子どもだけでの留守番は放置による虐待などと定めた埼玉県の「虐待禁止条例改正案」は、保護者らの批判を受け、提案していた自民党県議団が急きょ、取り下げを表明した。「トンデモ条例が成立しなくてよかった。でも、大きな課題を残しました」。そう話す大正大の江藤俊昭教授(地方自治論)に、改正案の問題点を聞いた。【聞き手・隈元悠太】
【図解】「子どもの放置」にあたるとされる例 子どもの放置など悲惨な事件が相次いでいることから、県の虐待禁止条例の一部を改正するとしていますが、市民生活の実態と大きく乖離(かいり)している、いわゆるトンデモ条例ですね。起案の目的と手段の基礎となるデータの立法事実も見えきません。

改正案では、子どもだけで、自宅で留守番をしたり、公園で遊んだりすることを「放置」と定義しています。一人親世帯への聞き取り調査などが行われているとは、到底思えません。 家族が多様化する中で、たとえば留守番を虐待とするのは非常に乱暴です。現場の声をろくに聞かずに「母親は家にいるべきだ」という議員の持つ「家族のイメージ」を県民に押し付けているように感じます。 この改正案は、自民党県議団による議員提案でした。近年、議員が地域住民と同じ目線に立って課題を解決する手段として脚光を浴びています。地方議員の立法能力を高める点で、望ましい動きです。 ただ、今回は議員提案の弊害が浮き彫りになりました。改正案の完成度の低さを踏まえると、会派内や委員会で議論された形跡は見られません。実際の子育て現場と大きな隔たりもあるため、会派内のチェックは機能せず、提案した議員らの暴走が垣間見えます。 今回の改正案は、世間的に注目を集めました。中身に違和感を持った人々による反対の署名活動が始まり、国会議員が問題視したこともあり、議案の取り下げという形に終着しました。 でも、注目を集めなければ事態は変わっていたかもしれません。4日に提案された改正案は6日の委員会で自民、公明両党の県議団が賛成していたことから、13日の本会議で、そのまま可決されていた可能性が拭えません。特定の政治家たちが望む市民像を織り込んだ議案が気がつかないうちに通ってしまうこともあるということです。 今回のような問題は全国、どこでも起こりえる話です。選挙で投票したら終わり。ではなく、議会を暴走させないためにも、私たちは、議員の動きを注視し続ける必要があります。
子どもの放置など悲惨な事件が相次いでいることから、県の虐待禁止条例の一部を改正するとしていますが、市民生活の実態と大きく乖離(かいり)している、いわゆるトンデモ条例ですね。起案の目的と手段の基礎となるデータの立法事実も見えきません。
改正案では、子どもだけで、自宅で留守番をしたり、公園で遊んだりすることを「放置」と定義しています。一人親世帯への聞き取り調査などが行われているとは、到底思えません。
家族が多様化する中で、たとえば留守番を虐待とするのは非常に乱暴です。現場の声をろくに聞かずに「母親は家にいるべきだ」という議員の持つ「家族のイメージ」を県民に押し付けているように感じます。
この改正案は、自民党県議団による議員提案でした。近年、議員が地域住民と同じ目線に立って課題を解決する手段として脚光を浴びています。地方議員の立法能力を高める点で、望ましい動きです。
ただ、今回は議員提案の弊害が浮き彫りになりました。改正案の完成度の低さを踏まえると、会派内や委員会で議論された形跡は見られません。実際の子育て現場と大きな隔たりもあるため、会派内のチェックは機能せず、提案した議員らの暴走が垣間見えます。
今回の改正案は、世間的に注目を集めました。中身に違和感を持った人々による反対の署名活動が始まり、国会議員が問題視したこともあり、議案の取り下げという形に終着しました。
でも、注目を集めなければ事態は変わっていたかもしれません。4日に提案された改正案は6日の委員会で自民、公明両党の県議団が賛成していたことから、13日の本会議で、そのまま可決されていた可能性が拭えません。特定の政治家たちが望む市民像を織り込んだ議案が気がつかないうちに通ってしまうこともあるということです。
今回のような問題は全国、どこでも起こりえる話です。選挙で投票したら終わり。ではなく、議会を暴走させないためにも、私たちは、議員の動きを注視し続ける必要があります。