子どもを育てることが難しく、出産前から支援が必要な妊婦のことを「特定妊婦」といいます。貧困やDVに苦しむ女性、性暴力などで望まない妊娠をしたケースもあります。産まれたばかりの赤ちゃんを遺棄する事件も相次ぐ中、ある女性の出産前から出産後の別れと、新たな出会いまでを密着取材です。
【写真を見る】孤立する母子に密着、お腹の子と一緒に死のうと思ったことも…“特定妊婦”が必要とする支援とは【報道特集】「産んでも育てられない」 悩んだ末に子どもを養子に我が子をあやしているのは20代の、りかさん(仮名)。1週間前に女の子を出産したばかりだ。

だが、りかさんは、この子を養子に出すと決めた。悩みぬいた末での決断だった。りかさん(20代)「お金があって、相手の考え方もしっかりしていれば育てていたはず」取材を始めたのは2023年3月。その時、りかさんは臨月を迎えようとしていた。会社の同僚に望まぬ妊娠をさせられた。精神的に追い詰められ、職場にも行けなくなった。相手は逃げてしまい、居場所もわからない。りかさん「どうしたらいいかわからずパニックも起きる。焦りとびっくりが大きすぎて悩んだ。産んでも育てられないのはわかりきっているから。なおさら焦る」子どもの頃に母親の再婚相手から暴力を受け、育児放棄にもあった。施設で何度も保護され、親族から性的虐待も受けた。二十歳を過ぎた頃から、親と連絡はとっていない。りかさん「どうしようかな。親も信用できないし、相談してもどうこうしてくれるわけではない」「助けも求めきれなかった」 お腹の子と一緒に死のうと思ったことも 突然の妊娠を相談できず、頼ったのがNPO法人「Babyぽけっと」の岡田代表だった。住むところや頼る人がいない妊婦たちに無料でシェルターを提供し、望まない妊娠で産まれた子を養子に出す支援をしている。りかさんは妊娠7か月になって、初めて病院に行ったという。りかさん「本当は(病院に)行かないといけないってわかっている。どういう状況か心配だった。どう説明したらいいか頭の中で理解しきれず、整理がつかず。助けも求めきれなかった」岡田さんのシェルターに辿り着いた時、手持ちのお金はほぼ無くなっていた。お腹の子と一緒に死のうと思ったこともあるという。「特定妊婦」10年前と比べ9倍以上に増加りかさん「支払いとかなんやかんやしたら手持ちが1万円ほどに。必死に1万でやりくりしている。食べていかないと子どもも育たない。生きられているのは、助けてもらったおかげだと思っている」りかさんのように、子どもを育てるのが難しく、出産前からの支援が必要な女性を「特定妊婦」という。貧困やDVに悩む女性、性暴力で妊娠したケースもある。特定妊婦に登録されると、自治体の家庭訪問などがある。特定妊婦は年々増えていて、10年前と比べて9倍以上の8000人余りに増加している。ただこれはあくまで行政が把握している人数で、氷山の一角に過ぎない。「お金・保険証・住所なくホームレス状態の妊婦」 次々と相談にNPO法人「Babyぽけっと」の岡田代表のシェルターにも悲痛な声が相次いでいる。NPO法人「Babyぽけっと」岡田卓子代表「親に秘密で、破水したってことで今入院するんですか?ホテルから救急車呼んだ方がいいですね」メールでも…「収入はゼロで育てられる環境もありません」「未受診で2日前に破水と出血があり救急で初受診」「相手と連絡がとれない」2023年に入って40人もの妊婦を受け入れてきた。岡田代表「お金・保険証・住所がなくホームレス状態の妊婦さん、言葉悪いけどそういう人が次々相談に来ます」「最後まで誰にも言えない…」が事件につながるケースも特定妊婦による事件も相次いでいる。福岡県大野城市では、特定妊婦に登録されていた母親が生後7か月の男の子を殺害したとして逮捕された。出産後も面談などを行っていたが、事件は防げなかった。さらに、神奈川県藤沢市で特定妊婦が出産後に当時2歳になる息子を暴行し死亡させ、逮捕されている。誰にも相談できずに出産し、母親が赤ちゃんを死なせてしまうケースも後を絶たない。岡田代表「(特定妊婦は)経済的に周りに迷惑をかけるとか、お金もないのにどうしようとか、色んなことがぐるぐる回ってくる。『最後まで誰にも言えない』とどこにも繋がらないと遺棄(事件)になってしまう」支援事業に関わる自治体は全国で約2割に留まるしかし、特定妊婦への支援には課題がある。