客が理不尽な要求をし、働く人の就業環境を害するカスタマーハラスメント(カスハラ)。 航空業界では、チェックインや搭乗案内をする空港旅客サービスや、旅行予約(コールセンター)などのスタッフに理不尽な要求をするカスハラが問題になっている。航空会社の労働組合・航空連合が行ったヒアリングでは「遅延証明書の即時発行を求められた上、顔写真の撮影を執拗に迫られた」、「キャンセル料の説明をしたら『お前の退職金で払ってやる』などと執拗に話をされた」など、理不尽な要求や暴言の被害にあったという声が上がった。

コロナ禍で離職者が増えた航空業界は、人手不足の問題を抱えている。航空連合の内藤晃会長に航空業界でのカスハラの実態や対策、海外の航空会社との比較について聞いた。(ライター・国分瑠衣子)●旅客サービスとコールセンターは半数超がカスハラ被害航空連合が2022年12月に空港旅客サービスや旅行予約(コールセンター)、グランドハンドリング(航空機の地上支援業務)の職員らを対象に行ったアンケートでは、回答した652人のうち約4割が「1年以内にカスハラを受けた経験がある」と回答した。「どのような行為にあったか」の設問には、「暴言・脅迫」がトップで、「説教などでの長時間の拘束」が続く。無断撮影やセクハラ行為、金品の要求などを受けた職員もいた。職種別で特にカスハラが深刻だったのがチェックインや搭乗案内業務をする空港旅客サービスと、旅行予約を受け付けるコールセンターだ。いずれも半数超が被害を受けていた。加盟組合へのヒアリングでは、下記の被害報告があった。・ラウンジ利用対象外の旅客に入室をお断りしたところ「うるさいバカ」「俺は社長だぞ」「使えないブス」と言われた(空港旅客サービス)・欠航のご案内に納得されず「お前も、お前の家族も殺すぞ」と言われた(同)・Go Toトラベルキャンペーンの時に、コロナ感染拡大で政府から中止の指示が出たため、お客様に「参加する時は、割引額相当の支払いが必要」とお伝えしたところ、「この屈辱と同じ思いをお前と、お前の家族にも味わわせてやる」など言われ、卑猥な言葉を浴びせられた(コールセンター)コールセンターのカスハラについて、内藤会長はこう説明する。「今は旅行予約もオンラインで完結するものが大半です。電話する必要があるケースは複雑な内容が多い。コールセンターの人手不足もあり、待っていただいている間にお客様がイライラしたところで、内容にご不満があるとカスハラに発展します」●日本の航空会社に過剰なサービスを求める傾向はある海外の航空会社やLCC(格安航空会社)と、日本の航空会社を比べた時に、日本人のカスハラの濃淡はあるのだろうか。「日本の航空会社に対して過剰なサービスを要求する傾向はあるのではないかと考えています。海外の航空会社なら別にそこまで言わないけれど…というようなことです。日本の航空会社は定時性や快適性などサービスの手厚さを売りにしているところがあり、お客様の期待値は高いです。期待値が高いところに、さまざまな理由で要求に応えられない時に、お客様が落胆して怒るケースが多いと感じます」手厚いサービスを提供しているから客の求める期待値が高く、期待する対応ではなかった時に、カスハラに発展するのは、日本のホテル・旅館業界と共通している。インバウンドが急回復する中で、外国人観光客からのカスハラはないのだろうか。内藤会長は「目立った報告は受けていません」と話す。ただ、国や地域によって空港の利用方法の傾向や違いはあるようだ。中国人観光客の「爆買い」はコロナ禍前と比べると落ち着いてはいるが、手荷物の機内持ち込みの制限個数を超えるなどの問題は依然としてある。●スタッフの名札問題、見せ方を考える必要氏名を特定され、SNSで誹謗・中傷されないために、自治体や一部の企業では職員や従業員の名札の氏名表示を廃止する動きが出ている。交通関係では、バス・タクシー運転手の氏名を載せた、運転者証の掲示義務が8月1日に廃止された。航空業界では氏名掲示についてどう考えているのか。内藤会長は「これまではブランドイメージや、お客様に保安要員ということが分かるように氏名表示をしてきました」と説明する。空港の旅客係員が、制限区域内に入る時に必要な「ランプパス」には顔写真付きで氏名が記されている。