自民党・秋本真利衆院議員の汚職疑惑噴出を喜んだのは、まさかの「身内」である自民党千葉県連だった–。いったい、なにがあったのか。
秋本氏は風力発電会社「日本風力開発」から約3000万円を受け取り、政府が進める洋上風力発電事業に同社が参入しやすくなるような国会質問をして便宜を図ったとして、収賄容疑で事務所の家宅捜索や任意の事情聴取を受けている。
この事件は、資金の隠れ蓑に競走馬の馬主組合を利用していた疑いでも注目を集めている。そのうえ、日本風力開発の塚脇正幸社長が贈賄容疑を認める供述をしていることも判明しており、立件は時間の問題ではないかと見られている。
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捜索を受けて秋本氏は8月5日、逃げるように自民党を離党したが、このことを最も喜んだのは、意外にも、身内である千葉県連だった。
自民党関係者は語る。
「秋本氏はもともと横柄な態度を取ることで有名で、秘書や官僚、記者からも嫌われていた。身内からのリークは後を絶たず、週刊文春には地元事務所が違法建築と見られることや、再エネ関係者からの献金など、検察の捜査が本格化する前からさまざまな疑惑が報じられてきた。県連では石井準一参院議員と犬猿の仲であることは周知の事実だ」
実際に、秋本氏の地元である千葉市若葉区で2021年3月に行われた千葉市議補選では、自民党が公認した新人候補に対して、石井氏が自身の元秘書をぶつけている。
選挙は秋本氏が応援した公認候補が勝利したが、県連内では大きなしこりが残った。
その影響もあってか、同年10月に行われた衆院選では、秋本氏が初めて小選挙区で敗北。比例復活に甘んじる結果となった。
関係者は「自民党の一部では秋本氏から票を引き剥がすような動きもあった」と打ち明ける。
そんな分裂状態だったから、汚職疑惑を受けて問題児が党を去ることを、県連はむしろ歓迎しているというわけだ。
一方で複雑な心境なのは立憲民主党だ。
2021年衆院選では奥野総一郎議員が千葉9区で秋本氏を降すことができたが、立憲関係者は「相手が秋本氏だったため自民の一部を味方にして有利な戦いをすることができた。しかし、彼の離党によってこれまで築いた関係がリセットされるかもしれない」と心配する。
もちろん、秋本氏が立件されれば、彼が引き起こした「政治とカネ」の問題は自民党に逆風に働くはずだ。
しかし、今年4月に実施された千葉5区補選も、衆院議員だった自民党の薗浦健太郎氏が政治資金パーティーの収入を収支報告書に過少記載し、政治資金規正法違反で略式起訴されるという「政治とカネ」の問題で辞職したことをきっかけに行われたにもかかわらず、結果は自民党が擁立した英利アルフィヤ氏が勝利を収めることとなった。
関係者は「衆院選の時期が遅くなればなるほど、秋本氏の事件の印象が薄くなり、自民党への逆風は弱くなってしまうかもしれない。そうすると、今回の秋本氏の件が自民と立憲どちらに有利に働くか分からなくなってくる」と漏らす。
さらに不安を掻き立てるのは8月27日に行われた、千葉9区の一部を成す八街市議選の結果だ。
定数20の市議選に24人が立候補したが、立憲が唯一公認した候補者はたった507票しか獲得できず、最下位に近い23番目で落選するという事態に陥った。
立憲の県連関係者は「八街市はもともと保守層が多い地域ではあるが、それでも政権批判票は一定数あり、野党の看板を掲げていれば票がある程度集まるはずだった。今回の結果は、立憲という看板が予想以上に機能しなくなっていることを突き付けている」と危機感をあらわにする。
秋本氏の汚職疑惑噴出、自民党離党によって大きく情勢が変わる千葉9区。
それは自民と立憲、どちらに有利に働くことになるのか。
ただ、忘れてはいけないのは、薗浦氏に続き秋本氏と、自民党千葉県連に所属していた国会議員が「政治とカネ」の問題を次々と引き起こしているという事実だ。
新しい候補を擁立すれば、これまでの議員の悪行は不問として良いのか。
千葉県民の良心も問われる選挙となるだろう。