民間団体に頼っている部分が大きく、行政として支援事業に関わる自治体は全国で2割ほどに留まる。岡田さんは、行政による支援を広げる必要性を訴える。岡田代表「(妊婦が)行政にも相談して色々行ったが、どこも駄目だったと。若いのだから頑張れと言われた。誰にも相談できない。フォローしてもらえない人を、やっぱり私たちがその分フォローしないといけない」2日後には我が子を養子に…4月末、無事に出産したりかさんを、岡田さんが出迎えた。予定日より早く、帝王切開での出産だった。りかさん「元気に産んであげられてよかった。うちができるのは元気に健康で産んであげることだから。それができてよかった」退院後すぐにシェルターに帰ってきた。2日後には養子に出すことになる我が子。母乳ではなくミルクをあげるのは、別れが辛くならないようにするためだ。それでも自分と似ているところが次々と目に留まる。りかさん「パーツパーツ全部私」NPO法人「Babyぽけっと」岡田卓子代表「眉毛がすごいな」りかさん「目もそうでしょ」娘との別れを前にした“お願い”とは赤ちゃんが眠りについたあと、りかさんは岡田さんと手続きを始めた。岡田代表「これは特別養子縁組に出しますという、意思確認の書類だから」精神的に不安定で、1人で育てていく自信が持てない。養子に出すしかなかったと、りかさんは言う。りかさん「子どもには不幸にさせたくない。この子のためにちゃんと育ててもらえる人の所に行った方がいい。産まれてきてくれてありがとうの感謝で預けるから」幼い頃に親から虐待を受けた影響もあるという。りかさん「親と同じこと(虐待)をするって考えたら恐怖じゃないですか。子どもにしてしまったらっていう考えを強く持って」娘との別れを前にして、りかさんは岡田さんにあるお願いをした。母子手帳のコピーだ。りかさん「産んだことを忘れたくない。どれだけ成長したか。どれくらい可愛がられているか気になる」娘との別れの時 あえて見送りはせず出産から9日。ついに娘との別れの時が来た。岡田代表「じゃあいくよ」りかさん「いってらっしゃい」りかさんは、あえて見送りはしないという。雨の中、赤ちゃんは出て行った。岡田さんが赤ちゃんを連れていった先には、新しい家族が待っていた。夫婦と6歳の長女、4歳の長男の4人暮らし。この2人も養子で迎え入れられている。育ての母(49)「可愛くて胸がいっぱいです」育ての父(53)「いよいよ3人目の父親になるので頑張ります」自宅で、初めての抱っこ。――初めて抱っこしてみてどうですか?育ての母「本当に可愛くて、上の子どもたちもこんなに小さかったかなと」家族全員笑顔がこぼれる。妹ができたと喜ぶ長女も。長女(6)「したい、抱っこ」育ての母「小さいから気を付けてね」育ての父「小さいな、可愛いな」長女「ちょっといま目が開いたよ」育ての母「家族が増えて本当に嬉しいと、顔見てしみじみと思った」なぜ養子縁組で子どもを受け入れたのか?育ての母「お母様から渡されたバトンだと思う」育ての母(49)「なかなか子どもができず40歳になって一旦諦めようと思ったが、お互いの両親が亡くなり、家族が亡くなる中で、やっぱり家族が欲しいという気持ちをお互いに話して」育ての父(53)「家族は何人いてもいい。我々も2人とも50歳近い。若いうちに子育てをもう少し頑張ってやってみたい気持ちもありました。子どもは1人2人ではなく、3人4人と多い方がいい。3人目を受けることは何もためらいもなく考えていました」夫婦は咲花(さやか)と名付けた。育ての母「この子らしい人生を歩んで花を咲かせてもらいたいなと思ってつけました」産みの親・りかさんについてはこう話す。育ての母「10か月間、大事にお腹の中で育ててくれてありがとうということと、子どもがいない私たちにご縁をいただいたことに対しては感謝の気持ちでいっぱいで、ありがとうという言葉をお伝えしたい。とにかく、大事に大事に育てていきたい。それが私たちの使命。お母様から渡されたバトンだと思うので、幸せな人生を歩んでもらいたいというのは一番に思ってます。お母様自身に」「とりあえず死に物狂いで働く」新たな生活へ一方、りかさんは、シェルターを出る準備をしていた。りかさん「ここにずっといても迷惑かけるだけ。やっていけるかなという心配がある」見送る前の娘を抱っこした写真は、大切に保存している。りかさん「これが(娘が新しい家族のもとに)行く前の写真。