「制限区域に入る時にだけ、ランプパスが見えるようにするなど、今後は工夫が必要になると考えています」航空連合が行ったアンケートでは、職場で行われている著しい迷惑行為の対策として「特に対策されていない・わからない」と回答した人が、54%と半数を超えた。カスハラ対策の周知が十分とは言い難い状況だ。内藤会長は「会社ごとのカスハラ教育に加え、業界全体で対応の統一基準をつくる必要がある」と指摘する。各社バラバラの対応だと「JALでは良かったのになぜANAではダメなのか」といったクレームに発展する可能性がある。航空連合は、業界全体でのカスハラ対応の基準策定などを、航空事業者でつくる定期航空協会に申し入れている。内藤会長は「カスハラは1人ではなく、チームで毅然と対応することが大事です。一方、航空業界は人手不足が課題で、チーム対応が難しい場面もある。人材確保のためにもカスハラ対策は政策課題として注力していきます」と話している。
客が理不尽な要求をし、働く人の就業環境を害するカスタマーハラスメント(カスハラ)。 航空業界では、チェックインや搭乗案内をする空港旅客サービスや、旅行予約(コールセンター)などのスタッフに理不尽な要求をするカスハラが問題になっている。
航空会社の労働組合・航空連合が行ったヒアリングでは「遅延証明書の即時発行を求められた上、顔写真の撮影を執拗に迫られた」、「キャンセル料の説明をしたら『お前の退職金で払ってやる』などと執拗に話をされた」など、理不尽な要求や暴言の被害にあったという声が上がった。
コロナ禍で離職者が増えた航空業界は、人手不足の問題を抱えている。航空連合の内藤晃会長に航空業界でのカスハラの実態や対策、海外の航空会社との比較について聞いた。(ライター・国分瑠衣子)
航空連合が2022年12月に空港旅客サービスや旅行予約(コールセンター)、グランドハンドリング(航空機の地上支援業務)の職員らを対象に行ったアンケートでは、回答した652人のうち約4割が「1年以内にカスハラを受けた経験がある」と回答した。
「どのような行為にあったか」の設問には、「暴言・脅迫」がトップで、「説教などでの長時間の拘束」が続く。無断撮影やセクハラ行為、金品の要求などを受けた職員もいた。
職種別で特にカスハラが深刻だったのがチェックインや搭乗案内業務をする空港旅客サービスと、旅行予約を受け付けるコールセンターだ。いずれも半数超が被害を受けていた。
加盟組合へのヒアリングでは、下記の被害報告があった。
・ラウンジ利用対象外の旅客に入室をお断りしたところ「うるさいバカ」「俺は社長だぞ」「使えないブス」と言われた(空港旅客サービス)
・欠航のご案内に納得されず「お前も、お前の家族も殺すぞ」と言われた(同)
コールセンターのカスハラについて、内藤会長はこう説明する。「今は旅行予約もオンラインで完結するものが大半です。電話する必要があるケースは複雑な内容が多い。コールセンターの人手不足もあり、待っていただいている間にお客様がイライラしたところで、内容にご不満があるとカスハラに発展します」
●日本の航空会社に過剰なサービスを求める傾向はある海外の航空会社やLCC(格安航空会社)と、日本の航空会社を比べた時に、日本人のカスハラの濃淡はあるのだろうか。「日本の航空会社に対して過剰なサービスを要求する傾向はあるのではないかと考えています。海外の航空会社なら別にそこまで言わないけれど…というようなことです。日本の航空会社は定時性や快適性などサービスの手厚さを売りにしているところがあり、お客様の期待値は高いです。期待値が高いところに、さまざまな理由で要求に応えられない時に、お客様が落胆して怒るケースが多いと感じます」手厚いサービスを提供しているから客の求める期待値が高く、期待する対応ではなかった時に、カスハラに発展するのは、日本のホテル・旅館業界と共通している。インバウンドが急回復する中で、外国人観光客からのカスハラはないのだろうか。内藤会長は「目立った報告は受けていません」と話す。ただ、国や地域によって空港の利用方法の傾向や違いはあるようだ。中国人観光客の「爆買い」はコロナ禍前と比べると落ち着いてはいるが、手荷物の機内持ち込みの制限個数を超えるなどの問題は依然としてある。