠婚葬祭とか開店祝いなどの限られたシーンでしか需要がないイメージだ。花束を抱えていそいそとどこかへ行く用事なんて、1年のうちにそうそうないように思えるのだが。気になったので調べてみた。
調べてみると、都内の駅で主に展開している店は『青山フラワーマーケット』(以下・AFM)のようだ。国内に展開している121店舗のうち100店舗を駅に出店しているらしい。では実際に繁盛しているのだろうか。
花などの観賞用植物の市場である花き市場全体の規模は’16年に1兆円を割り込み、さらにコロナ禍でイベントや行事が減少したことにより、苦戦しているという。だが、AFMの売り上げは’16年に74億円だったのが、’22年には105億円と40%も増えているのだ。
なぜ、駅でこんなに花が売れているのだろうか。経営コンサルタントの平野敦士カール氏に聞いてみた。
「非常に特徴的なのは自家需要に注目している点ですね。法人ではなく、一般の方が低価格のグラスに入ったブーケを買っていくというような需要が中心だということです。
店頭での花の並べ方も工夫していて、普通の花屋さんは花の種類ごとにディスプレイするのに対して、AFMは、黄色なら黄色い花だけを集めて色ごとに花を固めて見せるなど、ディスプレイにもすごくこだわっているようです。通りすがりのお客さんが、パッと見て衝動買いするように。
たとえ買う気がなくても、駅でキレイな花を見かけると、つい買ってしまうことってありますよね。そんな衝動買い――パルス消費を、うまく取り込んでいるという風に思います。これは駅という場所ならではですよね。値段もグラスサイズのブーケなどが500円ほどで、ちょうど買いたくなる値段なんです」
つまり、駅という人のアクセスの多い場所では、きれいにディスプレイされた店そのものの存在がある種の広告効果をもたらすのだという。だが、そんな場所であれば、当然誰もが店を出したいわけで、店舗の賃料も高くなる。そうすると、できるだけ狭い空間でより多くの売り上げを出さなければならなくなるのだが、その点をAFMはうまくクリアしているというのだ。
「駅という場所はお客さんの回転が速いので、薄利多売に向いています。お店の広さは8坪ぐらいですが、その広さでちゃんと利益が出るような仕組みができている。
普通の花屋には花の鮮度を保つために冷蔵庫を置いていますが、AFMは置かずにあらかじめブーケの状態にした花を傷む前に売り切ってしまうのです。固定費を削減したり廃棄率を下げるなどして、コストを徹底的に抑えているところが、出店できている理由でしょう」(平野氏)
わずか8坪ほどの店舗でもたくさんの知恵と工夫を詰め込めば、大きな利益を生み出すことができるのだ。時には自分のために家に花を買って帰るのもいいかもしれない。