元気にしているかなと思っていたけど、集合写真見せてもらって、いいとこ行ったねと」手放したことは正しかったのか、何度も自分に問いかけた。いつか娘から「会いたい」と言われた時、笑顔で応えられるようにしたいという。りかさん「現時点で生活が成り立っていないので、とりあえず生活を成り立たせないと堂々と会えない。今の生活を立て直すのが一番。もう少ししっかりした状態で会って胸を張っておきたい。とりあえず死に物狂いで働く」りかさんはシェルターを後にし、新しい生活を歩み始めた。特定妊婦の支援にむけ「連携は必要不可欠」多くが民間に任されている特定妊婦の支援だが、福岡県では自治体との連携が進んでいる。県から委託を受ける施設。県が予算をつけ、特定妊婦が暮らせる住まいの提供ができるようになった。ママリズム 大島修二 所長「様々な機関と連携をとって初めて安全安心に出産させられる。連携は必要不可欠なものの一つ」この日、入所している妊婦から助産師が相談を受けていた。特定妊婦の支援をする「ママリズム」の助産師「お母さんが今一番聞きたいなとか、心配だなって思うことはどんなことですか?」入所している妊婦「心配?出産がどういう形になるのか」女性は、重いつわりに苦しむ中、パートナーに執拗に「働け」と強要され、逃げてきた。出産後は子どもを1人で育てていくという。入所している妊婦「1人で抱えなくていいのでありがたい。出産や今後の生活は不安ではあるが、ここで色々教えてもらったり、相談を受けてもらったり援助してもらえるので、安心感は大きい」2年前から行政と民間が連携することで相談件数も増えた。いまは匿名の相談も受け付けている。福岡県こども福祉課 犬束麻弥 主任主事「少し相談のハードルが下がったので、今までこちらがアプローチできなかった特定妊婦にも支援ができるようになった」育ての母「親も子も幸せになる道を選んで」産みの母との別れから3か月後。咲花ちゃんは新しい家族のもとですくすく育っていた。表情も豊かになり、寝返りもうてるようになった。長女も長男も咲花ちゃんのベッドで過ごすことが好きだという。妹を可愛がりながら一緒に成長している。育ての母「だんだん、さやちゃんの好きなことが分かってきた。お外に出るのが割と好きかな、お風呂が好きかなとか。本当に赤ちゃんのチカラはいつもすごいと思う。1人いるだけで家が明るくなる。幸せだなって言うのが一番」望まぬ妊娠で悩んでいる女性にかけたい言葉があるという。育ての母「家族の形は本当に色々で、色んな家族があっていい。それが受け入れられる世の中であって欲しい。家族は血縁よりも仲のいい家族が一番いい家族だと思う。安心して、悩んでいる方がいたら相談して、親も子も幸せになる道を選んでもらえたらいい」
我が子をあやしているのは20代の、りかさん(仮名)。1週間前に女の子を出産したばかりだ。
だが、りかさんは、この子を養子に出すと決めた。悩みぬいた末での決断だった。
りかさん(20代)「お金があって、相手の考え方もしっかりしていれば育てていたはず」
取材を始めたのは2023年3月。その時、りかさんは臨月を迎えようとしていた。
会社の同僚に望まぬ妊娠をさせられた。精神的に追い詰められ、職場にも行けなくなった。相手は逃げてしまい、居場所もわからない。
りかさん「どうしたらいいかわからずパニックも起きる。焦りとびっくりが大きすぎて悩んだ。産んでも育てられないのはわかりきっているから。なおさら焦る」
子どもの頃に母親の再婚相手から暴力を受け、育児放棄にもあった。施設で何度も保護され、親族から性的虐待も受けた。
二十歳を過ぎた頃から、親と連絡はとっていない。
りかさん「どうしようかな。親も信用できないし、相談してもどうこうしてくれるわけではない」
突然の妊娠を相談できず、頼ったのがNPO法人「Babyぽけっと」の岡田代表だった。
住むところや頼る人がいない妊婦たちに無料でシェルターを提供し、望まない妊娠で産まれた子を養子に出す支援をしている。
りかさんは妊娠7か月になって、初めて病院に行ったという。
りかさん「本当は(病院に)行かないといけないってわかっている。どういう状況か心配だった。どう説明したらいいか頭の中で理解しきれず、整理がつかず。助けも求めきれなかった」
岡田さんのシェルターに辿り着いた時、手持ちのお金はほぼ無くなっていた。
お腹の子と一緒に死のうと思ったこともあるという。