●スタッフの名札問題、見せ方を考える必要氏名を特定され、SNSで誹謗・中傷されないために、自治体や一部の企業では職員や従業員の名札の氏名表示を廃止する動きが出ている。交通関係では、バス・タクシー運転手の氏名を載せた、運転者証の掲示義務が8月1日に廃止された。航空業界では氏名掲示についてどう考えているのか。内藤会長は「これまではブランドイメージや、お客様に保安要員ということが分かるように氏名表示をしてきました」と説明する。空港の旅客係員が、制限区域内に入る時に必要な「ランプパス」には顔写真付きで氏名が記されている。「制限区域に入る時にだけ、ランプパスが見えるようにするなど、今後は工夫が必要になると考えています」航空連合が行ったアンケートでは、職場で行われている著しい迷惑行為の対策として「特に対策されていない・わからない」と回答した人が、54%と半数を超えた。カスハラ対策の周知が十分とは言い難い状況だ。内藤会長は「会社ごとのカスハラ教育に加え、業界全体で対応の統一基準をつくる必要がある」と指摘する。各社バラバラの対応だと「JALでは良かったのになぜANAではダメなのか」といったクレームに発展する可能性がある。航空連合は、業界全体でのカスハラ対応の基準策定などを、航空事業者でつくる定期航空協会に申し入れている。内藤会長は「カスハラは1人ではなく、チームで毅然と対応することが大事です。一方、航空業界は人手不足が課題で、チーム対応が難しい場面もある。人材確保のためにもカスハラ対策は政策課題として注力していきます」と話している。
海外の航空会社やLCC(格安航空会社)と、日本の航空会社を比べた時に、日本人のカスハラの濃淡はあるのだろうか。
「日本の航空会社に対して過剰なサービスを要求する傾向はあるのではないかと考えています。海外の航空会社なら別にそこまで言わないけれど…というようなことです。
日本の航空会社は定時性や快適性などサービスの手厚さを売りにしているところがあり、お客様の期待値は高いです。期待値が高いところに、さまざまな理由で要求に応えられない時に、お客様が落胆して怒るケースが多いと感じます」
手厚いサービスを提供しているから客の求める期待値が高く、期待する対応ではなかった時に、カスハラに発展するのは、日本のホテル・旅館業界と共通している。
インバウンドが急回復する中で、外国人観光客からのカスハラはないのだろうか。内藤会長は「目立った報告は受けていません」と話す。ただ、国や地域によって空港の利用方法の傾向や違いはあるようだ。中国人観光客の「爆買い」はコロナ禍前と比べると落ち着いてはいるが、手荷物の機内持ち込みの制限個数を超えるなどの問題は依然としてある。
氏名を特定され、SNSで誹謗・中傷されないために、自治体や一部の企業では職員や従業員の名札の氏名表示を廃止する動きが出ている。交通関係では、バス・タクシー運転手の氏名を載せた、運転者証の掲示義務が8月1日に廃止された。航空業界では氏名掲示についてどう考えているのか。
内藤会長は「これまではブランドイメージや、お客様に保安要員ということが分かるように氏名表示をしてきました」と説明する。空港の旅客係員が、制限区域内に入る時に必要な「ランプパス」には顔写真付きで氏名が記されている。「制限区域に入る時にだけ、ランプパスが見えるようにするなど、今後は工夫が必要になると考えています」
航空連合が行ったアンケートでは、職場で行われている著しい迷惑行為の対策として「特に対策されていない・わからない」と回答した人が、54%と半数を超えた。カスハラ対策の周知が十分とは言い難い状況だ。
内藤会長は「会社ごとのカスハラ教育に加え、業界全体で対応の統一基準をつくる必要がある」と指摘する。各社バラバラの対応だと「JALでは良かったのになぜANAではダメなのか」といったクレームに発展する可能性がある。航空連合は、業界全体でのカスハラ対応の基準策定などを、航空事業者でつくる定期航空協会に申し入れている。
内藤会長は「カスハラは1人ではなく、チームで毅然と対応することが大事です。一方、航空業界は人手不足が課題で、チーム対応が難しい場面もある。人材確保のためにもカスハラ対策は政策課題として注力していきます」と話している。