りかさん「支払いとかなんやかんやしたら手持ちが1万円ほどに。必死に1万でやりくりしている。食べていかないと子どもも育たない。生きられているのは、助けてもらったおかげだと思っている」
りかさんのように、子どもを育てるのが難しく、出産前からの支援が必要な女性を「特定妊婦」という。
貧困やDVに悩む女性、性暴力で妊娠したケースもある。
特定妊婦に登録されると、自治体の家庭訪問などがある。特定妊婦は年々増えていて、10年前と比べて9倍以上の8000人余りに増加している。
ただこれはあくまで行政が把握している人数で、氷山の一角に過ぎない。
NPO法人「Babyぽけっと」の岡田代表のシェルターにも悲痛な声が相次いでいる。
NPO法人「Babyぽけっと」岡田卓子代表「親に秘密で、破水したってことで今入院するんですか?ホテルから救急車呼んだ方がいいですね」
メールでも…
「収入はゼロで育てられる環境もありません」「未受診で2日前に破水と出血があり救急で初受診」「相手と連絡がとれない」
2023年に入って40人もの妊婦を受け入れてきた。
岡田代表「お金・保険証・住所がなくホームレス状態の妊婦さん、言葉悪いけどそういう人が次々相談に来ます」
特定妊婦による事件も相次いでいる。
福岡県大野城市では、特定妊婦に登録されていた母親が生後7か月の男の子を殺害したとして逮捕された。出産後も面談などを行っていたが、事件は防げなかった。
さらに、神奈川県藤沢市で特定妊婦が出産後に当時2歳になる息子を暴行し死亡させ、逮捕されている。
誰にも相談できずに出産し、母親が赤ちゃんを死なせてしまうケースも後を絶たない。
岡田代表「(特定妊婦は)経済的に周りに迷惑をかけるとか、お金もないのにどうしようとか、色んなことがぐるぐる回ってくる。『最後まで誰にも言えない』とどこにも繋がらないと遺棄(事件)になってしまう」
しかし、特定妊婦への支援には課題がある。
民間団体に頼っている部分が大きく、行政として支援事業に関わる自治体は全国で2割ほどに留まる。
岡田さんは、行政による支援を広げる必要性を訴える。
岡田代表「(妊婦が)行政にも相談して色々行ったが、どこも駄目だったと。若いのだから頑張れと言われた。誰にも相談できない。フォローしてもらえない人を、やっぱり私たちがその分フォローしないといけない」
4月末、無事に出産したりかさんを、岡田さんが出迎えた。
予定日より早く、帝王切開での出産だった。
りかさん「元気に産んであげられてよかった。うちができるのは元気に健康で産んであげることだから。それができてよかった」
退院後すぐにシェルターに帰ってきた。
2日後には養子に出すことになる我が子。母乳ではなくミルクをあげるのは、別れが辛くならないようにするためだ。
それでも自分と似ているところが次々と目に留まる。
りかさん「パーツパーツ全部私」
NPO法人「Babyぽけっと」岡田卓子代表「眉毛がすごいな」
りかさん「目もそうでしょ」
赤ちゃんが眠りについたあと、りかさんは岡田さんと手続きを始めた。
岡田代表「これは特別養子縁組に出しますという、意思確認の書類だから」
精神的に不安定で、1人で育てていく自信が持てない。養子に出すしかなかったと、りかさんは言う。
りかさん「子どもには不幸にさせたくない。この子のためにちゃんと育ててもらえる人の所に行った方がいい。産まれてきてくれてありがとうの感謝で預けるから」
幼い頃に親から虐待を受けた影響もあるという。
りかさん「親と同じこと(虐待)をするって考えたら恐怖じゃないですか。子どもにしてしまったらっていう考えを強く持って」
娘との別れを前にして、りかさんは岡田さんにあるお願いをした。母子手帳のコピーだ。
りかさん「産んだことを忘れたくない。どれだけ成長したか。どれくらい可愛がられているか気になる」
出産から9日。ついに娘との別れの時が来た。
岡田代表「じゃあいくよ」
りかさん「いってらっしゃい」
りかさんは、あえて見送りはしないという。
雨の中、赤ちゃんは出て行った。岡田さんが赤ちゃんを連れていった先には、新しい家族が待っていた。夫婦と6歳の長女、4歳の長男の4人暮らし。この2人も養子で迎え入れられている。
育ての母(49)「可愛くて胸がいっぱいです」
育ての父(53)「いよいよ3人目の父親になるので頑張ります」
自宅で、初めての抱っこ。
――初めて抱っこしてみてどうですか?
育ての母「本当に可愛くて、上の子どもたちもこんなに小さかったかなと」
家族全員笑顔がこぼれる。妹ができたと喜ぶ長女も。
長女(6)「したい、抱っこ」
育ての母「小さいから気を付けてね」
育ての父「小さいな、可愛いな」
長女「ちょっといま目が開いたよ」
育ての母「家族が増えて本当に嬉しいと、顔見てしみじみと思った」
なぜ養子縁組で子どもを受け入れたのか?
育ての母(49)「なかなか子どもができず40歳になって一旦諦めようと思ったが、お互いの両親が亡くなり、家族が亡くなる中で、やっぱり家族が欲しいという気持ちをお互いに話して」
育ての父(53)「家族は何人いてもいい。我々も2人とも50歳近い。若いうちに子育てをもう少し頑張ってやってみたい気持ちもありました。子どもは1人2人ではなく、3人4人と多い方がいい。3人目を受けることは何もためらいもなく考えていました」
夫婦は咲花(さやか)と名付けた。
育ての母「この子らしい人生を歩んで花を咲かせてもらいたいなと思ってつけました」
産みの親・りかさんについてはこう話す。
育ての母「10か月間、大事にお腹の中で育ててくれてありがとうということと、子どもがいない私たちにご縁をいただいたことに対しては感謝の気持ちでいっぱいで、ありがとうという言葉をお伝えしたい。とにかく、大事に大事に育てていきたい。それが私たちの使命。お母様から渡されたバトンだと思うので、幸せな人生を歩んでもらいたいというのは一番に思ってます。お母様自身に」
一方、りかさんは、シェルターを出る準備をしていた。
りかさん「ここにずっといても迷惑かけるだけ。やっていけるかなという心配がある」
見送る前の娘を抱っこした写真は、大切に保存している。
りかさん「これが(娘が新しい家族のもとに)行く前の写真。元気にしているかなと思っていたけど、集合写真見せてもらって、いいとこ行ったねと」
手放したことは正しかったのか、何度も自分に問いかけた。いつか娘から「会いたい」と言われた時、笑顔で応えられるようにしたいという。
りかさん「現時点で生活が成り立っていないので、とりあえず生活を成り立たせないと堂々と会えない。今の生活を立て直すのが一番。もう少ししっかりした状態で会って胸を張っておきたい。とりあえず死に物狂いで働く」
りかさんはシェルターを後にし、新しい生活を歩み始めた。
多くが民間に任されている特定妊婦の支援だが、福岡県では自治体との連携が進んでいる。
県から委託を受ける施設。県が予算をつけ、特定妊婦が暮らせる住まいの提供ができるようになった。
ママリズム 大島修二 所長「様々な機関と連携をとって初めて安全安心に出産させられる。連携は必要不可欠なものの一つ」
この日、入所している妊婦から助産師が相談を受けていた。
特定妊婦の支援をする「ママリズム」の助産師「お母さんが今一番聞きたいなとか、心配だなって思うことはどんなことですか?」
入所している妊婦「心配?出産がどういう形になるのか」
女性は、重いつわりに苦しむ中、パートナーに執拗に「働け」と強要され、逃げてきた。出産後は子どもを1人で育てていくという。
入所している妊婦「1人で抱えなくていいのでありがたい。出産や今後の生活は不安ではあるが、ここで色々教えてもらったり、相談を受けてもらったり援助してもらえるので、安心感は大きい」
2年前から行政と民間が連携することで相談件数も増えた。いまは匿名の相談も受け付けている。
福岡県こども福祉課 犬束麻弥 主任主事「少し相談のハードルが下がったので、今までこちらがアプローチできなかった特定妊婦にも支援ができるようになった」
産みの母との別れから3か月後。咲花ちゃんは新しい家族のもとですくすく育っていた。
表情も豊かになり、寝返りもうてるようになった。
長女も長男も咲花ちゃんのベッドで過ごすことが好きだという。妹を可愛がりながら一緒に成長している。
育ての母「だんだん、さやちゃんの好きなことが分かってきた。お外に出るのが割と好きかな、お風呂が好きかなとか。本当に赤ちゃんのチカラはいつもすごいと思う。1人いるだけで家が明るくなる。幸せだなって言うのが一番」
望まぬ妊娠で悩んでいる女性にかけたい言葉があるという。
育ての母「家族の形は本当に色々で、色んな家族があっていい。それが受け入れられる世の中であって欲しい。家族は血縁よりも仲のいい家族が一番いい家族だと思う。安心して、悩んでいる方がいたら相談して、親も子も幸せになる道を選んでもらえたらいい」